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第493話 『セシリアのボウガン』



 私は、テトラにもう一点確認しておきたい事を聞いた。



「そのリベラルにいる幹部というのは、何者なんだ? レティシアという人はそれについて他に何か知っていなかったか?」



 テトラは考える素振りを見せると、思い出したかのようにポンと手を叩いた。



「リベラルに隠れている幹部は、きっとメルクト共和国を乗っ取ろうとしている親玉だと思います……というか賊達の司令塔で、レティシアさんが言うには、このメルクト共和国を奪おうと乗り込んできた『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』を指揮している者なんじゃないかって言っていました。だからその人を叩いてしまえば、この国を救えるんじゃないかって。でも、レティシアさんがリベラルで聞いた情報から推測したものだから、実際に行って調べてみないとって……」



 本当にリベラル(そこ)に、この国へ賊共を送り込んできた元凶がいるのだとしたら、メイベル達よりも優先する理由は大いにある。テトラが言ったように、賊の数が多いならその親玉を先に叩くのは有効手段だ。


 ……なら、ここはレティシアという冒険者ではなく、テトラを信じて行ってみる価値はある。



「……どう思う? セシリア?」


「そうね。リベラルに、もし本当にこの国に賊を送り込んで、操っている黒幕がいるのだとしたらって事よね。それなら、当然行くしかないんじゃないかしら。敵を撃退するのに親玉を先に叩くっていのは、一番いいい手だわ。親玉の居場所が解っているのなら、メイベルやボーゲンだってきっとそうするんじゃないかしら。親玉を先に叩く事ができれば、間違えなく敵の戦力は半分以下になるだろうし、勢いも奪えるだけでなく混乱させられる可能性もあるわ」


「そうだな。それじゃ、決まったな。早速リベラルに向かお……」



 刹那、何処からかセシリアを狙って矢が飛んできた。テトラも瞬時に反応したが、私が僅かに先に動いて、その矢を剣で弾いた。


 キッキキーーーーー!!


 猿の声。そう言えば、セシリアからボウガンを奪った猿がいた。



「ありがとう、ローザ」


「ああ、かまわん」


「え? わわわ、私もセシリアを助ける為に矢を払おうとして、動きましたよ?」



 セシリアはテトラを一瞥すると、何事もなかったように話を続けた。涙ぐみそうになったテトラは、我慢してセシリアに向けて頬を膨らませた。それを見てやはりテトラは、この森で少し強くなったなと思った。以前より、心に余裕を感じる。



「そう言えば、私のボウガン。あのお猿さんにまだ貸したままになっていたわね。あのままにしておいても、また誰かこの森に足を踏み入れる者がいたら、途轍もなく危険だし放ってはおけないわね。レンタル料金を請求しても、払ってはくれなさそうだし」


「そうだな。じゃあ、セシリアのボウガンを取り返して、それでリベラルへ向かうか」


「そうね。あのボウガンは攫われたルーニ様を救出するべく旅している時に、色々と助けてくれた人がくれた物なのだけれど、最悪取り返せないのなら破壊してしまってもいいわ。このままあの凶悪なお猿さんの手にある方が、リスクが高そうだから」


「わかった。それじゃ、あの猿は私が仕留めてこよう。セシリアはテトラと共にここで待っていてくれ」


「待ってください。あのパンディットモンキーは一人で相手するのには危険です」


「そうか? テトラだって一人でずっと相手してきたのだろ? 私だってやれる」


「ダメです。あの凶悪な猿達を一人で相手するなんて危険ですよ。散々な目にあったから言っているんですよ。それに私は一人で戦っていた訳ではないので」


「どういう事だ? レティシアという冒険者がいたのは、最初だけなんだろ? しかも、テトラの鍛錬の為、見守ってくれていても手を貸してはもらえなかったんじゃないのか?」


「いえ、私にはもう一人、一緒にここで猿達を相手に戦ってくれた友達がいるんですよ」



 テトラはそう言って、シェルターの方を差す。そして、その者の名を呼んだ。



「私の友達を、紹介します――アロー!」



 !! 


 

 バサバサバサ!!


