表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
489/1354

第489話 『ローザとセシリアの旅』




 焚火が奏でるパチパチという音に耳を傾けながら、酒を片手に肉を貪る。これこそキャンプの醍醐味の一つだと思う。


 それにしても、スイートインパラという鹿に似た魔物の肉は、甘みがあって美味しかった。普段から、果物ばかりを口にしているせいか、独特の甘みを感じる肉。しかし、嫌な味ではない。むしろ、芳醇な感じがして上品な味わい。



「セシリアは、スイートインパラの事を知っていたが、以前に食べた事があるのか?」



 首を左右に振るセシリア。丁度肉を頬張っているタイミングだった。



「じゃあ、なぜこの魔物の事を知っている? わざわざ本を読んで学んだ知識……ではないだろう?」



 そう言うと、セシリアは頷いた。


 え? 魔物の本を読んだんだ。エリートである国王陛下直轄の王宮メイドが、そんなものに興味がある事自体が不思議に思えるのに、それに関する本を読んでいたとは――



「そうなのか? 冒険者でもないセシリアが、そんな魔物になんて興味があるだなんて意外だな」



 セシリアは口に入っていたものを噛んでようやく呑み込むと、葡萄酒を一口飲んで答えた。



「ええ。ルーニ様が誘拐された事件以来、私とテトラは旅する事が多くなったから。最初は、お金を使わないように節約目的だったのだけれど、そのうちに過酷な状況でも旅を続ける事ができるようにって、慣れる為にキャンプも始めたわ。そしていつしかアテナ様と同じく、それがいいものだと思えるようになっていたわ。だからその為に、知っておいた方がいいと思った本を読んだのかしらね」


「そうか、そうだったのか。だが、私もそうだ。アテナと出会い、僅かな時間だったが冒険やキャンプを一緒にする中で、その魅力を知った。それからは、私もキャンパーだよ」


「私もローザも、アテナ様の影響を受けているのね」


「ハハ、そうだな。それでセシリアは、色々と魔物の本を読んだのか? 旅やキャンプをしていると、魔物に出くわす事も多いだろうから」


「そうね。旅をしている間、私にも何か扱える武器があるのかしらと色々と試してはみたけれど、私にはボウガンが一番向いているようだったわ。しかも、ボウガンがあれば今日みたいに狩りも簡単にできる。だから狩りの為に、獲物の事を少し学んでおこうと思ってそれに関する本を読んでみたのよ。もちろん、旅をするのに危険な魔物を知っておきたかったって理由もあるのだけれど」


「なるほど。まあ、ボウガンがあるからって、簡単に狩りはできないだろうからな。それは、セシリアの知識や腕があってできる事なのだろう。それにしても、狩りの得意な王宮メイドなんて凄いな」


「そうかしら」



 そんな会話を続けていると、いつしか夜も深くなっていた。



「食事も済んだし、酒も飲んでいい気分だ。そろそろ休むとするか。明日は、トリケット村に到着してテトラ達と合流するつもりだからな。備えておこう」


「そうね。それじゃ、休みましょうか」



 用心の為、テントは一つだけ張った。一つのテントに二人で寝る。そうした方が、何かあった時により安全だと思ったからだった。


 ほろ酔いを既に通り越しているセシリアの背中を押して、彼女をテントへ押し込む。毎晩、剣の稽古をしている私だったが、今日はもういいかと思い特別にさぼる事にした。


 そう言えば、リーティック村。あの日の夜、剣の稽古をしていた時にセシリアとは少し話をして、稽古に興味を示した彼女に剣を握らせたなとその時の事を思い出した。



「そういえばセシリア、お前とはリーティック村……」



 テントの中に押し込んだセシリアに目を向けると、既に彼女は毛布に包まって可愛らしい寝息を立てていた。



「フフフ。どうやら、セシリアもお疲れのようだな」



 焚火に薪を足すと、毛布を手に取り私もテントに入った。セシリアの隣で横になり目を閉じる。


 セシリアの寝息を耳にしながら、少しこれまでの事とこれからの事を考えた。


 ――――ローグ・ウォリアーと、ビースト・ウォリアー。リーティック村で私が遭遇し、戦った賊。


 相当な手練れで、暗殺を得意としているような輩だった。恐らく……というか間違いなく、彼女達は『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』だろう。そして、私達の事を知って、影から襲い掛かってきた暗部の者。


 …………


 しかし、なぜ私達はあんな手練れにいきなり遭遇し狙われる事になったのか。まったくの偶然というのであればまあそうなんだというだけなのだが――奴らはわざわざ私達に狙いをつけて、襲い掛かってきたように見えた。


 だとすれば何の為に?


 私達がメルクト共和国の生き残った執政官コルネウスを助けようとしていたので、それを阻止する為だったのだろうか? 


 でも、そうだとしても何かおかしい。私達がエスカルテの街からメルクト共和国に入り、コルネウス執政官を助け出そうとしていた事なんて、何処からその情報が漏れたのだろうか? 


 メイベルとディストルが、エスカルテの街へ来る前から実は、二人共既に賊に監視されていたとかなら説明もつくが……


 もしくは、これが一番単純明快で辻妻が合うが……リーティック村で偶然賊の手練れと遭遇したという説。でもなんとなく、しっくりとこない。

 

 考えを巡らせていると、いつしか私もセシリアと同じく眠りについていた。





 

 ――――翌朝、目が覚める。鳥の鳴き声に、テントの中までも明るく照らす陽の光。も、もしかして寝過ごしたか!?


 慌てて起きる。隣を見ると、セシリアはまだ毛布に包まり幸せそうに寝息を立てて眠っていた。私はテントから外へ顔を出した。


 凄くいい天気。しかも、本当に寝坊したようだ。太陽が真上にこようとしている。もうすぐ、昼になる。ふーーむ、これはやってしまったか。


 こんな事をしていては、今日中にトリケット村に辿り着けないのではないのか? 私は慌てて隣で眠り続けるセシリアの身体を揺らした。



「セシリア、起きろ。セシリア! もう、昼だぞ」


「うーーん、え? 嘘でしょ? きっとまだ朝よね。もう少し寝かせて」


「こら、セシリア! 起きろ!! 今日中にトリケット村へ到着してテトラ達と合流するんだろ? なあ、起きろ!」


「うーーーん。もう少しだけ……お願い……」



 こ、これはまいった――セシリアとは、エスカルテの街から暫く一緒に旅を続けている。だからセシリアが朝は凄い苦手で、それを無理やり起こしているテトラの姿を何度か見たことがあるが……


 テトラは、セシリアを起こすまでの間、彼女にいいように玩具にされたり色々な事をされた挙句、やっと起こして出発の準備をさせていた。


 しかしながら私には、テトラのようにはできないと思った。だがこのままセシリアが起きるのを待つというのもありえない。何か手を考えて、直ぐにでも出発しないと、トリケット村に着くのはまた明日になる。


 こうなったら、どうしても起きないセシリアを逆にもう少し寝かせておいて、先に出発の準備を整えながら彼女を目覚めさせる策を考える事にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