第50話 『ローザ・ディフェイン その1』 (▼ローザpart)
――――ギゼーフォの森近く、草原地帯。
私は、総勢100名の部下を50対50の人数に分けて、敵味方に分けて布陣させた。
そう。今からこの草原地帯で、我が『青い薔薇の騎士団』の精鋭のみ100名の戦闘訓練が行われるのだ。
私は、まず片側50名のもとへ馬を走らせた。対する向かいに布陣する50名には、副長のドリスコが指揮をとる。つまり、団長対副長の模擬戦闘が行われるのだ。
刃の無い剣や、穂先が丸い槍などを使用しての模擬戦闘ではあるが、十分注意して真面目に取り組まないと、当たり所が悪ければ命を落とす事もある。だから私とドリスコも含め、102名それぞれが一丸となって、真剣に訓練を行わなければならない。勿論、安全の為に危険性が高い弓矢やボウガンの使用は禁じている。
私は、大空へ向かってピンと垂直に手をあげた。部下達が注目する。私は注目している部下達に、大声で言い放った。
「それでは、これより軍事訓練を行う! 今日行うのは、騎馬を使用しない歩兵戦闘だ。全員、馬から降りろ。そして、陣形を組むんだ。速やかに行え!!」
「はっ!!」
支持を出すと、全員が動き出す。速やかに50対50に分かれた騎士達は、歩兵として陣形を組んだ。それが済むと武器や盾を構える。
「それでは、これから互いに正面からぶつかって模擬戦闘をしてもらう。倒れた者や、怪我をした者は戦闘不能扱いとし、速やかに離脱し横へそれる事。では、始める!! ドリスコ!! 号令を!!」
ドリスコが、ランスを掲げた。そして、叫んだ。
「全軍!! 突撃――――!!!!」
模擬戦が始まった。指揮官を含めた51対51が正面からぶつかる。まずは、前衛部隊が盾を正面に構えて体当たりするのだ。激しいぶつかり合い。力量は五分。そこから、それぞれが武器を使用して白兵戦闘が始まる。
「わああああああ!!!!」
二つの大きな塊がぶつかった。剣と剣。剣と槍。陣形を乱さないように、味方同士足並みを揃えて前進する。20~30分もそれを繰り返していると、流石にヘトヘトになってくる。しかし、この訓練は戦闘技術だけでなくスタミナや根性を鍛えるのにも良い。
「ここまでーー!! ドリスコ!」
「はっ!! 訓練はここまでだ!! 全員模擬戦闘を中断し、整列せよ!!」
部隊全員が即座に従って整列する。やはり、この100人は私の騎士団の中でも特に群を抜いて精鋭だ。ドリスコが持ち前の大声で部隊全体へ呼びかけた。
「整列――っ!!!! これより、我らが青い薔薇の騎士団のローザ・ディフェイン団長からお話がある!!」
全員が私に注目した事を確認すると、ドリスコに手で小さく合図した。
「全隊!! 休め!!」
「皆、良く頑張った。本日の軍事訓練はここまでとする。この後、諸君は、王都に帰るなり何処かで休息するなり、思い思いに過ごしてもらってかまわない。私も当然そうするので、全員しっかりとリフレッシュをして、また明日から訓練に任務に励むように。あと訓練で怪我を負った者は、すぐに名乗り出て治療を受けろ。それでは解散!」
本日の訓練を終えて、部下たちを解散させた私は、この後の予定の為に、いそいそと荷物をまとめ始めた。
「さてと……行くかな」
剣を装備し、ザックを背負う。森へ入る前にもう一度、部下たちの方を振り返った。すると、そこには目を疑う光景があった。ドリスコ以下100名の部下が荷物をまとめた後、全員整列して私の方を注目していたのだ。
「な……なんだ貴様ら! もう、本日の練習は終わったと言っただろ! 明日の朝までは、各自思い思いに自由に過ごして良い。すでに、陛下にも許しを頂いている! だから、さっさと行け!」
私は、部下たちをまるで追い払うかのようにそう言った。だってそうだろ? 我が騎士団は今や国王直轄の騎士団だ。責任重大な任務や危険が付きまとう日々を送っているのだ。せめて、休める時はきっちりと休むべきだろ。なのに…………なのに、こやつらはなぜまだ解散せんのだ⁉
部下の一人が進み出て言った。
「ローザ団長は、これからどうなさるおつもりなんですか?」
「え? え? どうなさるって…………そんなのは、どうだっていいだろ? それより、皆さっさと遊びに行くなりなんなりとするがいい! 折角の自由行動なのに、時間がもったいないだろう」
もう一度、追い払うかのように言ったが部下たちはそんな事よりも、私のこれからの行動が気になるようだ。まいったな、どうすればいい…………
また別の部下が言った。
「その……ザックなんですけども、テントも持っておられますよね? それで、何をなされるおつもりなんですか?」
「うう……べ……別に、普通にキャンプするだけだけど……そんなのプライベートだし、今は休息する時だし、私が何をしようと私の勝手だし……」
ううーむ。どうやら最近、部下たちの間で、私がキャンプという趣味を持っているというのが噂になっているらしい。しかも、その一緒にキャンプをするメンバーの中には、この王国の第二王女アテナ様も加わっているという情報も流れているという。いったい何処から、そんな情報が流れているんだ。
