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第51話 『ローザ・ディフェイン その2』





 ――――ギゼーフォの森。


 驚くべきことに、私は今日この森で、部下101名と共にキャンプする事になった。先程、森に入る時に、チラッとゴブリンの集団が見えたが、こちらの物々しい数の騎士団を見るなり、恐れおののいて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。うーーん、ほんとなぜ、こんな事になってしまったんだ。



「ローザ団長! 薪を拾っておきました!」


「ああ。すまない」


「ローザ団長! 焚火準備オッケーです」


「ああ。ありがとう」


「ローザ団長! 水を汲んでおきました!」


「ああ。気を遣わせてすまな……って、全然不便じゃないしー!!  こんなの全然不便じゃないしー!! キャンプってもう、この、あのさー!! もっと不便を楽しむものなのだよ!!」



 私は、部下たちにキャンプとは、なんたるものなのかっていう事を、くどくどと説明した。しかしその際中、私が部下たちに熱く語って聞かせている内容は、かつて私がアテナから教わった、キャンプの素晴らしさや醍醐味であるという事に気がついた。



 …………ああ、またアテナやルシエルと、心躍るような冒険に出てキャンプをしたい。二人とも今も変わらず冒険やキャンプをしているんだろうな。考えると、羨ましい。



 ――――向こうの方で、何か盛り上がっているようだ。覗きに行って見るとそこには、仕留められたビッグボアが3匹も転がっていた。どうやらドリスコが部下数人を率いて食糧の調達に行って来たようだ。…………そう言えばルシエルもちょっと目を離すとすぐ狩りにでかけていたな。


 私は、再び自分のテントへ戻った。


 暫くすると、何人かが私のテントに押し寄せてきた。



「ローザ団長。ドリスコ副長達が仕留めたビッグボアの肉です。こんがり焼けています。味見して頂けますでしょうか!」



 見ると、物凄く美味しそうな骨付き肉が湯気を立てていた。食欲をそそるかおり。



「ほお。こいつは美味そうだ。頂こう」



 ガブリッ……モッチャモッチャ……



「美味い!! これは、美味いなあ! 味付けに甘ダレのようなものを使用しているな。ライル、おまえが作ったのか?」


「はい。自分の実家が、一応酒場を経営しております。騎士団の仕事が休みの時は、店を手伝ったりもするので、自分も多少は料理の心得がありまして――それにうちは料理に定評のある店なので、それなりに美味しいものを作れます」


「なるほど。それはいい。おまえのような者が我が騎士団にいると、私は美味い物が定期的に食べれそうだな。フフフ」



 ライルは、俯いて頭を摩った。今度は、別の所から声があがった。



「それはそうと、ズバリお聞きしたいのですが、ローザ団長はアテナ王女と親しい間柄なのですか?」


「うっ……え? なに?」



 全員が注目している。…………うーーん。話して良いものか。



「えっと……それはなあ…………」



 私は、部下たちが気になって仕方がない、この王国の第二王女との間柄を、できるだけ波風立たせないように注意して話した。


 エステカルテの街での王女との出会い。その街でアテナ王女を付け回していたストーカーを私が撃退して、アテナ王女を救いその後も鉄壁の護衛として付き従った事。それで、絶大な信頼を得た事。エステカルテのギルドマスター、バーン・グラッドからの直々の依頼で、アテナ王女と息を合わせた絶妙な攻撃で、とてつもなく凶暴なマンティコアを討伐してみせた事。



「ローザ団長とアテナ王女のお二人で、そんな凶暴なマンティコアを倒したのですか?」


「うっ……いや、他に仲間のエルフがいたが……ルシエルって言って、私の親友が……だから正確には3人かな?」


「すげーーー。じゃあ、ローザ団長は、その親友のエルフと二人で、旅する王女を守り切って陛下のもとへ無事に送り届けたのですね! それで大出世されたんですもんねー!」


「え? う……うん」



 私と、アテナが親友という事は立場上伏せておかなければならない。当の本人からも、流石にまずいかもって止められているし。だから若干、本来のあらましと話が異なるかもしれないが、この際しょうがあるまい。


