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第508話 『コーヒーショップ その2』



 黒髪ポニーテール。眼鏡のお姉さんは、頬を軽くかいて言った。



「アハハー。色々と見たいのに、店員がじーーっと見ていても落ち着かないですもんね。私、ここの珈琲専門店のオーナーの、アン・サーウェイと申します。お買い物のお邪魔をしてはいけませんので、あっちの方にいますねー。何かあればお気軽にお声掛けくださいね」


「ありがとう、サーウェイさん」


「アンと呼んで頂いて結構ですよ」


「ありがとう、アン」



 アンはそう言って私だけでなく、ルキアとルンにも微笑みかけると奥の方へ移動した。



「優しい感じの人ですね、アンさん」


「優しいーー」



 思わずルキアとルンに、お商売だからねと言いかけて言葉を呑み込んだ。だめだめ、どうも商人=ミャオというイメージができあがってしまっている。モルトさんも結構、ザ・商人って感じだし……私の中の商人のイメージってそんな感じにできあがってしまっている。


 ううん、でもでもガンロック王国で知り合ったナジームをイメージすれば、商人だって利益だけに囚われている訳ではないと思えるかな。……よし、商人=ナジームと思おう!


 そんな何でもない事に考えを巡らせている間に、ルキアとルンはまじまじと店内にある商品を物色し始めた。



「何これ、素敵なガラス玉。もしかして、占いのアイテムなのかな? これがあれば、ルンでも占いできるかもしれないんだけど!」



 ルンが呟いた。見ると、本当に商品棚にはガラス玉のようなものが飾られていた。確かに占い師の使用するアイテムかもしれないと言えば、見えなくもない。だけど、このアイテムの正体を私は知っていた。王宮にもあったから。



「ルン、これも珈琲を入れる為のアイテムなんだよ。うーーん、アイテムっていうよりは装置とか器具って言った方がしっくりくるのかな?」


「これで、珈琲を入れるの?」


「うん。そうだよ。これは、サイフォンっていうの。このガラス玉のような器は、フラスコと言ってこの装置を使って珈琲を入れるとここに珈琲が溜まるんだよ。最初は、フラスコにはお湯を入れてるんだけどね。入れたら、専用のアルコールランプを使ってフラスコに入ったお湯を更に沸騰させるの。すると、沸騰したお湯は、グラグラして蒸気圧で装置の上にあるロートに送られて、事前にロートにセットしてある珈琲豆と一緒になって美味しい珈琲になる。そこからまた装置の下の、お湯があったフラスコに戻ってきて溜まればホットコーヒーの出来上がり」


「へえーーー。凄いね。魔法みたいな装置なんだね」



 ルンには難しそう。私もサイフォンで珈琲を入れろと言われれば入れられるけど、説明していてこんがらがっちゃった。ルンの言った、魔法みたいな装置っていうのが、一番(まと)を得ていて解りやすい説明だなと思って笑っちゃった。


 ルンとの話をルキアも聞いていたようで、こちらに近づいてきた。手には可愛らしいコーヒーカップを持っている。お気に入りに、出会ったのかな。



「それで、その装置を買うんですか? もしその装置で珈琲を落とすなら凄く面白そうです」


「うーーん、確かにペーパーやネルを使って珈琲を入れるハンドドリップもいいんだけど、サイフォンはサイフォンで面白みがあると思うんだよね。じっくりと蒸気圧でポコポコと音を立てさせて珈琲を落とす様も見ていて凄く癒されるし、お洒落で凄く雰囲気があるしね」


「じゃあ……」


「でも、明日の目的もそうだけど、キャンプで飲む珈琲だからね。サイフォンはちょっとアレかな。買ったとしてもガラス素材が沢山使用されているから簡単な事で破損させそうだし、かさばるからね。だから、今のところは見送りかなー」


「そうですかー。ちょっと残念です。でも、言われてみればアテナの言う通りだと思います」


「フフフ。それより、その手に持っている可愛いコーヒーカップ」


「あ、はい! 凄く可愛いと思いませんか?」


「可愛いと思う。でも、それはデミタスカップだね」


「デ、デミタ……」


「デミタスカップ。通常のコーヒーカップの半分の量が入るカップなんだけど……実際に計ってみればもう少し少ないかな。つまりそのカップは、食後のお口直しに飲むデザートコーヒーや、エスプレッソみたいな濃い珈琲をキュって一気に飲んだりする時に使うカップだね。あとは、皆で飲もうって時やお店などで一度に大量に珈琲を落とす場合に、味見するのに使うんだよ」



 説明していると、ルキアの私を見る目がうるうると輝きだした。うう、ま、眩しい!! なんて曇りのない(まなこ)


 珈琲の知識があって良かった。ノクタームエルドを旅した時に、ドワーフの王国のベップさんとユフーインさんの経営している宿に皆で宿泊した時は、ルキアと温泉卓球の勝負をして変な汗をかいてしまった。


 でも、今度の珈琲知識に関してはルキアが頼れるお姉さんとしてアピールできそう。



「す、凄いですね。流石アテナです。珈琲の事も詳しいんですね」


「う、うん。まあね、ハハハハ。でも、珈琲って意外とキャンプと相性がいいものだからね。私に剣術や体術、キャンプの魅力を教えてくれた師匠も珈琲に拘りのある人だったから」


「そうなんですね。それじゃあ、このカップちょっと小さいですね」



 少しがっかりするルキア。よほど、この自分で選んだカップをいいと思ったのだろう。欲しいなら買ってもいいとは思うけれど……っあ! 


 私はいいものを見つけた。さっきルキアがいた辺りにそれを見つけた。



「ルキア! ほら、あれ!」


「え? ああ! 同じカップ!」



 正確には同じカップでは、なかった。大きさが違う。つまり同じデザインで、同じ形状のカップだけどルキアが持っているデミタスカップの通常サイズの物を見つけたのだ。


 カップには、可愛い花の絵柄が描かれていたけど、よく見ると……それはカルミアの花だと気づいた。


 カルミア……なるほどね。



「私、このカップ買いたいです! いいですよね」


「もちろん。それじゃ、私も買わなきゃだから……ルキアは続けてコーヒーサーバーとかドリッパーとかも見て選んでくれる?」


「はい! ドリッパーは、コナリーさんのお店で見たような陶器製のものでいいんですよね?」


「そうね。でも、とりあえずはルキアがいいと思う物を選んでみて。ショッピングも楽しまないとね」

 


 そう言って私達は、1時間以上もアンのお店にいた。ルンもはしゃいでいたけど、流石に長時間となると途中で少し疲れたような様子を見せる。


 すると、すぐにアンが駆け寄ってきてルンを店内の椅子に座らせてジュースと甘いお菓子を食べさせてくれた。


 更にアンは、ルンやルキアだけでなく私にも同様に美味しい珈琲とお菓子を出してくれた。


 ううーーん、なんていい街なんだろう。ブレッドの街の治安がいい理由、それをなんとなく悟ってしまった。





――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アン・サーウェイ 種別:ヒューム

ブレッドの街で珈琲専門店を営む黒髪ポニーテールのお姉さん。珈琲や紅茶など大好きで、それらを美味しく楽しめる事ができる道具やカップなどを販売している。ご近所さんであるコナリー夫婦とは仲が良く、普段から親交も厚い。

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