第495話 『雨降る夜のキャンプ その1』
ミャオ達が言っていた教会に着くと、教会の中から二人のシスターと沢山の子供達がわらわらと飛び出してきた。
それを見ると、まず馬車からカルビが飛び降りて子供達に向かって走って行く。続いてルンも飛び降りて駆けて行った。ルキアが声を張り上げる。
「こら、ルン! 雨が降っているんだから走っちゃ危ないよ!!」
「へーき、へーき。ルンは、色々な人にしっかり者だねと言われてるんだよ!」
ドシャッ
言った傍からルンが転がった。それを見て子供達は笑い転げ、二人のシスターは慌ててルンのもとへ駆け寄って彼女を抱き起した。まったくもー、ルンは。
教会の横、軒下に馬車を止める。ルシエルとマリンが馬の身体を拭いてあげると言ったので、二人に任せて私はミャオやノエルやシェリーと一緒に、シスターに挨拶をしに行った。
ルキアにも声をかけようとしたけど、クウやルンと一緒に子供達のもとに駆け寄って楽しそうにしていたので、まあいいかと思った。
「こんな雨の中、よくいらっしゃいました」
「はじめましてシスター。私は、ミャオやクウやルンの友人で冒険者のアテナと言います。向こうで馬の身体を拭いているのが、同じく私の仲間のルシエルとマリン。それとクウやルンと一緒にいるのがルキアと使い魔のカルビです」
「あたしは、ノエルだ」
すると二人のシスターは目を少し潤ませて私の手を握った。どうやらミャオは、それ程の事をここの人達にしてあげたのだろうと悟った。ミャオの友人である私も、ちょっぴりだけ鼻が高い。フフフ。
「私はこの教会で孤児たちの面倒を見ておりますシスターケイトと申します。そしてこの子は、シスターアンナ」
「よろしく、シスターケイト。それにシスターアンナ」
「それで、また戻ってこられて……どうかしたのですか?」
シスターケイトのその質問に、私はミャオと顔を見合わせる。するとミャオが説明をした。話を聞いてくれた二人のシスターは、私達が雨宿りのしたいという頼みを快く了承してくれた。
「それでしたら、遠慮なさらずにどうぞ中へ。雨が止むまででも、いつまででもここに居てください。教会はかなり破損していますし劣化も激しいですが、それでも雨風を凌げます。中も広いですし」
「ありがとニャー。シスターケイトにシスターアンナ」
「ありがとうございます。それじゃシスターのお言葉に甘えさせて頂いて、私はちょっとこの教会のすぐ傍でテントを張らせて頂いてもよろしいですか」
「え? テント?」
驚くシスター達。ミャオが笑いながら答える。
「アテニャは、キャンプ狂いニャンニャンニャー。だから、キャンプをしたいんニャ」
「で、ですが外は雨も降ってますし、身体を冷やしますよ。それに……」
「いいんです、いいんです。私、暫くノクタームエルドを冒険してまして……ずっと洞窟世界にいたので、ちょっと久しぶりに雨も楽しみたくて……雨を感じながらキャンプをしたいんです」
「あ、雨の中でキャンプをですか……」
雨風を凌げる場所があるのに、わざわざ雨の中でキャンプをしたいという私を、不思議と言うか心配そうな顔で見るシスター。
説得して解ってもらうのに、少しキャンプの魅力を語った。すると、ようやく納得してくれたようだった。
雨も降っているし、陽も落ちて空はもうすっかりと暗くなってきていた。
私は早速馬車の荷台に移した自分のキャンプグッズを取り出すと、もう教会の中にいる皆にちょっと外でキャンプしてくると伝えた。
ルキアがついてこようとしたけれど、ここの子供達には、カルビ同様に懐かれているようだったし、クウやルンと色々と積もる話もしたそうだったので、いいからいいからと言って置いてきた。ルシエルやマリンも同様だった。なぜか子供達に懐かれている。
私は笑いながら「外にいるから」と言って教会から出た。
外はまだ、しとしとと雨が降り続けている。
雨が降っているのに、わざわざ雨に濡れてまでテントを張ろうとしている自分。興味のない人から見れば、まったく意味のない訳の解らない事をしているのだと思う。だけど、私はそんな雨空を見て微笑んでいた。
荷物を背負うと、思い切って教会から森の方へ向かって駆ける。雨。
「うわーー、皆雨を避けて教会の中でゆっくりとしているのに、私だけ外へ飛び出して……シスターや子供達は、凄く私の事を奇妙に思っているかもしれないな。だけど、晴れの日は晴れを楽しんで、雨の日は雨の日を楽しむ……師匠の言葉」
辺りは暗闇が広がり、雨音だけが響いている。いつもは、夜でも月の光である程度辺りが見えたりするんだけど、雨雲で月も隠れている。森の中は本当に闇の世界に感じられた。
ザーーーーーッ
「ひゃーー!! 早くテントを設営しないとビショビショになっちゃう!!」
場所を決めようにもまったく見えない。教会の入口には軒にカンテラが吊るしてあって周辺は見えるけど、森の中に入っちゃったりなんかしたらもう何も見えない。真っ暗で、雨音だけの世界。
「うーー、濡れるーー!! 魔法を使えば見えるけど、それはなー」
さっさと場所を決めないと、もう服も荷物も濡れていた。どうしよう、困った。カンテラを持ってくるべきだった。なんか、久々の雨の日キャンプだったので、気持ちがどうやら舞い上がってしまっていたらしい。
目を細めたり、凝らしてみたりして雨降る暗闇の森を探ってまわる。すると、ぬかるみで足を滑らせて転んでしまった。
ドサッ
「ああっ!! っもう、ビショビショだし、泥だらけになっちゃった!!」
失敗したかもと思った。だけど、この程度で気持ちが折れていたら師匠に笑われる。
気持ちをしっかりもって立ち上がり、顔についている泥と雨水を拭う。すると、唐突に暗闇から声がしてきた。
「いったい君は、こんな雨が降る夜に何をやっているんだ? まったくもって、理解に苦しむよ」
「え?」
振り返るとそこには、ランタンを手に持った水色のローブを身に纏った銀髪の女の子が見えた。
「マリン? どうして?」
「こっちが聞きたいよ。こんな雨降る中、しかももう陽も落ちているのに教会を一人抜け出して何をしているんだい?」
私は、ちゃんとシスターやミャオ達に言って出てきたと説明した。
しかし、マリンは雨宿りができる場所があるのに、なぜあえてこんな事をするのかと首を傾げていた。