 ――――それから何時間も時を忘れ、部下たちと焚火を囲んで更に王女の話で盛り上がった。



「ローザ団長!」


「ん? ドリスコか。どうした?」


「今宵は、皆遅くまで話に花を咲かせたそうですからな。酒を調達して参りました」


「おいおい。我々は、明日も騎士団の任務が…………」



 ワーーーーーーッ



 歓声があがった。酒は、もう全員に配られ、手に入れた肉などと一緒に楽しんでいる。あちらこちらで、笑い声があがる。



「うーーーん。もう止められんな」


「まあまあ、ローザ団長。ローザ団長も一杯いかがですかな」


「そう言えば、ドリスコ。お前とは、酒を飲んだ事が無かったな。ならば、たまには付き合ってやってもいいかもしれんな。はっはっは」



 日頃、皆、激しい訓練に耐えて厳しい任務についている。時には、皆でこうやって酒を酌み交わし肉を貪るのも必要な事かもしれんな。


 私は、ドリスコだけでなく、他の部下からも酒を勧められるままに飲んだ。


 ――――だが、それがいけなかった。



「ローザ団長……そろそろお開きにしませんか?」


「やんやんやん!! もっと、飲むのーーー!」


「おい! お前たち、ローザ団長をテントへ運んで差し上げろ」


「ちょっと、やめてーー。運ばないでよーー。ドリスコ! あなた達もわたしと一緒に、まだ飲みなさいよー」


「いや……その……団長」


「やーーーん!!」


「ど……どうします? 副長?」


「怯むな!! 訓練だと思え!! 何も耳をかさずにテントへ運び込め! そして、寝かせろ」


「やんやんやんーー!! ちょっと、みんなーーー、ドリスコーー!! やめてってばーーー」



 完全に酔っぱらった私を部下たちは、テントへ運びこんだ。ええいっ! 離せい!!


 テントの中で寝かされ毛布をかけられると、私は一人になった。…………飲みすぎた。もともとは、今日はこのギゼーフォの森でソロキャンのつもりだったのに……いつの間にやら、こんな大所帯になっているなんて。


 テントの天井部分が回っている。酔っているなー。もう寝よう。


 目を閉じようとしたら、テントの外が一瞬気になった。まだ外で、後片付けをしているのか起きている部下たちがいる。その影が見える。


 そう言えば、こんな光景は何度もあった。テントで寝ようとするとアテナの影が動いていた。朝起きると、ルシエルの影があって、そこから「おはよー」って言ってテントの中に顔を突っ込んできていたっけ。フフフ。


 長期休暇も認められれば、私もまたあの二人のあとを追いかけて、冒険したいものだ。


 私は、そんな一緒に旅をした仲間の事を考えつつも、眠りについた。


 





 ――――翌朝、私は部下たちに不自然に気遣われた。なぜかと考えると、昨晩の事を思い出した。



 …………やんやんと言って駄々をこねる自分。それを見て、ドン引く我が部下達。



「うぐぐぐぐ…………」



 そして私は発狂した…………








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ライル 種別:ヒューム

クラインベルト王国、ローザ率いる『青い薔薇の騎士団』の団員。実家が酒場を経営していてライル自身も子供の頃から色々と手伝っているので、料理ができる。現在でも、休日は店を手つだっている。その為、料理には非常に自信があり団員の中では料理人としてのポジションを確保しており、今回も自分お手製の甘ダレを用意してきた。


〇ゴブリン 種別:魔物

小鬼の魔物。常に何匹かか群れで行動している場合が多い。冷酷残忍な性格で、標的を見つけると襲い掛かるが、圧倒的優位な場合、いたぶるというような事もする。大きさは人間の子供程度だが、棍棒や剣、斧、槍、弓矢など装備している事がほとんどで、油断できない。冒険者が天敵ではあるが、自分達が優位であると思うと容赦なく冒険者にも襲い掛かる。


〇ビッグボア 種別:魔物

猪の魔物。猪よりも凶暴で大きい身体をしていて、逆立っている固い毛が特徴。味は猪に非常に似ていて脂も多くとても美味しい。立派な牙があり、好戦的で興奮しやすい性格の為、ビッグボアを狩るのであればそれなりの準備と注意が必要。突進されて、命を落とした者も少なくはないのだ。だけど、とっても美味しいんだよね。その大きな骨付き肉をこんがり焼くと、マンガ肉のようでそういうワイルドな料理を好む者にとっては非常にそそられる。


〇マンティコア 種別:魔物

大きな獅子の身体を持ち、鬼のような頭を持つ。牙や爪もも大きくて、その一撃で冒険者の命を簡単に奪う。噛みつくと、肉を引き裂き骨をかみ砕く。獰猛な魔物で、森や遺跡などのダンジョンに生息している。口からは、鉄をも溶かす高熱のブレスを吐く。ローザは、以前アテナとルシエルと共にパーティーを組んでこのマンティコアの特に狂暴な個体をルリランの森で討伐した。しかし、マンティコアを仕留めたのはアテナでローザは飛ばされて草場に頭から刺さるという恥ずかしい失敗をしてしまった。やんやんやーん!!


〇ローザとアテナ王女の関係

ローザ率いる『青い薔薇の騎士団』の団員の中では、普通に知られていているローザがアテナ王女にくっついていった件に関しての事。団員にしてみれば、自分達の信頼厚い団長がこの自分達の忠誠を誓う王国の王女と友人なのではと興味津々。そうであれば、とんでもなく凄いと思っている。だが噂は、多少ローザよりに色付けされて広がっているようだ。

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