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第490話 『テトラの置き手紙』



 ――――トリケット村が見えてきた。


 キャンプを畳んだ後、顔を洗ったり歯を磨いて出発の準備を整える。珈琲を飲んでもセシリアは、相変わらずボーーっとしている様子。


 出発し、歩きだして目的地にやっと到着という所で本来のセシリアに戻ったようだった。


 しかし、ここまで朝が苦手だったとは……毎朝、一生懸命に彼女を起こしに行っては、苦労しているテトラの事を不憫に思った。


 私が起こしてもこれなのだから、テトラが相手ならセシリアはもっと起きる事に抵抗するだろう。


 現に、何度も起こしに来るテトラをうるさいと言って、毛布に引き込んで彼女の下着を剥ぎ取っているのを目にしたことがある。


 腕力なら獣人であり武術の心得のあるテトラの方が、何十倍も上だとは思うのだが……テトラはどうも、セシリアには抗えないようだ。


 二人の事を考えて、少し可笑しくなる。もしかしたら、愛情の現し方は違えど私とアテナの関係に似ているような気がするな。そう思ってムフフとニヤついていると、頭の中にアテナではなくルシエルが出てきたので、慌ててかき消してアテナに挿げ替えた。



「おかしいわね」



 村の前まで来るとセシリアがそう言って、首を傾げた。



「どうした、何かあったか?」


「このトリケット村、人がいないわ」


「なんだと?」



 見渡してみたが確かに誰もいない。メイベル達の話では、この村にはコルネウス執政官が盗賊に囚われているという話だった。それならば、村は賊に占拠されているはず。しかし、賊はおろか村人すらいない。



「ローザ、あの家のポスト……」



 セシリアがまた何かに気づく。目をやると、村のゲートを通り抜けて一番近い家のポストに、誰かの絵が描いてあった。お世辞にもあまり上手ではないが、なんだかほっこりする可愛らしい絵。


 この絵……女の子が愛らしく笑っている顏の絵だが、その女の子の頭に耳がある。更に特徴をあげれば、髪は長くて笑っている口には八重歯が見える。


 私は気づいた。



「この絵、テトラではないか? テトラの似顔絵」


「そうね。おそらくこのお世辞にも上手とは言えないけれど、なんとも言えないような背中が痒くなるような似顔絵、これは恐らくテトラが自分の顔をこのポストに描いたものね。だとすると……」



 セシリアはそう言って。ポストを開けようとした。しかし、ポストには鍵がかかっている。



「セシリア。私に任せろ」



 帯刀している剣の柄に手をかけると、瞬時に抜刀した。すると、ポストにかかっている錠が二つになって地に落ちる。



「流石、王国騎士団長様ね。ありがとう」


「どういたしまして。――それで、何か入っているのか?」


「……手紙。ポストの中に手紙が入っているわ。これは、この村にやってくる私達の為にテトラが書いた手紙だわ」


「なんて書いてある? 読んでくれ」


「ええ」





 セシリア、ローザへ


 お疲れ様です。テトラです。

 この村を占拠していた盗賊達ですが、なんとか退治する事ができました。それで、コルネウス執政官も無事に助け出すことができたのですが、残念ながら村の皆さんを助けるのには時が遅すぎたようです。残念です。更に、まだこの国を救うには至ってはいません。だから私達は、目的を遂げる為に前進し続けなくてはなりません。


 ですが、私はここへ来て自分の力の足りなさに気づきました。この国で暴れまわっている盗賊団は、物凄く強くて今の私ではとても力が及びません。このままの自分では、戦いになってもきっと勝てないと思います。

 

 だから私は皆さんに無理を言い、少し時間を頂いて森に籠っています。セシリアやローザが来るまでの間にできるだけ、今よりも強くなっておくつもりですので、この村に到着しこの手紙を読んでくれたら、私のいる森まで来て頂けないでしょうか。


 一緒に合流して、ボーゲンやミリス、メイベル達の後を追いましょう。





「おい、どういう事だ? テトラはボーゲン達と一緒じゃないのか?」


「続きがあるわ。……どうやら、この村に到着する前にビルグリーノというメイベル達の仲間に会ったようね。それからメイベルやボーゲン、ミリス達はそのビルグリーノの一団と助け出したコルネウス執政官と共に、賊から首都グーリエを取り戻す為に先行したみたい」


「なるほど。話が見えてきた。それでテトラは一人なのか?」


「ううん。どうやらコルネウス執政官を救出する際に、モロロント山で知り合って協力してもらった冒険者と一緒にいるみたいだわ。名前は、レティシア・ダルク。凄腕の冒険者みたいだけれど、ローザは聞いた事があるかしら」


「私も冒険者ではないからな。っと言っても王宮メイドのセシリアよりは、接する事が多いか。それでも、ちょっと聞いたことがない名だな」


「そう」



 セシリアは、もう一度テトラの手紙を目だけでスーーっと読むと、それを背負っているザックの中へしまった。



「まあ、とりあえずテトラを探して合流すればいいという事だな。それで――そのテトラが待つ森というのは何処か解るか?」


「ええ。手紙に場所がしるしてあったから。もうそろそろ夕方になりかけているけど、このままテトラのもとへ急ぎましょうか?」



 今、夕方になりかけてしまっているのは、いったい誰のせいなのだろうか? そう言いかけたが、言うのをやめておいた。まあ、誰にでも苦手なものがあるしな。


 例えば私も、虫が苦手だった事を思い出した。以前、アテナやルシエルと渓流釣りに出掛けた時に悲鳴をあげて大騒ぎをした事がある。



「よし、それじゃ行こう」


「そうね、あそこよ。ここからもう見えているわ。あの森できっとテトラが待っているわ」



 トリケット村に到着したばかりだったが、私もセシリアもテトラと早く合流したい思いで、引き返すようにすぐに村を出て森へと向かった。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇トリケット村 種別:ロケーション

モロロント山の麓にある素朴な村。テトラ一行がメルクト共和国に入って最初に目指していた場所。コルネウス執政官が捕らわれていた場所で、テトラ一行は見事に執政官を救い出した。

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