第476話 『クラインベルトであった事 その2』
バーンは、続けてセシリアとテトラの事を話してくれた。
二人は、ルキア達の住んでいたカルミア村を救った後、そのルーニの誘拐を請け負ったり、カルミア村を襲ったりした巨大盗賊団『闇夜の群狼』をやっつける為に、今度はメルクト共和国に向かったのだという。
メルクト共和国は現在、国を統治している執政官が盗賊達に襲われて混乱状態になっているらしい。それで、お父様もメルクトを救うためにローザを派遣したみたいだけど、向こうでセシリア達とローザが一緒に肩を並べて、今も盗賊達を相手に戦っているみたい。
それが本当なら、私もそこへ行って皆の力になりたい。助っ人として駆け付けに行けたらと思った。
だけど、それはかなわない。私はエスメラルダ王妃と交わした約束があって、パスキア王国に行かなければならないから。
でも助っ人に行きたいというのは私の気持ちで、実際はセシリアやローザ、それにテトラだけでもきっと大丈夫だと思った。皆、超がつくほどとても優秀だから。
「本当に色々とあったのね。ミラールやロン、クウにルン、リアの事もそうだけど、バーンにも本当に助けてもらったわ」
「ああ? 気にすんな。俺も好きでやっている事だからな。気にしなくていいんだよ。それより、俺が国王にお前の居場所をチクった事、これで完全にチャラにしてくれるだろ?」
ラスラ湖でもキャンプの事を思い出した。そう言えば、ローザの送別会をぶち壊されて、私はバーンに物凄いプンプンに怒っていたっけ。あの時の事を思い出すと、なんだか笑いが込み上げてくる。
「ええ。今のバーンには物凄く感謝している。あなたがとても優しい人って事が解ったし、それでいて凄く頼りになる人だって事もわかったから。ミラール達の笑顔を見たら、それがより確信に変わったわ。……子供達の事、本当に感謝しています。ありがとう、バーン・グラッド。あなたは本当に素晴らしい最高のギルドマスターです」
改めてきちっと面と向かってバーンにお礼を言うと、バーンは照れ臭そうに鼻を掻いた。そして、吸っていた煙草の火を消すと、いきなり私を抱きしめて頭をグシャグシャと撫でくった。
「くっさーーーい!! 凄く煙草臭い!! もうっ、嫌だって! 離してよバーン!!」
「ハッハッハッハ!! この可愛い奴め!! このやろこのやろ!!」
「ちょっと、もうやめてーー!!」
逃げ出そうと暴れてみたけど、私を抱きかかえるバーンの腕の腕力は尋常ではなかった。なるほど、ルシエルが暴れても全くどうにもならない訳だ。
それでも私はなんとかバーンの腕から脱出しようと、丁度気になっていた事を聞いて気を逸らす作戦に出た。
「っていうか、ミャオは何処に行ったの? もしかして、ローザやセシリア達と一緒にメルクト共和国で盗賊達と戦ってるとかじゃないよね。まあ、ミャオがそんな巨大組織相手に戦えるとは思えないけど……それにクウやルンも見かけないけど、バーンは知っているんでしょ?」
「おっ! そう言えば言ってなかったっけかな?」
腕の力が緩んだ。ここで、私はまるで猫のようににゅるんと身体を捩ってバーンの腕から脱出した。ふう、助かった。
「もしかして、クウとルンはミャオと一緒にいるの?」
「ああ。なんか、荷車いっぱいの曰く付きの荷を商売仲間から買ったらしくてな。商品は、価値のあるものもあったらしいが、なんせ曰く付きでエスカルテの街だと足元を見られて買いたたかれるってんで、それでクウとルンを連れてブレッドの街へ向かったよ」
「そうなんだ。でも、クウとルンを連れて街の外へでるなんて……」
「まあ俺も心配だったけどよ、ミャオがいるし心配ないだろ。一応、俺の方からもシェリー・ステラっていううちのギルドの冒険者を護衛につけたからよ。だから、大丈夫だろ。ルキアだって、クウより年下だがお前について行って、外の世界を冒険してるだろ。クウやルンも一緒だよ」
「うーーん。まあそう言われてみればそうなんだけど……」
「まあ、お前だって久しぶりにミャオやクウやルンの顔も見たいだろ? 今日ここでキャンプして、明日ミャオの後を追ってみればいいんじゃないか。ブレッドの街ならそう遠くはないし、パスキアに行くのは一週間後だろ? 行くなら馬を貸してやるぞ」
確かに、それもいいかも。ミャオやクウやルンの顔を見たい。
私は少し考える素振りをする。すると、キャンプ場にミラールとロンと楽し気に会話して、戻ってきたルシエルが目に入る。
続けて雑木林で薪割りをしているノエル、それにルーニとリアと楽し気に会話しているルキア、テントの中でカルビと丸くなって転寝しているマリンというふうにそれぞれ目を移していった。
――よし!
「うん、決めた。それじゃ、明日起きたらエスカルテの街と、カルミア村に行ってお墓参りをする。それからミャオたちの後を追うから、馬を5頭貸してくれると嬉しいんだけど」
「馬を5頭だな。了解した。ちゃんと明日手配してやるよ」
レーニとモロ。それにルキアだって、自分のお父さんとお母さんに会っておきたいと思った。カルミア村にはルキアの両親のお墓がある。
「よいしょっと!」
バーンとの話を一旦終えると、立ち上がった。空を見ると、オレンジ色になってきていた。
私は膝についた草と土を払うと、いそいそと皆で食べる夕食の準備をし始めた。
それに気づいたルーニとルキアとリアが、こちらに元気よく駆けてきた。




