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第48話 『エギーデ・ロドヴィン その1』 (▼エギーデpart)








 ――――――ニガッタ村。


 俺は、ニガッタ村にある冒険者ギルドの責任者だ。街と違って村レベルの冒険者ギルドだから、そんなに仕事がないと思われがちだが、そんな事はない。色々とやることはある。


 特にこの村は、ライスに力を入れていて特産品になっているから、国中からグルメや商人達が集まってくる。村が繁盛するって言う事は嬉しいが、その分それに関連するギルドの仕事やパトロールなどで忙しくなる。


 そういえば、この間もひと騒動あったな。思い出したくもないが…………覚えていろよ、あいつら!



「あの娘ども…………ウルフなどをかばいだておって…………挙句の果てに、エスカルテのバーン・グラッドだと? くっ…………ふざけやがって…………」



 村長の息子が近づいてきた。



「エギーデさん。こんにちは。村の巡回、ごくろうさまです」


「………………ブツブツ」



 無視した。思い出す度に、腸が煮えくり返る思いだ。


 まわりのやつらも、どうかしていた。あのウルフが使い魔かどうかだって明白だ。ふざけるのも大概にしろ。その場しのぎで考えた嘘に決まっている。魔物をかばいだてするなんて、完全にどうかしている。魔物は、全て根絶やしにしなければならないんだ。


 村のゲートまで来た。冒険者ギルドでの今日の書類仕事は終わらせている。あとは、少し村の外をパトロールしておこう。また、変なやからがいるやもしれんしな。



 ――――――陽も落ちてきた。



 やはり、あの時の子ウルフ…………そして、エルフとボブカットの娘の事が頭の中でちらつく。…………あの娘どもは、あの子ウルフを守ろうとしていた。子ウルフもエルフを守ろうと…………くだらんっ! 魔物だぞ! 馬鹿げている。全く馬鹿げている。


 怒りながらも、村の周辺を遠くまで睨みつけて、異常が無いか確認する。



「ん? なんだあれは?」



 村から、ちょっと行った先に森がある。その辺りで、灯りが見えた。


 冒険者か賊か…………はたまた火属性の何か魔物か…………


 辺りはもう暗くなってきているが、やはり、気になる。あの灯りがなんなのかだけでも確認しておこう。災いの芽は、早めに摘み取るべきだ。


 村の入口に常時設置している松明を取りに戻り、森の中の灯りの正体を暴きにその場所へ向かった。


 森の中は、もう暗闇に覆われていた。だから、その中で見える灯りは、より鮮明に見えた。灯りに近づいていく。



「な……なんだと…………」



 森の中に少し、拓けた場所がある。そこに、気になっていた、森の灯りの正体があった。


 ――――焚火である。


 そして、見慣れた顔もあった。



「あっ。エギーデだ」


「ハルか。こんな所で何をしている? もう夜だぞ。魔物がでるかもしれん。村へ帰るぞ」


「え? 嫌だよ! 今日は、あたしはここでキャンプするの」


「キャンプだと?」



 辺りを見回した。木と木に、ロープを縛っている。それを周囲にいくつか作り、大きな布を被せて、非常に簡易的なテントのような物を作っている。この娘はまさか、ここで寝るのか?



「やーー。楽しいよねー。キャンプ! エギーデ! あんたもこっちに来なよ。肉も酒もあるよ。さあ、早く! 焚火の前においでー」



 舌打ちして見せた。だが、ハルは何も気にしていない様子だった。とりあえず、俺には冒険者ギルドの責任者としての立場がある。この娘が魔物にでも喰われるのは、警告もしてやっているし本人の勝手だが、わざわざ魔物に餌をやるというのは、気に食わない。ハルの言ったとおり、しぶしぶと焚火の前に座った。


 ハルはニコリとして、俺にコップに渡し、そこへ酒を注いだ。



「どうぞ、はい。肉もあるから食べてね。骨付き肉だよーー」



 ハルは、挑発するように、骨付き肉を俺の目の前に突き出してきた。鬱陶しいので、手で払ってやった。


 ふと、焚火に目をやると、調理している様子がない。本当に焚火をしているだけである。それに、これ…………



「おい。この肉料理、村の酒場の、メニューだろ?

