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第491話 『頭上の悪魔達』




 テトラが待つという森に入った。


 そこは木々が生い茂っていていた。森というよりは、密林と言った方がいいかもしれない。足元は、なんだかぬめっとしていて、土の上にいるというよりは泥の上を歩いているような感覚。


 本当に、こんなじめじめとした森にテトラはいるのだろうか。そんなふうな事を考えていると、木の上から気配を感じた。



「セシリア、ちょっと待て」


「何かしら」


「木の上に何かいる。それも複数だ」



 剣を抜いて身を屈める。警戒。セシリアもボウガンを両手で持って、周囲を見回した。


 ――――暫く様子を見る。


 ――――



「セシリア、私の後ろにいろ」



 小声で言ったその瞬間だった。


 キャキャーーーーッ!!


 何か獣らしきものの鳴き声とともに、木の上から何かが飛んできた。石礫!? 


 構えていた剣で、飛んできた石礫を弾く。1つ2つ3つ。飛んでくる石礫は、一方向からではない。つまり、敵は複数であちらこちらに潜んでいるという事だ。



「うっ、痛い!」



 更に後方から飛んできた小石がセシリアの背に当たった。



「セシリア、この場にいても木の上から狙い撃ちにされるだけだ。向こうへ走れ! 背中は私が守るから!」


「ありがとう、ローザ」



 セシリアが走り出したのを見て、その後ろについた。そして密林のような森の中を駆け抜ける。後方からは石だけでなく、木の実や枝なんかも飛んできた。


 セシリアの後ろにぴったりとついた私は、手に握る剣でそのことごとくを打ち払った。


 森の中は木が密集している。ぬかるみ。逃げるにしても、あまりにも走りにくい地形だった。



「はあ、はあ、はあ、ローザ! ど、何処まで逃げればいいのかしら!!」


「解らない!! だけど、このまま真っ直ぐだ!! とりあえず、来た道へは戻れない。それだったら、このまま突き進んであの木の上にいた獣か何かを撒くしかない!!」


「はあ、はあ、はあ。なるほど、とてもいい考えね。で、でも私……体力にはあまり、自信がな……きゃっ!」



 刹那、セシリアが何かに蹴躓いて大きく転がった。続いて私も一緒に転倒する。転がりながらも、蹴躓いた原因を探すと私達が駆けていた場所に、植物の蔓が張られていた。丁度、膝の高さ。


 自然に蔓が伸びた感じではないのは、一目瞭然で今私達に敵対している木の上の何かがそれを仕組み、私達をここまで誘導したのだと悟った。


 だとすればとんでもなく知識の高い獣――いったい、なんなんだ?


 キキーーーーーッ!!


 木の上から何かが降ってきた。手には、棒。頭上、四方から複数の猿が棍棒とも呼べる程の棒を持ち、私とセシリア目掛けて振りかぶって降ってきたのだ。



「セシリア、こっちへこい!!」



 凶悪な顔の猿。最初の棍棒による一撃を左手で受ける。衝撃と痛み――遠出(とうで)をするので、いつもの騎士団の任務に勤めている時の装備に比べて、かなりの軽装でこの国へやってきてはいるが、一応用心して腕にはミスリル製の小手を装着していた。


 だから、手首を潰される事もなく棍棒での一撃をしのぐこともできる。


 防いだ左手でそのまま棍棒を振り払うと、もう一方の手に握った剣で猿を斬った。


 ギャーーーッ!!


 仲間の悲鳴を聞いて、凶悪な顔が鬼のように化わる。次々と棍棒や杭のようなもので襲い掛かってくる猿を斬り倒す。


 隙を突いてセシリアがボウガン構えて矢を放ち、2匹3匹と猿達射貫いた。



「援護、助かるよ! セシリア!!」



 そう言って彼女の方に振り向いた瞬間だった。彼女の背に翼が生えたかのように、急にふわっと身体が宙に浮いてどんどん持ち上がっていった。



「え? なに?」



 セシリアの美しい容姿から、本当に天使だったとしてもおかしくはないのかもしれないと、馬鹿な事を一瞬想像してしまっていると、彼女の表情が苦しみに変わっている事に気付いた。



「ロ、ローー……ザ……た、たすけ……」



 セシリアの首に植物の蔓が巻き付いている。その頭上、木の上を見ると4匹もの猿がセシリアの首に引っ掛けた蔓を、綱引きのように力いっぱいに引っ張っていた。このままでは、まずい。今セシリアは、首を吊っている状態だ。



「セシリアーーー!!」



 私はセシリアの首を絞めあげる蔓に向かって剣を振りかぶって投げた。



 ザシュッ!!



 見事に蔓を切断し、セシリアは地面に落ちた。私は急いでセシリアに駆け寄る。邪魔しようと飛び出してきた猿の顔面にパンチを叩き込む。



「ゴホッゴホッゴホ……」


「大丈夫か、セシリア!! しっかりしろ!!」


「え、ええ……な、なんとか大丈夫……でも、ローザ……気を付けて……」


「え? 何がだ?」



 殺気。直ぐ近くにそれを放っている猿がいると感じて目を向けると、矢が頬をかすめた。


 見ると、何匹もの猿達に囲まれている。しかもその中の1匹は、セシリアが持っていたボウガンと矢を手にしてそれでこちらを狙っていたのだ。



「こ、これはまずいな! かなりまずい状況だ! セシリア、絶対に私から離れるなよ!!」



 剣は投げてしまったので、今は手に持っていない。


 ナイフを慌てて取り出すと、それを前に突き出し構えた。こんなもので、ボウガンの矢を弾けるのか? セシリアの持っていたボウガンは結構大型で、威力もある奴だ。


 キキーーーッ!!


 猿か持つボウガンの向き――矢じりが私の眉間に合わせられていると感じた。来るぞ!! 身構える!!


 すると次の瞬間私の頭上、木の上からまた何かが飛び降りてきた。


 私はまた別の猿が、不意打ちで私の動きを抑えにきたと思った。あのボウガンで狙っている奴が、確実に私の眉間を射貫く為に。



「そうはさせるかあああ!! おりゃああ!!」



 ナイフを突きだすと見せかけて左腕でパンチ。この後飛んでくる矢はナイフで弾く!!



「なっ!!」



 しかし、突き出した左腕のパンチは避けられて掴まれた。猿ではなく、人間!? 



「テ、テトラ!!」



 なんと猿のように木の上から唐突に降りてきて現れたのは、私達の仲間のテトラだった。


 テトラは、自分に飛んでくる矢を愛用の涯角槍(がいかくそう)で軽く弾き落とすと、私とセシリアを見てにこりと笑った。



「待っていましたよ、ローザ。それにセシリア!」



 屈託のない笑顔。少し会っていなかっただけなのに、その間に彼女はまた少し成長していると感じる。


 思い出す、テトラからの手紙の内容。彼女はこのメルクト共和国を救うために、また一つ強くなったのだと思った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇テトラ・ナインテール 種別:獣人

伝説の獣人、九尾であるが尻尾は4本しかない。2章~4章までのもう一人の主人公。クラインベルト王国の王宮メイドで槍の使い手。現在はメルクト共和国を救うために、セシリアや他の仲間と共にやってきていたが、モロロント山で自分の力不足に気づいてレティシアに弟子入りした。それからは、メイベル達と別れてセシリアと合流するまでの間、修行を行っている。


〇ミスリルの小手 種別:防具

ローザ愛用の小手。ミスリルとは、鋼鉄よりも強固で魔法などにも耐性がある優れた金属。

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