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第474話 『人工の川とガキ大将』




 ルシエルは、ずっとバーンに抱えられて好き放題されていたけど、ようやくなんとか脱出する事ができたみたいだった。


 バタバタと暴れて猫みたくスルリと抜け出す。バーンから逃げ出すやいなや、ミラールとロンに声をかけて川の方へ走って行ってしまった。


 そんなミラールとロンを引き連れて駆けているルシエルを例えるなら、凄腕の冒険者や森の知恵者もしくは守護者というよりは、下町のガキ大将みたいだなと思って笑ってしまった。


 テントの設営が全て終わると、マリンが何か読むものはないかと言ってきたので、私の持っている本をいくつかザックから取り出してマリンに手渡した。すると彼女は、早速その本を手に取りテントの中に入り込むと、中でだらしなく転がって本を読み始めた。


 お父様は、またゲラルドが様子を見にやってきたので、焚火の前に移動してそこに座って二人で何か話をしている。


 皆、思い思いに時を過ごしているな。さてと、じゃあ私は……


 辺りを見回すと可愛らしい仲良し三人組が目に入る。和やかに眺めていると、ノクタームエルドで知り合ったメールやミリー、ユリリアを思い出した。彼女達も仲良し三人組だった。



「ルーニ、ちゃんとテントを設営できた?」



 ルーニ達の方を見に行くと、3人で一緒に入る為の大きなテントが上手に張られていた。でもこんな大きなテント……というか、他のテントやキャンプ用品もそうだけど、お父様がわざわざ私達の為に買い揃えてくれたのかなと思って改めて考えると、やはり驚きを隠せなかった。


 お父様は、私の気持ちを尊重してくれている。だけど、ここまでしてくれるなんて。



「うん、アテナお姉様。ルーニとリアが、テントの立て方解らないと言って困っていたら、ルキアが丁寧に教えてくれたんだよ。ほら」


「わあ、凄い。こんな大きなテントを三人だけで設営できるなんて。もうこれで、ルーニもリアも立派なキャンパーだね。冒険者にだって、いつだってなれるよ。でもそうなると、ルキアが二人の師匠だね」


「わ、私はアテナに自分が教えてもらった事をルーニ様とリアに教えただけですから」


「ちょっと、ルキア! ルーニの事はルーニって呼んで頂戴。リアにもそう言ってるんだから」


「え? でもルーニ様は王女様……」


「でももヘチマも無いわ! ルーニとルキアは、もう友達でしょ。ルキアの方が、ルーニよりもお姉さんなんだし、もっとリアに接するようにルーニにも接して欲しいわ」



 ルーニがそう言うと、ルキアの表情がパアッと明るくなった。そして私の顔を見たので、私はルキアににこりと笑ってみせた。すると、ルキアはルーニの手を握った。



「そ、それじゃルーニ! これから今日一日、よろしくね!」


「うん、こちらこそ。リアもよろしくね」


「うん! 私とルキアお姉ちゃんをよろしくね!」



 三人の可愛い少女が、手を取り合い友情を深めている。なんとも可愛い子達だなー。うんうん。


 ルーニ達にひとしきり癒されると、私は城から運ばれて積み上げられている荷物の方へ移動してゴソゴソと漁り始めた。



「あった、やっぱりあった! 紅茶!」



 私が趣味で作っていた、森で採取した薬草をブレンドして作っていた薬茶のストックは、ノクタームエルドの旅の途中に完全に無くなってしまった。だから、ずっとお茶が飲みたかった。


 私はここにいる全員分のカップと、紅茶用のポットをいそいそと用意し始めると、茶葉をポットへ入れた。そして、紅茶を入れる為の水を手に入れる為、水桶を手に持った。


 さて、水を汲みに行こう。あっちから水の音が聞こえる。お父様とルーニが発案して作ったという人工の川がある方――そこへと歩いた。


 キャンプ場をぐるっと囲んで造り上げた雑木林のような場所を、水の音を頼りにてくてくと歩いて進む。


 お父様とルーニは、この王都内にどれだけの敷地を使用して、このキャンプエリアを作ったのだろうか。数十人のドルイドを使い、他にも土木作業員を投入したとは思うけれど、周囲は草木で溢れている。なんとも思い切った事をしたものだと、改めてお父様とルーニの行動に驚いた。