 テイクアウトしたのか?ふざけるな! キャンプっていうのは、こんな適当でいいのか?」



 ハルは、相変わらずにこにこしている。酒を飲んでいるからか?



「いいんだよ、いいんだよ。アテナちゃん、言ってたもん。10人キャンパーがいれば、10通りのキャンプがあるって。出来合いの物を買ってきて、食べるのもまたキャンプの醍醐味なんだぜー」


「なんだそれは? 意味が解らん!」



 アテナちゃんだと? あの青髪のボブカットの娘か! いい加減な事をいう!



「まあまあまあ、そんな怖い顔してないでさ。まあ、一杯どうぞ、はいどうぞー」



 くっ! まあ、酒は嫌いではない。勧められた酒を飲んだ。…………なんだ? うまいな。


 すると、ハルが急に俺に指を指して、騒ぎ出した。



「あーーーーっ。今、うまいって顔した!! うまいって顔したでしょ!!」


「うるさい!! お前、飲みすぎだ!! さあ、村へ帰るぞ!! 夜は魔物が出て危険だ!!」


「いやいやいや!!!! 絶対帰んないよー、あたし! 今日は、あたしはここでキャンプしてんのー!!」



 思い切り引っ張ったが近くの木を掴んで、動こうとしない。なんて腕力だ。手を放してやると。再び肉を齧り、酒を飲みだした。もう、かなり飲んでいるな。



「そんなに酔っぱらっていると、もしもこんな所で魔物に遭遇したら完全に死ぬぞ。死ぬんだぞ、お前は! 嫌だろ? 死ぬのは? だから、言っているんだ。面倒な事になる前に、俺の言う通りにしろ」



 かなり、強めに言った。全然いう事を聞く気配がなかったからだ。しかし、ハルは今度は、甘えた顔をしてきた。



「なんか……なんかさー。エギーデって、あたしのお父さんみたいなこと言うよね」



 はっ⁉



「ば……馬鹿な事をいうな! お前みたいな娘は…………お前みたいな娘は…………」

 


 ハルから、手渡された酒を一気に飲み干した。すると…………



「はい、まだまだお酒はあるから遠慮なく飲んでー」



 再び、ハルが俺のコップに酒を注ぐ。むっ。思い切ってまた一気に飲んでやった。すると、ハルは何食わぬ顔で、再び俺のコップに酒を満たした。


 気が付くと、その辺に酒瓶が3つも転がっていた。どうやら、かなり飲んでしまったようだ。…………これだから…………これだから、酒はやめたのに…………


 …………完全に、酔っぱらってしまった。



「ハル。お前、ところでこんな森で、いったい何をしているんだ?」


「ああ。そうそう。それな。あたし、トレントを探していたんだよ」


「は? トレントって魔物のか?」


「そう。探しているのは、前に一度、遭遇したやつと同種のやつなんだけどね。前のやつは、アテナちゃんが一瞬で焼き払っちゃってさ。あっはっはっは。ウケる。それで、ずっと森の中を探して回っているんだけど、ぜんぜん見つからなくてねー。もう同じやつ、いないのかなー? そんでそのまま夜になってきてたから、なんとなくアテナちゃん思い出して、森でキャンプしてたって訳。…………アテナちゃんとキャンプした時、凄い楽しかったからさ…………」



 意味がわからん。



「トレントがいるのか? 酔って何を言っているのか、よくわからんぞ。要は、前に遭遇したトレントと、同種類のやつをまた倒すために探しているって事か?」


「うーーーん。そうなんだけどさ、ちょっと違うかな」


「なぜだ? なぜ、また探している? 今は、ギルドで討伐依頼も出ていない。トレントがあれ以来、この辺で現れた話もない。どちらにしても、この辺りには、いないのではないか」


「えええーー、うそーー!! もういないの⁉ でも、冒険者ギルド責任者からの情報だもんね、それ。くそーー。信憑性高すぎるーーう」


「本来なら、安全のため、お前を村へ引きずっていきたい所だ。それなのに、酒を飲むのにつきあってやっているんだ。なぜトレントだ? いい加減教えろ?

