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第496話 『雨降る夜のキャンプ その2』



 マリンは、全方位型魔法防壁(マジックシールド)に似た魔法を使用しているのか、薄い光の幕を身体のすぐ外に覆っていて、一切雨に濡れていなかった。


 そう言えば、マリンは水属性魔法のスペシャリストだというけれど、そういう水属性の魔法を操作して身体が濡れないようにしているのかもしれない。



「ちょ、丁度いい所にきた。ちょっと手伝ってくれない? この辺りにテントを張りたいから、そのマリンのランタンでこの辺りを照らして欲しいんだけど」


「それは御安い御用だけど、それならそういう魔法があるよ。ボクなら辺りいったいを照らし出せる事もできる」


「やめて! それはいい!」



 おそらくライティング系の魔法で光を放ち、周囲を照らし出そうとしたマリン。そんな魔法なら私だって唱えられる。マリンは魔法詠唱しながら持っていた杖を掲げようとしたが、そこで慌てて止めた。


 不思議そうな顔をするマリン。



「え、なんで?」


「私は今、雨の日のキャンプを楽しんでいるから、そういう魔法とかは要らないの。合理的な手段だけ考えているなら、もう既にそういった魔法を使用しているし、もっと言ってしまうなら皆と一緒に教会の中で休んでいるわ」


「なるほど。確かに言われてみればそうだね。それは、納得のいく答えだ」


「ごめん、もう雨で服もビショビショになちゃっているし、荷物もヤバイから手伝ってほしいんだけど」


「わかった、いいよ。何をすればいい?」



 ようやくマリンに気持ちが伝わった所で、まずはタープを張るのを手伝ってもらった。


 タープと言うのは、紫外線対策とか防水が施された大きく広い布で、雨が降ったり日差しが強い時などに張って利用するもの。キャンプをする時には、結構な必需品だったりする。


 タープの端には、それぞれ紐がついているので、キャンプをする場所――つまりサイトを決めたら、その辺りに広げて木に結んで屋根にする。


 そしたらその広く張ったタープの下に、テントを設置。これなら雨が降っていても、濡れる事はない。タープを張ったその下なら、焚火をしたり調理をしたりもできるという訳だ。因みに、タープを張るときのポイントは、しっかりとピンと伸ばして張る事。たるみがあると、雨水が中へ侵入してくるのだ。



「これでいいかい?」


「うん、いい。凄くいい。マリンもそう思うでしょ」



 教会の傍。森の中にタープとテントを張る。その下に入ると、物凄い雨音がする。タープが雨水を弾いているのだ。その音は、なんとなく心地よいリズム。



「おおー、いいねえ。確かにいいと思うよ。なるほど。こんな雨の降る夜中に、わざわざ森に出てずぶ濡れになりながらもキャンプをやるなんて、キャンプのやりすぎでおかしくなってしまったのかと思ったけれど、なんだか一層守られてる感がして楽しいね」


「おかしくなってとか、言い方!!」


「でも、雨の日のキャンプ。その良さがこんなボクにも少しは理解できたよ。いい感じだ」


「フフフ。それなら良かった。それじゃあ、これから焚火をしたいんだけど……一応ここに薪はあるんだけれど、タープを張るのにグズグズしていたからビショビショになっちゃった。これじゃ、きっと火が付かない。だから、シスターケイトかアンナに、薪をもらいに行こうかな。マリンは皆の所へまた戻るでしょ? だから、一緒に教会へ行こうよ」


「うん、それじゃ雨に濡れないように教会までダッシュする?」



 マリンの言葉に微笑んで頷く。すると、なぜか彼女は雨に濡れない魔法を解除した。



「そうだった……そう言えば先に言っておきたい事があるんだよ」


「何かしら?」


「パスキア王国までボクは一緒に行くと言ったけど、そこで自分の用事を済ませたら、ボクはメルクト共和国に向かおうと思っているんだ」



 メルクト共和国。そこは、ルキアやリア達を襲った盗賊団の巨大組織『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』が暴れまわっているという国。現在その国で暴れまわっているという賊は、その国の執政官を殺害し、国を乗っ取ろうとしているらしい。


 そんな事態に陥っているメルクト共和国を放っておけず、セシリアとテトラがそれを今何とかしようとそこへ向かっている。


 つまり、マリンは友人であるセシリアとテトラの事が心配なんだと思った。なら、私には止める理由なんて何もない。



「うん、それなら行ってらっしゃい」


「止めないのか?」


「え、なんで? だって、それはマリンの勝手でしょ? とめる理由なんてない。それにマリンは、セシリアとテトラの事を心配してくれているんでしょ? 本当なら私もメルクトに行ってセシリア達の助っ人をしたいけれど……」



 私には、エスメラスダ王妃との間に交わしたパスキア王国に行かなければならないという約束がある。



「気持ちだけでも嬉しい。できる事ならボクが二人いればいいのになって思う。そうすればボクは、アテナ達ともテトラ達とも冒険ができるのに……君の師匠ヘリオスさんとの事もあるしね」


「フフ、あなたが師匠に会った話も凄いけど、それってやっぱり運命的なものも感じるよね」


「運命?」


「そう、運命。マリンがセシリアやテトラと出会って親友になった事が運命であるように、私達とマリンがこうして出会えて友達になれた事もきっと運命なんだよ」


「それじゃ、ボクはアテナ達と出会い友達になった事も予め決まっていた?」


「そう。私達が友達になる事は決まっていたのよ。だって、こんなにも気が合うんだよ。間違えないよ」



 そう言ってウインクすると、マリンはにっこりと笑った。その笑顔は何処かぎこちない笑いだったけれど、マリンが心から笑ってくれているものだと解った。



「とりあえず、パスキアまでまだ一緒に行動するんだし、セシリア達のもとに行くときには、絶対黙っては行かないでね。一言、行ってくるって言ってくれればいいから」


「解った、そうする事にするよ」


「それじゃ、雨に濡れないように教会までダッシュね」


「うん、いいよ」



 マリンと一緒に雨の降る中、使える薪を分けてもらう為に教会まで走って戻った。マリンはなぜか、雨に擦れない魔法を使用せずに、私と一緒に雨に濡れた。


 でも、私とマリンは楽し気に笑っていた。





――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


全方位型魔法防壁(マジックシールド) 種別:防御系魔法

強力な防御系上位魔法。自分の周囲にドーム状(実は球体)の光の幕を張り、物理攻撃や炎や冷気などの攻撃も防ぐ。とても強固な防御魔法。

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