 でもこのキャンプ場は、本当に素晴らしい。今日は私達が使用しているけれど、それ以外の一般開放している日は、きっとこの場所は王都の人達で溢れているのだろうなと容易に想像できた。


 ただ、出来ることなら無料開放してあげればいいのになーと思う。でも多少なりとも使用料を支払う事で得るメリットもあるのだと思う。有料であれば、管理も充実させる事ができるし、皆もルールを守るだろうし。



「……キャンプ場かあ」



 自分の理想のキャンプ場を作る。それもまた、とても面白いかもしれない。ただ今は、冒険を続けて色々な場所でキャンプをする事が何よりも楽しいけどね。



「ん? あれかな」



 ――川。確かに川があった。人工の川だとお父様は言っていたけれど、普通に山や森の中にある川に見える。


 深さもそれなりにある場所があって、泳ぐ事もできそうだ。それにお父様達が放流したのか、川の中には泳いでいる魚も見えた。



「ひゃっひゃっひゃっひゃ!!」



 バシャバシャバシャ!!



「ルシエルさん、やめてください!!」


「うわーー!! 助けてくれミラール!!」


「逃がさんぞ、逃がさんぞ!! こっちこーーい!! オレがバーンに負わされた心の傷を、お前達にも味合わせてやる!! そうする事で、オレと同じ境遇を持つ者を増やし、仲間となるのだああ!! フハハハハハハ!!」

 


 聞きなれた声。


 見ると、勢いよく服を脱いで、下着だけになったルシエルが川の中へと飛び込んでいた。そしてミラールとロンを捕まえて、川の中へ引きずり込んでいる。もう……楽しいのは解るけど、物凄いはしゃいでいるなあ。


 ルシエルはミラールとロンを川の中に引きずり込むと、そのままミラール達に抱き着いて戯れていた。ミラールやロンも、「やめてください」といいつつも、なんだか楽しそう。


 考えてみればルシエルは、黙っていれば物凄い美女だもんね。そんな美女に、下着姿で抱き着かれたら年頃の男の子ならきっと嬉しいよね。フフフ。



「よよいっ!! アテナじゃねーか!! アテナもこっち来て川へ入れよ、楽しいぞ!! 今、水系モンスターになりきって、この獣人の子供達を川へ引きずり込むという遊びをしていたんだ!! アテナもこっちこいよ、なあ! いいじゃねーか!」



 ほんっっっとーーーーに、黙っていたら美人なんだけどね、ルシエルは。溜息。



「今は入らなーい。それにこれから、紅茶でも飲もうかなって思って水を汲みにきたの。もうあと2~3時間程したら夕食の準備を始めるけど、それまでは遊んでていいからね」


「ええーーー、アテナも一緒に水浴びしよーぜ! つまんねーなーー。なあ、ミラール、ロン。お前らだってアテナと川に入って遊びたかったよな。スッポンポン姿、見たかったよな、なーー」


「え?」


「そ、そんな」


「ス、スッポンポンなんてならない!! なんなのよ、そのスッポンポンって!!」



 ルシエルの言葉を聞いて赤くなるミラールとロン。まったくもう、ルシエルは……



「そんな子供達の教育に良くない事ばかり言ってるとーー」


「なんだーー、やるかーー?」



 やる気はなかったけど、ミラールとロンも見てるし、このままルシエルをのさばらせておくのもなー。

 

 気が変わった私は、水桶を下に置くとそのままルシエルがいる川の方へ走って行った。



「ちょっと、お灸をすえてあげる」


「面白い!! やる気になったか、それならこのオレが直々に相手をしてやろう!! フヘヘ」



 ザブザブと膝の辺りまで川に入ると、両手を前に突き出してきたルシエルと手を組み合った。


 久々にルシエルとのこの感覚。とても不思議で心地が良い感じがした。

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