気になるだろ?」


「うーーーーん…………それもそうか。エギーデ! あんた、林檎が実っているトレントって見たことない?」


「なんだそれは…………林檎だと? そんな奴が、いるのか?」




 それからも俺とハルは、酒を飲み続け、夜は更けていった。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇エギーデ・ロドヴィン 種別:ヒューム

クラインベルト王国、ニガッタ村にある冒険者ギルドの責任者。Bランク冒険者。魔物嫌いで、人接するのもあまり好きではない。アテナ一行がニガッタ村で仲間のルシエルと合流する時に、ルシエルの後をついてきた子ウルフ、カルビを殺そうとした。しかし、アテナがエスカルテの街のギルマス、バーンの名前を出してカルビは許される。あれからずっと、エギーデはムカついているし機嫌が悪い。いや、機嫌はいつも悪いみたいだけど。


〇村長の息子 種別:ヒューム

ニガッタ村の村長の息子。感じが良くて、村の者だけでなくニガッタ村に沢山訪れる商人や冒険者にも親切に接する。しかし、もともとそういう性格ではなく村長の息子という事もあり、努力しているのだ。好きな食べ物は、酒場の看板メニューの1つであるドリア。好きな言葉は、一日一善。今一番欲しい物は、ミスリル製の鍬。


〇ハル 種別:ヒューム

Dランク冒険者。クラスは【シーフ】。現在ニガッタ村に留まって、その周辺で活動している。以前トレントという魔物に襲われあわやという所でアテナとルキアに助けられた。それ以来、友達。別れてからもアテナ達の事を思い出す。しかし、それよりも気になって仕方がないのが林檎の実ったトレント。今もそれを探しているっていうのが、ニガッタ村に留まっている理由の一つ。アテナと知り合ってからは、キャンプの魅力も教わり宿代をケチってはそれを酒代にあててキャンプを楽しんでいる。


〇あの子ウルフ 種別:魔物

アテナ達のパーティーメンバー、カルビの事。カルビはニガッタ村でルシエルの使い魔として、正式にアテナ達の仲間になった。エギーデは、魔物を嫌っていてこの子ウルフを殺そうとしていが、アテナ達やハル、アレアスという3人の冒険者達に阻まれできなかった。それ以来、エギーデはカルビの事を思い出してはイラついている。


〇エルフとボブカットの娘

正確にはエルフではなく、ハイエルフ。ルシエルとアテナの事。凸凹コンビのようで、実は息の合ったいいコンビ。


〇林檎の実ったトレント

ハルが以前見つけた林檎の実ったSレアトレント。そういう林檎は、だいたい何か特殊な力が実って……じゃない、宿っている場合がある。ハルはそれを知ってかどうかは定かではないが、どちらにせよ珍しいものなので手に入れたいと思っている。鑑定をうければ、とても貴重な物かもしれない。


〇骨付き肉

酒場の定番メニュー。鶏、豚、牛と様々あるがやはり牛は値が張る。しかし、ニガッタ村では牧畜もしているので良心的な価格で販売している。お酒にも合うし、ご飯としても満足のいくメニュー。


〇ニガッタ村 種別:ロケーション

クラインベルト王国にある村で、一度別れたアテナとルシエルが再会した場所。カルビが仲間として加入した場所でもある。ライスが特産品で、その事を知る多くの人が今日もこの村にライスを買いにやってくる。


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