ふーーー。それで、部下たちは私がコソコソとキャンプに行こうとするもんだから、気になってしまってしかたがないという事か。
ドリスコが進み出る。
「ローザ団長は、これからキャンプしに行かれるのですよね? 私達も一緒にお共させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「え? そ……そんな、そんなこと言っても、テントとか皆持ってないだろ? な?」
「いえ。大丈夫です。軍事訓練だと思って野宿すれば、別になんともないです。シェルターを作ればいいわけですし」
「そんな、貴様ら! 私は、貴様らに思い思いに自由に過ごせと言ったんだぞ!」
ドリスコはニヤリと笑った。
「これは、思い思いに自由に過ごそうとした結果ですが……」
「くーーっ!! もういい!! 勝手にしろ!!」
アテナやルシエルとキャンプした楽しさを忘れないように、こっそりとキャンプしたりしていたが、ついにその趣味が部下たちに知れ渡ってしまった。
こうして、総勢101人の部下を連れた私のキャンプが始まった。
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〚下記備考欄〛
〇ローザ・ディフェイン 種別:ヒューム
クラインベルト王国、王国騎士団の団長。エスカルテの街で治安維持の任務についていた時にアテナやルシエルと出会い親交を深める。それは、王族や冒険者、騎士といったそれぞれの壁を越えて親友になる程だった。王の計らいで、新たにローザ率いる騎士団を『青い薔薇の騎士団』と改め国王直轄の騎士団になった。今回は、有事に備えて騎士団の一部を引き連れてクラインベルトの草原地帯へ歩兵訓練にやってきた。騎士団と言えど、治安維持の任務や建物内の戦闘など騎兵戦闘以外の状況も考えて普段から訓練しておかなければならない。アテナ達の影響を受けて今では、キャンプを趣味としていて時間の許す限りソロキャンプを楽しんでいるようだ。
〇ドリスコ 種別:ヒューム
クラインベルト王国、『青い薔薇の騎士団』副官。ローザの良き補佐として、奮闘中。巨漢で槍やランスなどの長柄武器を得意とする。実はグルメで、休日は王都や近くの街でランチやディナーを楽しんでいる。見た目から肉を好み、貪るように食事をしそうと思われがちだが、その作法は上品。もしかしていい所の坊ちゃんなのかもしれない。
〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム
Dランク冒険者で二刀流の使い手。ローザが忠誠を誓う王国の王女であり、親友でもあるこの物語の主人公。現在は、クラインベルト王国からガンロック王国へ入国し旅を続けている。ローザもアテナもまた再会した時は、一緒にキャンプを楽しもうと約束している。
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
Fランク冒険者で、弓矢とナイフ、精霊魔法の使い手。ローザとは最悪と出会い方で刃を交えたが、その後は親友となる。ローザの事をすっかり好きになってしまい、事あるごとにちょっかいをかける。がさつで軽い性格で、いつもふざけているように見えるから想像できないが、アテナに匹敵する力を持っているのではないかとローザは思っている。なぜ彼女がクラインベルト王国を旅していたのかは不明。現在はアテナと共にガンロック王国を旅している。
〇ギゼーフォの森近くの草原地帯 種別:ロケーション
クラインベルト王国でもとても穏やかで木漏れ日差し込む森。かつてこの森で、薬草採取をしていたアテナとルシエルが初めて出会った。その森の近くで、ローザは自分の部下達の訓練を行った。理由は、キャンプするのに適したギゼーフォの森が近いから。
〇ランス 種別:武器
馬上で使用するのに特化した突き刺す専用の槍。突進攻撃に優れているが、屋内戦闘では非常に使いづらい。騎士が好んで使用する武器。
〇ローザのザック 種別:アイテム
ローザが訓練後にソロキャンプを楽しもうと用意して訓練に持ってきていたザック。リュックともいう。読書中の本やお気に入りのヌイグルミなどローザのお宝が入っている。
〇シェルター
キャンプと言うよりは、野宿などの際にテントなどキャンプ用品を所持していない冒険者がその場にある枯れ木や落ち葉、竹などを使用して作る、眠ったりする事のできる休むスペース。雨風がしのげるようにしたり、暑かったり寒かったりしないように快適になるよう工夫したりと、作る為には経験や発想力、そして知識が必要。しかし、シェルター作りに関して言えばキャンパーでなくてもベテラン冒険者などに聞けば知っている者も多い。
〇白兵戦闘
倒すべき相手と向かい合って戦う、近接戦闘のこと。より有利に戦う為には、武器だけでなく徒手格闘も極める事が必要。そして、単対多、多対単、単対単、多対多と全てのシチュエーションも慣れて置くことが必要とされている。