 鳥の羽ばたく音。シェルターから何かが飛び出してきたかと思うと、それはテトラの頭の上に乗った。



「始めまして、麗しきレディー達。僕はボタンインコのアローと申します。お見知りおきを」


「え? 鳥!?」



 思わずそう口走ってしまった。すると、そのアローの眉がピクリと動いたように見えた。そう、見えただけ。鳥なのだから、そもそも眉なんてない。


 セシリアはというと、一瞬私と同じく驚いた顔をしたが、すぐに平静を装いアローに言葉を返した。



「初めまして。私は、セシリア・ベルベット。あなたが今乗り物にしているテトラの友人よ。そしてこちらは……」


「ローザ・ディフェイン。クラインベルト王国の騎士様ですね。テトラから、だいたいの事は伺っております。まあ話はまたリベラルに向かう途中にでもできますから、今はパンディットモンキーからボウガンを取り戻す事に集中しましょう」


「そ、そう。それでアロー。あなたは、何ができるの?」



 セシリアが聞くと、テトラが代わりに跳び跳ねて答えようとした。



「アローは凄いんですよ!! 人の言葉が喋られるだけででなく、魔法だって唱えられ……ムグムグムグ」



 言い終える前に、アローはテトラの頭から肩へ移動してその羽で彼女の口を塞いだ。



「いいですか、自分の事は、自分で語ります。テトラは、テトラの事を語ればいい。僕の事を勝手に語らないでください!」



 知らない間に、テトラも変わった友達ができたと思った。しかし、今テトラはこのアローという鳥が、魔法を唱えられると言おうとした。それが本当なら、こんな小さな身体のボタンインコでもかなりの戦力になる。テトラが興奮して彼の事を紹介しようとしている所からしても、期待できそうだ。



「それで、どうする? 早速だが考えがあるんだったら、聞きたいのだが」



 するとアローは、自信満々の顔で答えた。



「君達は、ここで待っていればいいですよ。ボウガンは僕が取り返してきてあげましょう」



 会って間もないが、かなりみくびられているような気がした私は、テトラの手を強く握って言った。



「いや、いい! じゃあ、アローはここでセシリアと共に待っていてくれ。1時間もあればあの猿を見つけてボウガンを取り戻してくる」


「本当かい? 森は足場も悪いし、迷いもする。それに猿達のホームだよ」


「大丈夫だ! テトラと二人なら、一時間もあれば帰ってこれるだろう。それじゃ言って来る!」



 ルシエルの影響だろうか? なんとなくつい意地を張ってしまった。まあ、兎に角取り返すと決めたからにはさっさと取り返しに行こう。





 そして二人でボウガンを持つ猿の捜索を始めてから、セシリアとアローが待つキャンプに私達が戻ったのは、3時間半後だった。


 もう辺りは薄暗くなり始めていて、私とテトラは猿を追いかけたが、奇襲にあったり身体中が泥だらけになったりしていた。


 そして気になるボウガンの方はというと、ちゃんと取り返してきたものの、私ではもとに戻せない位に大破させてしまっていた。


 申し訳ないという顔で、テトラと共に頭を下げつつセシリアに渡すと、セシリアは二人が無事で良かったと言って、笑顔でその大破したボウガンを受け取ってくれた。


 交易都市リベラルはその名の通り、多くの店と人に溢れている都市。そこへ行くのなら、セシリアにまた新たなボウガンを購入してやれないか。そう思った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アロー 種別:動物

喋るボタンインコ。魔法使いでもあり、レティシアとは友人? テトラの事を気にしており、レティシアとは別行動をとってテトラに同行した。とても物知りで、紳士的な態度をしているようにも見えるが、嫌な事は直ぐに嫌と言ったりとはっきりとした性格をしているようだ。


〇パンディットモンキー 種別:魔物

猿の魔物で、手頃な森を住処にする。森に侵入してくる者がいると、総勢で木の上から襲い掛かる。ずる賢く、とても危険な魔物。行商人などは、この猿の魔物に遭遇するとあっという間に積み荷を奪われたりする為、とても警戒している。

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