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第472話 『王都国立キャンプ場』




 訓練場を越えて、木々が生い茂る場所に入ると小道を見つけた。そこには、『クラインベルト王都国立キャンプ場』の表記がされた立札があり、直ぐに目に入った。


 やっぱりそうだったんだ。お父様とルーニがお城のすぐ近くに、キャンプ場を作ったんだ。


 小道に入ると、何人かの近衛兵とすれ違った。そして、近衛兵隊長のゲラルド・イーニッヒとも。


 冒険者の格好をし、フードを深く被っているお父様は、そのまま私に目配せした。ゲラルドには見つかりたくないらしい。変装している事をいいことに、そのままゲラルドとすれ違い通り過ぎようとした――でも。



「陛下。それにアテナ様」



 ビクッ!!


 ゲラルドの声に親子そろってビクっと反応してしまった。先にお父様がこたえる。



「陛下? 余は……儂は旅の冒険者じゃ……だ。どなたか知らんが、余……儂は陛下などという者ではないぞよ」



 それはないわ。そう思って、役者のセンスが皆無のお父様を哀れんで見ていると、ゲラルドが溜息を吐く。



「また、何かお戯れでございますか? まあしかし、アテナ様がお戻りになられているので、高揚されるお気持ちもお察ししますが」


「ひ、人違いとゆーとろーが」


「とりあず、陛下とルーニ様でおつくりになられたキャンプ場の周辺は、我々近衛兵と破龍騎士団(はりゅうきしだん)が巡回しておりますゆえ、安全です。王都、街の方も鹿角騎士団(ろっかくきしだん)他、複数の騎士団が治安維持と警備の巡回任務にあたっておりますので、何か不審なものが現れればたちどころに捕らえて事態に対処致します。ですので、今日は陛下もアテナ様も、ルーニ様やご友人たちとごゆるりとお過ごしくだされ」


「ほ、ほう。そうなのか。それはご苦労であった。お主のその隅々に至るまで行き届いた配慮、余……儂から……へ、陛下に伝えておこう」



 もうバレバレなのに、お父様はまだ続けていると思った。滑稽極まりない。



「ありがとう、ゲラルド。あなたも良かったら参加しない?」



 すると、ゲラルドは少し微笑んだ。そして頭を下げると警備の任務へ戻る為、立ち去った。



「お父様、もうバレてたよ」


「そ、そうかのう? もしかしたら、もしかするかもと思っておったんじゃないかゲラルドは。平静を装っておっても、内心は疑心暗鬼にかられていたという可能性も、全くは否定はできぬであろう。ならば、まだ完全に余の正体を見破ったとは言い切れん」


「はいはい。そうかもしれないわね。それじゃ、皆の所へ急ぎましょ。きっと、待っているし」


「うーーむ、ゲラルドの事じゃ。きっと余の見事な変装に疑心暗鬼に陥っていた事には違いないのじゃ」



 ブツブツとまだ言って、時間をかけて変装した姿を簡単に見破られてしまったことを、認めようとしないお父様の手を引いて小道を更に奥へと進んだ。


 遠くから見た時、煙が立ち昇っていた場所。そこに、皆の姿があった。


 大きな焚火を二つも作って、皆で囲んでいる。ルシエルにノエル、ルキアにリア。そしてマリンとルーニが、何か楽しそうに話しをしながらも作業をしている。その周りでは、カルビが走り回ってはしゃいでいる。


 周囲には木々が沢山生い茂っていて、林のようになっていた。水の流れる音も聞こえる。っていう事は、川もある。まさに理想のキャンプ場。



「こ、こんな場所、王都内に作るなんて……信じられないわ」


「わっはっはっは。そうじゃろ、そうじゃろ。余とルーニで考えて作ったんじゃ」


「王都内に、こんな草木が生い茂っている場所なんてなかったもん。しかもこの水の音は、近くに川があるって事よね」


「ほーーう。流石に耳がいいの。川は作ったのじゃ。それにそこいらじゅうに生えている草木は、草木を操れるという腕の良い【ドルイド】を数十人わざわざこの国へ招いて作らせたとういう訳じゃ」


「そ、そこまでして……」



 以前、ラスラ湖でルシエルやローザやミャオと湖畔キャンプしていた時に、ゲラルドによって王都へ連れ戻された。その時に腹を立てた私は、王宮の中庭で焚火をしてテントを張った。その行為にお父様もルーニも驚いていたけれど、私のキャンプが好きな気持ちを解ってくれた。


 そして再び旅に出る為に王都を出発したけど、その時にお父様と交わした約束。その中に、一緒にキャンプしようっていうのがあった。だけどまさか、王都内にキャンプ場を作ってしまっているだなんて正直驚きを隠せない。



「私は王都にキャンプ場があるだなんて、とんでもなくテンションあがってるし嬉しいけど、こ……こんなものを税金なんかで作ったら国民の怒りをかうんじゃない?」


「わっはっは。そんな事はないぞ。このキャンプ場はな、王族……と言っても、使用するのは余かルーニ位の者だけじゃがな、使用予定のない間は一般開放もしておる。維持費もかかるんでな、当然管理人を置いて料金は取っておるが、それでも評判はなかなかのもんじゃぞ」



 料金を取ってるって……こ、国王っていうか商人みたい。そう思って父の行いに対して呆気に取られていると、ルシエルの声が聞こえてきた。



「おおーーーーい!! アテナ!! もう、用事が終わったのなら、早くこっちこいよ!! これから皆で、ここでキャンプしよーかって話してんだけど、いいよな?」


「アテナお姉様、いいでしょー! ルーニはお姉様と一緒にキャンプをしたくて……でもお母様や爺やゲラルドが王都から出ちゃダメだっていうから、だから今度お姉様が戻ってきたら一緒にキャンプをしようって、お父様と一緒に考えてここを作ったのよ。ねえ、お父様」



 ルーニはそう言って、私の隣に立っていたちょっと疲れた感じの冒険者風のおじさんに話しかけた。


 一度会っているマリンやリアは、もう気づいているようだったけど、ここに国王がいると知って飛び上がる程に驚いたのはルシエルやルキアだった。ノエルは普段からドワーフの王、ガラハッド王に使えていたからかあまり驚かなかった。



「わっはっはっは。もうバレてしもうたか。この変装を見破るとは見事じゃ。まあ、そういう事じゃな。アテナよ、今日はここで皆でキャンプを楽しもうじゃないか。な」



 私はお父様の言葉に頷いた。ルシエル達が喜びの声をあげる。


 すると、私達の歩いてきた小道からまた誰かがこちらへ歩いてきた。


 見るとそれは、馴染みの顔だった。エスカルテの街のギルドマスター、バーン・グラッドとミラールにロン。私が戻っている事を知って、来てくれたんだと思った。


 そしてミャオやローザ、クウとルンの顔が無い事に気がついた。彼女達にも会いたい……

 

 ここには、こないのかな。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


破龍騎士団(はりゅうきしだん) 

クラインベルト王国の騎士団。その名の通り、龍も撃破する程の戦闘力と統率力を兼ね備えたクラインベルトきっての騎士団。騎士団長は、ニコライ・ガブー。


鹿角騎士団(ろっかくきしだん)

クラインベルト王国の騎士団。団員は、鹿の角を象った兜を身に着けている。騎士団長のシカノス・カナヤーは忠義の士でセシル国王の信頼も厚い。


〇ラスラ湖 種別:ロケーション

アテナ達が以前、ルシエルやローザやミャオと湖畔キャンプを楽しんだ、クラインベルト王国の美しい湖。

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