表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
479/1355

第479話 『マリンと楽しい時間 その1』




 夜も更けてきた。


 お父様とバーンとルシエルは、まだ焚火を囲いお酒を飲んで会話を楽しんでいる。まだまだ寝なさそう。そしてそれとは対照的にルーニやルキア達子供達は、もうテントに入って寝る準備をしているようだった。


 ノエルも、さっきゴソゴソと自分のテントに入っていくのが見えた。


 それで私は……私は、お父様達から少し離れた場所、キャンプ場の隅で小さな焚火を作り、その横で仰向けに転がって夜空を眺めていた。


 夜空は凄く美しかった。ノクタームエルドを旅した時は、ずーーっと迷宮のような大洞窟の中をひたすら冒険していたので、空を見上げる事もなかなかできなかった。だから、今は余計に夜空が愛おしく感じる。



「あ、どんよりした雲……」



 夜空に、どんよりとした雲が流れてきた。雨雲かな? それが流れてきた向こう方の空にも、同じような雲がいくつも見える。


 もしかしたら、明日は雨が降るかもしれない。それなら、明日は早朝にここを出てお墓参りをして、ミャオ達に会う為に、彼女達が向かったブレッドの街へ向かうというのがいいかもしれない。


 明日の予定を頭の中で巡らせていると、後ろから何者かが近づいてくる足音と気配がした。


 このキャンプ場の周辺には、ゲラルドの近衛兵や騎士団が警備をしているし、王都内もクラインベルト王国きっての破竜騎士団や鹿角騎士団(ろっかくきしだん)が巡回をしてくれている。


 つまり、今私のもとに近づいてくる者は、振り返らなくても安全である事は明白だった。でも顔を確認しなければ、誰だかは解らない。



「やあ。隣、座ってもいいかい?」



 マリンだった。



「うん、いいよ。座るっていうか一緒にここにゴロンって横になってごらん。星空がきれいだよ」


「ほう、星空か。それはいいね」



 マリンは夜空を一度見上げると、少し眺めてから私の隣で横になった。



「これは確かに綺麗だね。数多の星々、それに少し陰った月が逆に幻想的に見える。いいね」



 私はこの時とばかりに、マリンに伝えたかった事を言った。でもそう思っていたのは、なにも私の方だけでは無かったようだった。



「そう言えばマリン……明日の事なんだけど、私達は早朝にはここを出てお墓参りをした後に、ミャオっていう友達に会う為に、その子の後を追うつもりなの。それでね、バーンに馬を頼んだんだけど、マリンの分も頼んじゃったんだけど……一緒に行くよね?」


「ふむ、そうなんだ。実はボクもミャオとは友人なんだ。クウやルンともね」


「え? マリンが!?」


「うん、ミャオの家にも泊まった事があるよ」



 驚いた。まさかマリンも、ミャオやクウやルンと知り合ってたなんて。


 でも、考えてみればマリンは、テトラやセシリアと一緒に行動をしていたんだっけ? そう言えばエスカルテの街にも立ち寄っていたみたいだし、バーンとも顔馴染みだった。……なるほど、そういう事だったんだ。



「それでね、明日からの事もそうなんだけど、ボクからもアテナに先に言っておきたい事があるんだ」


「言っておきたい事?」


「そう。実はボクはね、ノクタームエルドで君の師匠だという老剣士に会っているんだ。名はヘリオス・フリート」


「え!! し、師匠にあってるの!!」



 流石にそれには驚いた。まさか、ノクタームエルドに師匠がいたなんて……それならなんで……なんで、私に会いに来てくれなかったんだろう。



「なぜ近くまで来ていたのに、会いに来てくれなかったんだろうって思っているよね。当然だ」


「うん。だって、マリンと会ったんでしょ?」


「うん、ロックブレイクという所で知り合ったんだ」



 ロックブレイク。その場所は私達も立ち寄った。あそこに師匠も立ち寄っていたなんて、とても不思議な気持ちになる。


 それから暫く、キャンプ場に二人で寝転がって夜空を眺めながらも会話は続いた。


 だけどマリンは、自分の過去の事を話してはくれなかった。何一つ話さない。きっと、何かつらい過去があるのかもしれないと思った。


 ルシエルだって、同じようなところがある。だから、自分で話そうとしなければ、特にルシエルにもマリンにも無理に聞いたりはしない。


 ……だけど、マリンがどんな子なのかなっていう興味は凄くある。


 だからマリンに、ドルガンド帝国と『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』という組織にルーニが攫われた時に、救出する為に助力してくれた事に関しては色々と聞いてみた。


 するとマリンは、トゥターン砦に向かっていたテトラやセシリアと出会い、仲間となってルーニを救い出した事や、そのあと王都でお父様や爺に会った事などを話してくれた。


 そしてそれからまた王都を出立し、また再会したテトラやセシリアと共に、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』のアジトを潰したり、一緒にキャンプしたりした事も楽しそうに語ってくれた。


 テトラは兎も角、あのセシリアまでもがキャンプを楽しんでいるなんて、とても信じられなかった。マリンの話はもちろん信じているけど、それが事実なら私もセシリアやテトラとキャンプしたり冒険したりしたいと強く思った。


 それからテトラ達は、ルーニを誘拐したりルキア達の住むカルミア村を襲った『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』を全て倒すために、今度はメルクト共和国へ旅だったのだそうだ。


 メルクト共和国内は、現在賊に襲撃されて大変な事態に陥っていると聞く。テトラ達は、それをどうにかしようとしている。


 でもルキアの妹であるリアが、無事に生きていた事をルキアに伝えなければならないと思ったテトラは悩んだ。だからマリンは、テトラの代わりにルキアにリアの無事を伝えようと、テトラ達と別れて単身ノクタームエルドに向かったのだ。


 ……その旅の途中で、マリンは私の師匠に会った。


 本当に、巡り合わせというものはちゃんとあって、不思議な糸で繋がっているんだなって思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