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第494話 『雨宿りの行く宛』 (▼アテナpart)



 ――――雨はまだ、しとしとと降り続けていた。


 少し雨宿りすればそのうちに止むかもしれないと軽く考えていたけど、甘かったみたい。ずっと振り続けている。



「アテニャ、シェリーが戻ってきたニャ」


「シェリー、ありがとう!!」


「いやいや、この位はどうってことない。気にしないでくれ」



 ミャオやクウやルンと再会したくて、彼女達の後を追ってきて合流をした。それで、再会を喜んでいたのはいいけれど、雨が降ってきた。


 エスメラルダ王妃……と言うかゾルバとの取引で、パスキア王国に行く事になった私。その条件として、一週間程猶予をもらってクラインベルト王国でゆったりと過ごすことにした。


 そんな訳で、まずは友達達に会いたいと思って会いに来たのだが、成り行きでこのままミャオ達とブレッドの街へ行くことになってしまった。


 なってしまったと言うか、私がそうしたかっただけなんだけどね。


 ブレッドの街には暫く行ってないし、あの街にはちょっとしたいいものがある。それと、ミャオの商売に付き合うのも結構それはそれで面白そうだしね。フフフ。エスメラルダ王妃との事や、パスキア王国の事もこの間は忘れられそう。


 とりあえずそういう事で、私達はミャオ達と行動を共にする事にしたので、馬が必要でなくなってしまった。


 馬車があるし、そちらの方が今みたいに雨が降ったりしても都合がいい。馬はバーンから折角借りたけど、雨宿りしているうちに返しに行こうという話で纏まってしまった。すると、シェリーが代わりに馬を返しに行ってくれると言ってくれた。


 私が行ってくるからと言ったけど、シェリーはエスカルテの街の冒険者ギルドから、ミャオ達の護衛として結構高額な報酬をもらっているから大丈夫だと言ってきかなかった。


 それでシェリーは雨の降る中、単身でエスカルテの街まで馬を返しに行ってくれた。そして、私達の待つ街道沿いにある木々が茂る場所へ今戻ってきてくれたのだった。ありがとう、シェリー。


 クウとルンがタオルを持ってきて、シェリーの濡れた衣服などを拭いてあげる。



「寒かったでしょう。ありがとうございます、シェリーさん」


「ありがとー、シェリー。ルンが雨粒を拭き取ってあげるね」


「ああ、大丈夫だ。ありがとう」



 暫く顔を合わせていない間に、クウもルンもしっかり者になったなと思った。クウに至っては、もうお姉さんて感じが凄くする。


 ルキアだって色々な経験をしたし、精神的にも冒険者としても成長をしたけど、まだまだ子供な感じが強い。その証拠に、皆のお姉さん的なクウに再会するなりルキアは、ルンと同じくクウにあまえている感じがした。



「なーーに、笑ってんだ? アテナ」



 ノエルが私の顔を覗き込んできた。



「別に。それより、この雨だけどまだぜんぜん止みそうにないよね。ブレッドの街までまだもう少しあるだろうし」



 私がそう言うと、向こうでマリンと何か話しをして盛り上がっていたルシエルが声をあげた。



「キャンプか? 雨の中でキャンプをするのか?」


「この辺で何処か雨宿りができる場所があればいいんだけれど、折角だし雨の中のキャンプっていうのも面白いかもしれないわね。でも、ある程度雨を凌げる場所を見つけないと、馬車につないでいる馬が可哀そうだし……どうしようか?」



 そう言って今度はミャオを見る。ミャオならこの辺の事は今いるメンバーの中で一番詳しい。



「そうニャねー、それニャら少し来た道を戻る事にニャるけど、あそこに行ってみるニャ?」


「あそこ?」



 雨でビショビショになった身体を拭いているシェリー。その横にいたクウが、ミャオの言わんとしている事に気づいた。



「シスターアンナ達のいる教会ですね。一度お別れを言ったから、皆凄くびっくりするかもしれないですけど、いい考えですね」


「シスターアンナ? 教会?」


「そうニャね。実は、アテニャがここにやってくる前に、ちょっとした事があったんだニャ」



 ミャオは、エスカルテの街を出てからの事を、私とルシエルとルキア、それにノエルとマリンに説明してくれた。


 ミャオ達はブレッドの街を目指している最中に、魔物に襲われていたシスターアンナという女性を助けてあげた。それから彼女を教会まで送っていってあげたそうだ。


 その協会は廃墟のようなボロボロの教会で、別にもう一人シスターケイトという修道女と、20人以上のお腹を減らした孤児たちがいたという。


 それでミャオ達は、自分達の商品だった小麦粉などを使って、シスターや子供達と一緒にうどんを作ってあげた上に、馬鈴薯や林檎など他の食糧も教会に置いてきたという。正直、あのミャオがなんの見返りもなしに……と驚いた。



「あなたがそこまでしてあげるなんて、ちょっと興味があるな、フフフ。じゃあ、その教会まで行こうか」


「ニャニャ!! 失礼ニャ!! ニャーだって、巷じゃやっさしー猫娘のミャオさんで通っているニャ!」


「でもねー、ミャオってお金の勘定ばかりしているじゃない。いくら可哀そうだからと言っても、なんの見返りを考えずに商品をあげちゃったりするなんて、本当に驚いた。それが本当なら、本当にミャオはやっさしー猫娘って巷で囁かれているのかもしれないわね」


