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第49話 『エギーデ・ロドヴィン その2』






 飲みに飲んだ。途中で、村のギルドの者が、俺を探しにやってきた。特に心配は、ないからと言って村へ帰らせた。そういえば、夕方、村周辺のパトロールに出たきりで、それっきりだ。村へは戻っていない。



「ほら、飲んで飲んで」


「おう。もらおう」



 ハルが酒好きなのは、村の酒場をよく出入りしている様子から知っていた事だが、こんなに飲むとは正直思っていなかった。驚かされた。まあ、でも俺も以前は相当な酒飲みだったからな、人の事は言えんがな。


 ハルがコップに酒を注いできたので、勧められるがまま酒を飲んだ。別に禁酒していたわけでは無いが、こんなに酒を飲むのは、久しぶりだ。


 焚火がパチパチと音を立てる。森の奥深くから、梟の鳴き声のよなものが聞こえてくる。この感じ、嫌ではない。どちらかというと、気持ちが落ち着く。



「エギーデさあ」


「なんだ?」


「なんであんた、あんなに魔物を毛嫌いするの?」


「そりゃそうだろ? 当然だ。冒険者にとっても、魔物は討伐対象じゃないのか?」


「間違えた。毛嫌いではなくて、完全に憎んでいるよねー。ちょー憎んでいるよねー」



 ハルが突然、そんな事を言い出したので、驚いてしまった。もしかして、あのハルの友人が連れていた子ウルフの件でこんな事を言ってきているのか? なら言ってやるさ。



「そりゃ憎くもなるさ。俺は、魔物に妻や娘を殺されたんだからな」



 それを聞いて、ハルは一瞬凍り付いた。ここへ来て、初めて気まずそうな顔をした。完全に酔っている。話すべきではないことを、俺は口走っている。



「ごめんなさい。踏み込みすぎた! 話を変えようか」


「いや、かまわんさ。酒のせいか、今は逆に少し話したい」



 ハルは、微笑んで酒と肉を再び勧めてきた。



「じゃあ聞かせてよ。まだ夜は続いているよ」


「吸ってもいいか?」


「どうぞどうぞ」



 俺は、煙草を取り出した。そして、煙草の先の方を焚火に当てた。先端に火が点くのを確認すると、咥えて煙を吸って吐いた。




「俺は、かつて冒険者だった。Bランクまで、とんとん拍子で駆け上がった」


「自慢?」


「自慢だ。それで、俺にはライバルの冒険者がいた。それが俺の妻だ」


「職場結婚ですかい?」


「そうだ。やがて、娘が産まれ、俺たちは冒険者をやめた。娘ができて、怖くなったんだ。冒険者は、いつも危険と隣り合わせだからな」


「ふんふん。それで、冒険者ギルドの方の仕事をするようになったんだねえ」



 おちゃらけているようだが、ハルは真剣に聞いてくれている。それは、ハルの目を見て読み取れた。



「ある日、近くの森へ家族で遊びに行った。当然、娘もつれてだ。そこは、比較的安全な森と言われていた。それに、俺も妻も、もともとはBランクの冒険者だ。何かあっても、大丈夫だと思っていた」


「何か……何かあったんだな?」


「そうだ。森の中を散歩していたら、とても綺麗な蝶々が飛んでいた。娘は、その蝶々を見て、綺麗だって喜んで追いかけた。そうして俺と妻から少し、離れた時だった」



 ハルがゴクリと唾を飲み込んだ。



「大きなウルフが現れて一瞬で娘を攫っていった。俺は、頭の中が真っ白になったよ。妻は、すぐに娘を追いかけた。俺も一瞬、頭が真っ白になったがすぐに娘と妻の後をおいかけた」



 煙草をひと吸いする。



「それは全て、そのウルフの作戦だったんだ。あとで解った。俺達がウルフを追った先には、別にウルフの集団が潜んでいた。その、ど真ん中に俺達を誘導するために、娘を攫い…………わざと追いかけられるスピードで逃げていたんだよ、その娘を襲ったウルフは」


「そんな事があるなんて……」


「あるんだよ。見たろ? お前の友人のエルフが連れていた子ウルフ。とんでもなく頭がいい。あれは、ウルフの亜種だな。俺の家族を襲ったウルフと同じウルフの亜種だよ。間違えない」


「それで、奥さんと娘さんは?」


「死んだ。やつらは、群れで襲ってくる。俺達は、まんまとやつらの大群の中へ誘い込まれ、四方八方から大量に、束になって襲い掛かられた。妻も殺されて俺もやられたが、途中で騎士団が助けに来て俺だけが生き残った」



 ……………………



「…………それで、あんなに魔物を恨んでいるのか。ようやく、理由が解ったよ」


「だから、俺は魔物を殺し続ける。この世からいなくなるまでだ。あんなものは、危険以外の何者でもないからな。ハル。お前の友人にしっかり、釘を刺しておけよ。あの、子ウルフは、やがて悪魔になるってな」



 空が明るくなってきた。どうやら、夜通し語って飲んでしまったようだ。


 ハルは、立ち上がって背伸びをした。そして、眠たそうな顔で言った。



「エギーデの奥さんと、娘さんは本当に残念だったと思う。でも、ルシエルの連れていた、子ウルフ…………カルビは、きっといい子だと思うなあ」


「何かあってからでは、後悔するぞ。俺みたいにな」


「だって、人間だって悪人はいるじゃない? だからって、人間を根絶やしにはしなくない? 魔物だって、中にはカルビみたいないい魔物がいると思う。勿論、その奥さんと娘さんを襲ったウルフは許せないけどさ。出会ったら、あたしもエギーデに加勢して敵討ちに手を貸すよ!」



