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第480話 『マリンと楽しい時間 その2』




 マリンとの話は続いた。


 師匠と出会った事、その時の師匠とのやり取りについても話してくれた。


 マリンは、ロッキーズポイントから一時的に一緒に行動していた仲間に師匠を加えて、ロックブレイクに攻め寄せる魔物と戦ったのだという。



「嘘でしょ? 私の時も大量のアシッドスライムが攻め寄せてきて、大変な事になったんだよ。丁度その時、ロックブレイクにいた凄腕の冒険者達と共闘して退治したけど。まさか、また魔物の大群が攻め寄せてきただなんて」


「アテナの師匠、ヘリオス・フリートは最近特に魔物が活発化していると言っていたよ。ドワーフの王国に襲来したグレイドラゴンもそうなんだそうだよ」



 地竜グレイドラゴン……ここで決めなきゃって覚悟を決めて、体力の消耗が著しい技だからあまり普段は使用を抑えている奥義なんだけど、躊躇わずに使って倒した。


 ドラゴンとリザードマンによって街の被害は甚大。背に腹はかえられないと思って、速攻でやっつけたグレイドラゴン。奥の手を温存して普通に戦っていたら、危なかったかもしれない。



「ヘリオスさんは、最初からリザードマン達の事も、そのリザードマンがグレイドラゴンを操り、引き連れてドワーフの王国を襲う事も知っていたみたいだったよ」


「そ、それならなぜ助けに来てくれなかったの」


「最初はそのつもりだったようだ。でもドワーフの王国には既に君がいて、そこへボクも向かっている事も知ったから行くのをやめたんだ。ボクとアテナ、君の力なら例えドラゴンが相手でも問題ないと判断したんだろうね」


「そんな……でも師匠は、どうやってあなたの強さを知ってそう思ったの? ロックブレイクをオオダマトゲヤスデという魔物の大群から守る為に肩を並べて戦った時にそう思ったから?」

 

「それもあるけど、もっと解りやすい。実際に戦ったからね」



 え? 戦った? マリンが師匠と? 



「あれ? 聞き間違えかな?」


「ううん、聞き間違えてはないよ。ボクはヘリオスさんと戦った」



 色々マリンから話を聞いたけど、この話が一番聞いて驚いた。驚いたと同時になぜだろう、笑いが込み上げてくる。



「それでどうだったの? 師匠に見事勝って、それで認められたとか? これなら、余裕でグレイドラゴンやリザードマンの大群を倒せるとか言って。フフフ」

 


 笑っているのがバレて、マリンは眉間に皺を寄らせる。



「命知らずと思って笑っているのかい? そうだよ、ぜんぜん歯が立たなかったよ。端的に言って、君の師匠は化物だった。ボクは自分こそが最強だと己惚れていたのに、その折角の自信を君の師匠は簡単にへし折ってくれたんだよ」



 マリンは、困っているような顔をした。でも困っているのではなくて、本当は悔しいのだろう。でも私だって師匠や姉のモニカには、どうやっても勝てなかった。悔しくてたまらなかった。


 いや、どうやってもっていうのは言い過ぎかな。その証拠に今の私ならひょっとすれば二人にも勝てるかもしれないし、あれから随分と腕もあげたし……ちょっぴりなら自信はある。



「そして君の師匠であるヘリオスさんは、何か他にやる事があるらしくて、ドワーフの王国の件はボクらに任せて何処かへ行ってしまったんだよ」



 師匠は、私だけじゃグレイドラゴンやリザードマンを倒せないと思っていたみたい。私にルシエルみたいな仲間がいる事も、鎖鉄球騎士団やジボール達が助けてくれた事も知らないはずだし、そう考えるのは無理もない事なんだけど――


 だから師匠の予想ではグレイドラゴンに関しても、マリンの助力を得て倒すはずだったみたい。だけど私は、せっかちにも一人で倒してしまった。



「それでもう一度聞きたいんだけれど、マリンはこれからどうするの? 師匠の後を追う? それともメルクト共和国に向かって賊と戦っているテトラやセシリアやローザの援護をするとか? もしくは、私達とこのまま一緒に行動してもいいし。もしそうなら、パスキア王国へ行く事になるけどね」



 テトラやセシリア、ローザの事を考えるとマリンを誘った事はちょっと軽率だったと思った。本当は、あの子達のもとへマリンを行かせた方がいいのかもしれない。マリンは頼りになるし、マリンとテトラやセシリアは同じピンチを乗り切った仲間。何よりマリン自身が望んでいるような事の気がした。


 爺がオズワルト魔導大国にまだいた頃に、その爺と双璧として知られていたのが、大魔導士ラダン・レイノルズ。マリン・レイノルズは、その偉大な天才魔導士の孫だという話を爺から聞かされていた。


 しかもあの師匠とまともにやり合うだなんて、相当に腕に自信があるはずだし肝も据わっている。誘っておいておかしいかもしれないけれど、マリンがメルクトに行けばテトラ達の大きな助けになる事は間違いがないだろう。


 すると、マリンの口元が少し緩んだ。



「アテナ、誘ってくれてありがとう。そして、君の考えている事も推測できるよ。でもね、君が知らないうちにテトラやセシリアも沢山冒険をし、経験を積んで驚く程に強くなっているよ。それに、ローザ・ディフェインの他、何人も頼りになりそうな仲間がいるし、彼女達はきっと大丈夫だよ。だから、ボクは君と行くよ。ずっとではないけれど、パスキア王国には行ってみたいと思っていたからね。それにボクも、ミャオやクウやルンとも会っておきたいしね」


「マリン……」


「かといって、テトラ達の事が心配じゃない訳でもない。彼女達はボクにとっても大切な友達だから。でも、テトラ達なら大丈夫だと信じている。まあそう言う訳で、パスキア王国へはアテナ、君達とともに行く。そのあとまたテトラを追いかけるかどうか考えてみるよ。どっち付かずで、すまない」


「うん、いいよ。それなら、暫くの間仲間になるわけだし、改めてよろしくね」


「ああ。こちらこそ、よろしく頼むよ」



 起き上がると、マリンと握手を交わした。



「しかし、あれだね」


「あれって?」


「アテナはパスキア王国へ縁談の話で行くんだよね。それじゃ、もしかしたらそのままパスキアの王子とあれよあれよと話が進んじゃって、そのまま結婚してしまうかもしれないんだよね。そしたら、冒険者も卒業だろうし、どちらにしても旅はそこまでという訳か。ボクはいいけど、ルシエルとか君の仲間は困るだろうね。もしあれなら、ルシエル達はボクと一緒に……」


「大丈夫!! それはないから!」


「でも」


「でもも、ヘチマもないの。パスキアへは、エスメラルダ王妃との借りを返しにいくつもりだけだから。パスキアへ行って王子と会って、お話したらそれで任務完了。私は再び自由な冒険者……もといキャンパーに戻るの」


「ふーーーん、そうなんだ」



 そう上手くいくかなと目を細めるマリン。腹が立ったので、早速彼女を押さえつけてくすぐってやった。夜中に響く、マリンの悲鳴と個性的な笑い声。



「プフーーー、プフーーー! や、やめて! プフーーー!」



 お父様とバーンが何事かと見に来たけど、私とマリンが戯れていると判断すると、人騒がせだなとまたお酒を飲みに戻ってしまった。


 明日の朝は早い。私は、ひとしきりマリンをくすぐった後、笑いすぎてへとへとになっている彼女の手を引いて、眠る為にテントへと戻った。

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