「そうニャよ。ニャーは、女神さまのようにやっさしーニャ。これからは、もうちょっとニャーの事を見直すといいニャ」


「はいはい、ごめんねミャオ」



 そんなミャオとの久しぶりの会話をしていると、ルンが割り込んできて言った。



「そうだよ! ミャオはちゃんと考えているんだから!」


「え、なにを?」



 はっとする表情のミャオ。一瞬劇画のような表情になったけど、もしかして……



「ミャオはあの教会の子達を使ってお金儲けするんだよ。その為に、畑を作る方法とか野菜の種を置いてきたんだから」


「ニャ、こらルン!! それはアテニャに言わなくていいニャ!! ご、誤解を招くニャ!!」



 なるほど、そういう事か。私はジト目でミャオを見る。



「ミャオ。今、ルンが言った事って……」


「ニャニャー! それはそれニャ! 食べ物や生活の保障をしてあげるのは確かニャから、いい事してるニャよ! いい事するニャにも、お金がいるんニャ!! さあ、皆馬車に乗り込むニャ。教会まで戻るニャよ」



 確かにミャオの言う事は一理も二理もあるなと思った。ミャオは、教会の子達を使って野菜を育てさせたり、何か仕事をさせようとしているのかもしれない。


 それって、その子達を利用してお金を儲けようとしている。


 だけど、それは仕事を与えて生活できるようにしてあげているって事とも考えられる。彼女達の、これからのこと――ミャオなりに、真剣に子供達の未来の事を考えてあげている結果だと思った。



「ほら、皆早く馬車に乗るニャーー。アテナも来るニャ!!」



 やっぱり、ミャオはミャオなんだな。私の友人であり、実はとても優しい商人の女の子。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

物語の主人公。クラインベルト王国の第二王女であり、キャンプ好きの冒険者。現在はエスメラルダ王妃との約束で、パスキア王国へ向かう事になっている。だが折角クラインベルトに戻ってきたので、友人たちに会う為に暫し猶予をもらった。


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナのパーティーメンバーで、良き相棒。弓矢の使い手でありながら、エルフお得意の精霊魔法も使える。がさつで食いしん坊この上無いが、根はアテナ同様に優しくて憎めない性格をしている。でも結構な悪戯好きで、例えばアテナが反撃できないときなど遭遇すると、すんごい悪い顔になる。その為、仲間のルキアにはよく怒られているが最近は、受け流すというスキルを覚えた。


〇ルキア・オールヴィー 種別:獣人

カルミア村出身の猫の獣人。アテナやルシエルと共に旅を続ける女の子。真面目で優しく誠実。ノクタームエルドでは、獣人としての能力が覚醒して大幅に戦闘力があがった。しかもそれに加えて、ドワーフの王国ではアテナに『猫の爪』というひじょうに優れた太刀をもらう。パーティーではルシエルが悪さをしないように、いつも目を光らせている。


〇ノエル・ジュエルズ 種別:ハーフドワーフ

アテナのパーティー。ノクタームエルドから、アテナの仲間に加わった、褐色の肌の小さな女の子。でもアテナよりも実は年上。持ち前の怪力は凄まじく、武器は背中に大きなバトルアックスを背負っている。野菜より肉が好き。勿論トレーニングは必須だけど、肉を食う事によってパワーが上がると信じている。


〇マリン・レイノルズ 種別:ヒューム

水属性のスペシャリスト。【ウィザード】。いつも眠たげでやる気のない感じがするが、とてつもない力を持っている。その強さは伝説のSSランク冒険者ヘリオス・フリートにも認められた。ちょっとでも楽しようとする性格で損をする事もしばしば、だけど意外と困っている人間を放っておけない。以前はテトラやセシリアと行動を共にしていたが現在はアテナ達といる。この先はどうなるのだろう……


〇カルビ 種別:魔物

ウルフの子供。ルシエルの使い魔って事にはなっているが、実際はルキアと一緒にパーティーのマスコット的なポジションである。ノクタームエルドでは、マッドサイエンティストであるメロディ・アルジェントの薬を飲んで巨大化した。ルキアはそれに跨って敵と戦った。それを人はカルビライダーという。


〇ミャオ・シルバーバイン 種別:獣人

猫の獣人。アテナの友人で、エスカルテで雑貨店を営む商人。商人仲間のリッチー・リッチモンドから曰く付きの品物を買い取り、ブレッドの街へ売りに来た。途中、アテナと合流し、行動を共にする。


〇シェリー・ステラ 種別:ヒューム

エスカルテの街を中心に活動するCランク冒険者。ギルドマスター、バーン・グラッドの推薦でブレッドの街へ商いに行くミャオたちの護衛を請け負った。


〇クウ・ウルペース 種別:獣人

狐の獣人。ルキアの幼馴染で、現在は商人見習いとしてミャオの店に住み込みで働いている。子供達皆のお姉さん的な存在でしっかりもの。


〇ルン・タッソ 種別:獣人

狸の獣人。ルキアの幼馴染で、クウと共にミャオのうちにいる。普段はお店の手伝いや、エスカルテの街の子供達が通う学校に行っている。5歳にしては、かなりしっかりしている。


〇ブレッドの街 種別:ロケーション

クラインベルト王国にある街。エスカルテの街からひじょうに近い位置にある。

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