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第502話 『いい匂いの正体は、何かな?』



 ブレッドの街へ到着した。街へ入り、大通りの脇に馬車を停車させるとミャオは言った。



「それじゃあ、ここからは自由行動ニャ。ニャーはこの馬車に積んでいる商品を売り捌く為に、知り合いの商人の所へ行かなくちゃニャらニャいんニャ。時間もかかるかもだし、待たせるのもあれニャから、皆も思い思いに過ごして欲しいニャ」



 確かにミャオの言う通りだと思った。なぜなら、今ここには私、ミャオ、クウ、ルン、シェリー、ルシエル、ルキア、ノエル、マリン、カルビがいる。その10人全員で、ミャオの取引先へ押し掛けるというのも、ありえない話。物々しいし、先方さんもきっと驚くに違いない。


 ミャオの仕事の邪魔をしないようにするには、それが一番だと思った。すると、真っ先にマリンが馬車を降りて言った。



「いい考えだね。この人数でミャオについて行っても邪魔するだけだしね。それじゃボクはちょっとこの街の本屋にでも行ってくるよ。街なら当然本屋の一軒や二軒はあるだろうからね」


「本屋ならあるニャ。ニャニャ! あそこに大きな建物が見えるかニャ。あそこは、この街で一番大きな宿屋ニャ。馬車も止めるスペースがあるんニャけど、今日はあそこに泊まるから、これから自由行動して夜になったらあの宿屋で合流ニャ」



 ルシエルも馬車から飛び出す。



「よっしゃ。それなら、オレもちょっくら色々見てくるぜ。どうせオレは、商売とかそういうのは解んないし、ミャオと一緒に行っても何の助けにもなれなさそうだしな。ハハハ。それで、飯はどうすんだ?」


「飯も各自でいいんじゃないかニャ。宿代はニャーが出すから、夜になったら各自でご飯食べてあの宿にくればいいんニャ」


「ふへへ! そうかそうか、りょーかい!! それじゃ、早速オレは何か腹ごしらえしをしに行ってくるわー!! それじゃあまた後でなー!!」


「ちょ、ちょっと待て、ルシエル!! 何か食いにいくなら、あたしも行く!!」



 ノエルもそう言って、ルシエルの後をついていってしまった。さて、どうしようか。私は、クウとルンを見つめる。



「クウ、ルン。良かったらこれから私とお茶しない? この街に来たら、お茶するっていうのが一般的なんだよ。それとこの街は、ケーキも美味しいって評判だからね。行かない訳にはいかないよね」


「ケ、ケーキ!! いくーーー!!」



 ケーキと聞いて声を張り上げるルン。しかし、なぜかクウはとても困った表情をしている。なぜだろう? その理由を、ルキアは知っているようだった。



「ねえ、クウ。クウはミャオさんと一緒に行って取引の勉強をしたいんでしょ」


「え、ええ。でも、ルンを一人で行かせられないし」



 なるほど、そう言う事か。それなら……


 何か言おうとしたら、ルキアが続けてクウに言ってくれた。



「一人じゃないよ。私もいるしアテナもいるから。それにカルビも」


 ワウッ


「だからルンの事は心配しないで、クウはミャオさんと行ってきて。それでまた夜に宿で会おうよ」


「……ありがとう、ルキア。本当にルキアはアテナさんと一緒に旅に出て、凄く頼りになるようになったんだね」


「う、うん。まだ失敗もするけど、それでもちょっとは成長したかな……えへへ」


「それじゃ、ルキアに任せる。ルン、ちゃんとルキアとアテナさんの言う事を聞いてね」


「はーーい。それじゃアテナ、ルキア、ケーキ食べに行こうよ! ルン、結構食べられると思うよ」


「はいはい! ちょっと待って」


「っもう、ルンったらー」


「じゃあ、いってらっしゃいニャーー」


「行ってきます。また後でね、ミャオ」



 馬車にミャオとクウ、シェリーの3人を残して私はルキアとルン、カルビを連れてブレッドの街を歩き始めた。


 こんな感じで辿り着いた街で、仲間内(なかまうち)でそれぞれ自由に行動していると、あのドワーフの王国での事を思い出す。


 あの時私は、皆と別れて直ぐにジボールに出会ったっけ。


 ……ジボール。フフフ、皆どうしてるかな。自由行動もこれはこれで、また思いがけない出会いがあったり、楽しかったりするよね。


 街には、所々にお店が建ち並んでいた。なんとなくクラシカルで落ち着いた感じのお洒落なお店が多い。


 猫と狸の可愛い獣人の少女二人と、子ウルフのカルビを連れて、ゆったりと落ち着いた街を歩くのも癒されるなあと思った。ドワーフの王国では、かなり大変な事になったしね。ちょっと位、羽を伸ばしたい。


 思いを巡らして目を細めていると、急にルキアが鼻をくんくんとさせる。そして、私の方を振り返った。



「アテナ! な、なんかこの街の中、物凄くいい匂いがしませんか? な、なぜでしょう?」


「フフフ。なんでだと思う?」


「な、なんででしょうか?」



 私の質問にルキアは、街の中をきょろきょろと落ち着き無く見回しながら歩く。でも、いい匂いの正体をつかめない様子。


 私は、あちらこちらと必死になって答えを探している猫娘の後ろ頭と三角の耳を集中して見つめていた。なんて、可愛いんだろうって。勿論そんなに観察されているなんて、ルキア本人は知るよしもない。


 それからも歩いている間、ずっといい匂いの正体を探すルキア。するとついに、ルンが指をさして声をあげた。



「ルン、いい匂いの正体解ったよ! あの家からもあの家からも、あの向こうの家からもするーー!」



 ルンの指した家というのは、全てお店だった。そう――喫茶店。



「正解! よく解ったね、ルン。このブレッドの街はね、いくつもの珈琲好きが集まってできた街らしくて、街中にいくつもの喫茶店があるんだよ」


「わーーい、やった! 当たった!」


「凄いルン! よく当てたね。この街に入ってから、ずっと漂って来ているいい匂いの正体は、珈琲の香りだったんですね」


「そうね。それと、紅茶もあるのかな。美味しいパンとかクッキーとか焼いている匂いも混ざっているかも」



 ぐーーーーーーっ



 そんな話をしていると、私もルキアもルンもお腹が鳴った。



 ワウワウッ!!


「あっ! カルビがいいお店をみつけたみたい。それじゃ、折角こんないい街に来たんだから、早速お店に入ってケーキを食べてお茶しようか!」


「やったー!! わーーい、アテナ大好き!!」


「わ、私だってアテナが大好きですよ!!」



 可愛い猫娘と狸の少女にモッテモテの私。フフフ。たまには、こうしてのんびりと落ち着いた街を歩いて楽しむのもいいものだと思った。


 でも、天気は相変わらずはっきりとしないお天気だった。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ブレッドの街 種別:ロケーション

クラインベルト王国にある街。エスカルテの街からは近い場所にある。世界でも有数の珈琲の街。喫茶店とコーヒーの道具など扱った専門店が沢山ある街。街にいても視界が見えなくなるほどの霧が発生する土地でもあるが、この環境でないと育たない珈琲豆もある。街は常に珈琲とパン、それにケーキのいい香りに溢れている。

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