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第471話 『久しぶりの親子の会話』




 ルシエル達は、いったい何処に行ったのか――探しているとメイドを見つけたので聞いてみた。するとどうやら、皆で王宮を出て城の外にある訓練場の方へ向かっているのを見かけたとのことだった。


 確かルーニが一緒にいるはずだけど、いったいそんな所に何をしに行っているのだろう。


 その場所を聞くと、さりげなく後ろからついてくるお父様がポンと手を叩いた。



「なるほどのう。ルーニめ、早速皆をあそこに招待しよったか。ふむふむ」


「え? あそこって何処?」


「はっはっは。それは行ってからのお楽しみだな。しかし、城外へ出るならば、この王の身なりではちと目を引きすぎるのでな。アテナよ、少し待ってくれんか?」


「う、うん。まあ別にいいけど……でも一国の王様がそんな勝手にお供もつけずに、お城の外に出歩いてもいいの?」


「お前まで固い事を言うな。久しぶりに娘が帰ってきたのだからな、今は王ではなく一人の父親として接したいではないか。それにお供なら、ここにあの伝説級冒険者ヘリオス・フリートの弟子がいるではないか。これ以上の護衛となると、ゲラルド位のものじゃろ。はっはっはっは」



 うーーーん。本当にいいのかな? とても国王の言葉とは思えないんだけど……


 でもお母様が亡くなってからのお父様は、それ以前よりも増して私やモニカに気を遣い、こうやって元気付けようとしてくれていた。


 だけどやっぱり、私達だけでなくお父様自身もずっと寂しそうにしているのをひしひしと感じる。だからこそ、今とても自然に楽しそうに笑っているお父様を見ると、私もなんだか嬉しくなった。



「それではちくと着替えてくるからの。暫し待っておれ」



 お父様はそう言って、ウキウキしながら何処かへ行くと、また暫くして戻ってきた。まるで冒険者のような身なり。それから、フードを深く被っている。



「はっはっは。これなら、とても国王には見えまい。どうだ? Aランク位の冒険者には見えるか?」



 蓄えている髭もあって、どちらかというと賊に見える……なんて思ったけれど、それは傷つきそうだから言わなかった。



「う、うん! 凄腕の冒険者と見間違えちゃうくらいだね!!」


「そうか、そうか。うんうん」



 お父様の変装も終えて外出の準備が整った所で、ルーニ達が向かったという城外にある訓練場の方へ二人で歩いて行った。


 馬を使っても良かったけれど、それは私もお父様もしたいと思わなかった。親子でこうして仲良く道を歩いて、色々と会話するのも大切な時間だと思ったから。



「ところでアテナよ」


「なに?」


「お前は本当にパスキア王国の王子との縁談を考えておるのか? あれは、エスメラルダが勝手に進めていた話。嫌なら、無理にパスキア王国へ行かなくても良いと思うぞ」


「うん、まあお父様には以前話をしたけれど、私はもっと色々な土地を巡って様々なものを目にしたい。世界に触れたいの」


「世界にか……」


「うん。実際、生まれて初めて行って見たけど、一面何処までも荒野が広がるガンロック王国も、大洞窟が延々と広がるノクタームエルドも凄かった。本を読んで知ってはいたけど、やっぱり実際に見るのとではぜんぜん違って見えた」


「ほう、なるほどのお。まあ、わからんでもない。余も若い頃は色々と見聞をし、世界には自分の知らぬものが溢れている事を知り興奮したものよ」


「うん。だから……まあ、パスキア王国の王子がどんな人かも解らないし、縁談って言われてもぜんぜん乗り気じゃないんだけどね。でも、それでエスメラルダ王妃の気が済むのならまあいいかってね。それに、私まだパスキア王国って国に行った事がないから、見てみたいし」


「ア、アテナ……お前、そんな事を考えて返事をしたのか」


「うん。駄目?」



 お父様にそう言って舌を出してニッコリと笑って見せると、お父様は呆れたという顔と感心したという顔を同時にしたような複雑な表情になって、私を暫く見つめていた。そして、ようやく口を開くと笑いだした。



「ふーーむ。本当に、アテナ、お前はティアナによく似ておるわ。その容姿も考え方も、破天荒ぶりもな。ハッハッハッハ」


「私がお母様に!! それ、師匠にも言われたけれど、すっごく嬉しい!!」


「友人の所にも顔を出すのだろうが、パスキアへ旅立つのは一週間後だ。まだ時間があろう? あとで落ち着いたら、一緒にティアナの墓に行こう」


「うん! お母様にこれまでの冒険の話をしなくちゃいけないしね」


「ふむ。冒険のう……そう言えば、パスキア王国には翼の生えた馬、ペガサスがいるのを知っておるか?」


「ええ!? ペガサスがいるの!?」


「うむ。パスキア王国内には、野生のペガサスが生息しておったはず。それにパスキア王国の騎士団には、天馬騎士団(てんまきしだん)というペガサスナイトのみで編成した騎士団がおったはずだ。こうやってのお、空を見事に飛び回りよってのう、民のピンチには誰より早く助けにやってくる。絵になるその光景からも、近隣の国でも有名な話じゃ」



 ペガサスナイトに、天馬騎士団。縁談の話で憂鬱にはなっていたけど、これはちょっと楽しみになってきたかも。


 ルシエルもペガサスがいるって知ったら、きっと大騒ぎするに違いない。是非乗りたいって! フフフフ。



「アテナよ。訓練場には着いたが、ルーニ達がおるのはもう少し、向こうじゃ。そう……あの木々が沢山ある辺り……あそこにおるじゃろう」


「え? 訓練場の向こうってあんな場所あったっけ?」



 そういうと、お父様はにこりと笑う。


 確かにあそこにあんな木々の生えている場所はなかった。空き地のはず。しかも、木々の隙間から煙が立ち昇っているのが解った。


 も、もしかして!!


 私はもう一度お父様の顔を見る。するとお父様はウインクをした。


 それでもう解ってしまった。ルーニとお父様はきっと、お城のすぐそばにキャンプのできる場所を作ったんだ。


 ――つまり、キャンプ場!!


 私はお父様の手を強く握ると、走り出して皆のもとに急いで駆けた。お父様は、「落ち着け」と何度も言っていたけど、私は気にせずお父様の手を引っ張って走った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ヘリオス・フリート 種別:ヒューム

SSランクの伝説級冒険者。本人は、キャンパーと名乗っている。アテナやモニカの師匠で、とんでもない強さを持つ剣士。ノクタームエルドでマリンとも戦ったが、マリンではヘリオスには及ばなかった。ドワーフの王国がリザードマンの大群に襲われると情報を掴み、救援に向かおうとしていたがマリンと出会い、ドワーフの王国にマリンとアテナが向かっている事を知ったヘリオスは彼女達に託した。その後は消息不明。


〇ゲラルド・イーニッヒ 種別:ヒューム

クラインベルト王国、近衛兵隊長。もとは将軍の地位にいたが、過去にティアナ前王妃とアテナがドルガンド帝国に誘拐されるという事件が起き、その後は近衛兵に身を置いた。クラインベルト最強の剣士と呼ばれ、他国でも名将と名高い。


〇ペガサス 種別:聖獣

魔物では無く、聖獣と呼ばれている。翼の生えた白い馬。パスキア王国はペガサスを集めて訓練し、それで編成した天馬騎士団という舞台を編成している。それを率いるはパスキア最強の騎士と呼ばれている。

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