 フッ…………



「もう朝だ。眠い。お前も凄い眠たそうな顔をしているぞ。俺は、これから村へ帰って少し眠る。今日も仕事があるからな。お前も、寝てないんだからさっさと寝ろ」



 ハルはあくびをしながら、返事した。



「はあーーーい」



 さて、村へ戻ろう。…………くそ……頭がガンガンする。その場を去ろうとしたその時だった。

 


「ねえ」


「なんだ?」


「つぎは、いつ飲む?」


「…………っは!! 本気で言っているのか?」



 ハルは、ニヤついて酒瓶を振って見せる。



「…………まあ、いいだろう。だが今日は、もうだめだ。明日……いや、明後日にしよう」


「オッケー」


「それと、トレントの話だがな。一人で森を彷徨って探すのはもうやめろ。探すなら、俺が一緒について行ってやる」


「ええ⁉ うそでしょ?」


「本当だ。だから、絶対一人では行くな。俺も少し、興味がわいてきたよ。そのトレントが本当にいるんだったらな」


「本当だって言っているだろ!  本当に林檎の実ったトレントがいたんだよ!」


「明後日、また飲む時に、その林檎の実ったトレントの話を聞かせろ。計画を練ろう」


「やったーーー!! 楽しみんなってきた!! それで、明後日は何処で飲む?」


「場所なんてどこでもいいが…………またここでキャンプでもすればいいんじゃないか」

 

「キャンプ! いいねえ。つまみと酒もまた用意しとかなきゃね」



 俺は、ハルと次の約束をして別れた。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇エギーデの妻 種別:ヒューム

Bランク冒険者。エギーデにも負けない程に、細身の剣を巧みに扱う事ができる上級冒険者。エギーデとは共に何度か冒険者ギルドの依頼を協力して受注達成する事があり、いつしか二人は恋におちて結婚した。派手ではなく身内だけの小さな結婚式。だけど、その瞬間彼女は世界中の誰よりも幸せだと感じていた。やがて、最愛の娘が産まれすくすくと成長するが、家族で散歩をしている最中に運悪く凶悪なウルフの亜種に遭遇する。彼女は必死に娘を守ろうと奮闘したが統率されたウルフの群れに襲われ命を落とす。


〇エギーデの娘 種別:ヒューム

エギーデとその妻の間に生まれた娘。綺麗なものや、不思議なものが大好き。ある日、両親と散歩に出かけ見つけた蝶々を追いかけたが、ウルフの亜種に見つかり襲われて命を落とす。遺体は母同様に、エギーデによって墓地に手厚く埋葬された。その日からエギーデは、酒を浴びる様に飲み続けるとこの世から一切の魔物を駆逐すると誓い、冒険者ギルドの責任者になりたいと志願書をギルドへ提出した。


〇梟 種別:動物

鷹や鷲のように、猛禽類。だけどこんもりと丸くそれでいて、ふわふわしていて可愛い。シロフクロウ、実際に触ったりした所、羽の肌触りも最高。とんでもなく可愛い生き物。そして、ご存じ夜行性で夜の森などで鳴いているのは定番である。


〇ウルフ亜種 種別:魔物

狼の魔物。凶悪なウルフ達を統率していたひときわ恐ろしい邪鬼を放つウルフ。亜種とは、その種の中でも特化した能力を持ち、魔物とは思えないような知能を持つものいる。当然、形状も通常種から逸脱するしている個体もおり、別の名前で分類されているものも存在する。冒険者ギルドには、危険視されており目撃されるとギルドや政府から討伐依頼がおりる程である。他にも更に珍しく変形した個体、希少種などもいる。ルシエルの使い魔であり、アテナ達の仲間となった子ウルフのカルビはその知能の高さから、エギーデは亜種だと判断した。しかし、カルビの場合はエスカルテの街のギルマス、バーンの名のもとに正式に使い魔とされているので、討伐対象にはならない。


〇煙草 種別:アイテム

このヨルメニア大陸全土に広く知れ渡り、愛煙家に愛される品。種類も様々で、愛煙家は、自分の好みの煙草を探して楽しむ。一般的には20本を1セットにして専用の箱に入れられて売られてるが、筒などの入れ物に入れられて売られている商品もある。アテナの知っている者でも、バーン・グラッドやエギーデ・ロドヴィンなどに好まれる煙草ではあるが、健康には良くないので吸わない方が良い。しかし、煙草産業は莫大な利益にもなっている。


〇酒のつまみ 種別:アイテム

お酒を飲むなら是非欲しい。お酒だけで楽しむのもまたそれはいいものだが、キャンプなどしてお酒を楽しむのであれば、必須と言っておきたい。お酒はいいよ、んーんーんー。因みにエギーデやバーンのような愛煙家は、お酒を飲むと煙草を無性に吸いたくなる傾向がある。


〇冒険者ランク

一般的には7段階のランクに分けられているが、一番上位にssランクと言われる特別なランクがある。


Fランク = 冒険者見習い

Eランク = 下級冒険者

Dランク = 一般冒険者

Cランク = 中級冒険者

Bランク = 上級冒険者 

Aランク = ベテラン冒険者

Sランク = 特急冒険者

ssランク= 伝説級冒険者


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