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第47話 『戦士再び』 (▼ウィリアムpart)







 ――――ネバーランの森。


 その森の中に、遺跡がある。冒険者やトレージャーハンターが、この遺跡に挑むのであれば相当な腕がないと、命を落とす危険性があると言われている。少なくともランクA以上の冒険者が推奨だ。


 俺はかつて、このネバーラン遺跡に無謀にも仲間と挑んで、死ぬ思いをした事がある。あれは、何度思い出しても後悔の連続だ。


 その時は、何度も死を覚悟した。しかし、助かった。…………助けてもらった。


 透き通るような綺麗な青色の髪をした、少女に命を救ってもらった。可愛らしいボブヘアーをした、天使だった。



「誰かーー!! 誰か助けてくれええええ!!」



 むっ!! 誰かの悲鳴!


 俺は、悲鳴のする方角へ向かって、全力で森の中を走った。



 ギャギャギャー!!



「助けてくれええ!!」



 冒険者だ。2人だな。ソードマンとランサーか。レッサーデーモンに襲われている。…………1匹なら、なんとかなる……か。



「うおおおおおお!!!!」



 ドーーーン!!



 ギャギャッ!!



 ウォーハンマーを振りかぶって、冒険者二人に襲い掛かろうとしていた、レッサーデーモンの横っ面をぶん殴った。レッサーデーモンは、ぶん殴られた衝撃で吹っ飛んで、近くの木に叩きつけられた。



「大丈夫か! 助けに来たぞ!!」


「すまない!!」



 レッサーデーモンは、起き上がると鬼の形相で、こちらに向かって襲い掛かってきた。ふん。解っていた事だが、やはり物理攻撃は効果ないか。



「どりゃあああああ!!」



 レッサーデーモンが腕を伸ばしてきた所を、ウォーハンマーで上からぶっ叩く。その衝撃で、レッサーデーモンは、潰れた蛙のように地面に叩きつけられ張り付いた。しかし、俺はしつこくその上から何度もウォーハンマーでレッサーデーモンを打ち付けた。俺は、こいつらの恐ろしさを身に染みて知っている。決して、容赦はしない。



「魔族め!! とどめだ!!」



 前回は、こういう物を持ってなくて苦労した。備えってのは、大切だな。


 懐から瓶を2本取り出して地面に張り付いているレッサーデーモンに向けて使用する。瓶の中から液体がこぼれ落ち、レッサーデーモンに降りかかった。すると、レッサーデーモンは断末魔をあげた。



 ギャアアアアア!!!!



 レッサーデーモンの悲鳴。そう。この瓶の中の液体は、聖水だ。みるみる弱っていくレッサーデーモン。更に無情な攻撃で確実にとどめをさす。何回もウォーハンマーで叩きつけていると、もう跡形もなくなってしまっていた。息は切れ切れだが、倒したぞ。



「はあ……はあ……怪我はないか?」


「あ……ありがとう!! 助かった!! あんた、ウォリアーだろ? レッサーデーモンを一人でやっちまうなんて、凄いな」


「まあな。それはそうと、あんたらあのネバーラン遺跡に挑んだろ? ランクいくつだ?」


「冒険者ランクはⅭだ。Ⅽと言っても俺達、腕には自信があるし、仲間との連携も日頃からよくできているし、いけると思ったんだ」



 ハアーーーー、溜息。この男たち…………ついこの間の俺を見ているかのようだ。



「まさか、あんなトラップがあったなんて! 仲間がまだ二人、遺跡に残っているんだ」


「なんだと⁉ 中にまだ仲間が残っているのか?」


「遺跡に入って、最初の大部屋に入ったら、トラップが発動して…………そしたら、大量のレッサーデーモンが現れて、襲われて! 俺達は必死になって逃げたんだが、仲間二人…………プリーストとウィザードを置いてきた」



 プリーストなら、レッサーデーモンに多少は抗える。ウィザードもだ。…………もしかしたら、まだ生き延びているかもしれん。その可能性は、捨てきれない。



「解った!! 急いで助けに行こう!!」


「すまんな! 助かる! 俺は、ターグ。そして、こっちのランサーがマルクだ。あんたの名前は?」


「ウィリアムだ。ウィリアム・ハーケン。ウィルって呼んでくれていい」


「恩にきる! ウィリアム!」


「ありがとう! ウィリアム!」



 3人で急いでネバーランの遺跡に向かった。到着し、遺跡に入ろうとしたその時だった。



「ぐっ…………」



 突如、俺の身体が硬直した。俺の身体が、このダンジョンに入ることを嫌がっている。



「おい、どうした? すぐに助けにいかないと?」


「解っている!! 解っているから、少し待て!!」



 身体が震え、足が前へ進まない。頭では、助けに行かなければならない…………一刻を争う事態っていうのは、理解しているが…………体が前へ進まないのだ。


 あの時の記憶が蘇る。あの大量のレッサーデーモンに襲われ、身体をえぐられ腕を折られ痛めつけられたあの記憶。痛い、痛い、痛い、痛い。



「どうした? 急ごう!!」



 ――――アテナ!! アテナ!! 俺に力をくれ! 勇気を! 少しでいいから、アテナの勇気を俺に分けてくれ!! 俺がもう駄目だと思ったあの時。俺の前に何処からともなく颯爽と現れて、俺を守ってくれたアテナのあの姿を、鮮明に思い出した。



「ぬおおおおおおおお!!!!」



 ――――俺は、ネバーラン遺跡に突入した!!


 早速、待ってましたとばかりに、レッサーデーモンが正面から迫ってくる。



「ウィリアム!! きたぞ! レッサーデーモンだ!」



 俺は、そのまま突貫した。レッサーデーモンにウォーハンマーを叩きこむ。更に現れたレッサーデーモンも叩いて吹き飛ばした。マルクが続けて槍で攻撃しようとしたので、制した。



「かまうな!! どうせ、倒したところできりがない!! 先に進むぞ!!」

 


 大部屋に出た! あの大部屋!


 トラップは、発動しない。きっと、先程ターグ達が発動させたばかりだからだろう。その時に現れたレッサーデーモン達は、きっとこの遺跡の何処かへ逃げた二人を追って散らばっているはずだ。


 危険極まりない状況だが、これは逆にチャンスと考えるべきだ。



「仲間はどっちへ逃げたか解るか?」


「多分、こっちだ。逃げる時にチラッと見た」



 大部屋から3方向へ道があるが、それ以外に細い道が一つある。ターグはそこを指さした。



「可能性があるのであれば、行ってみよう!!」



 その細い道に入り、少し奥へ進むと、更に奥の方で何か光が見えた。誰かの声も聞こえてくる。当たりだ。



「聖なる力で悪魔を退けたまえ! 《神聖光撃法術(ホーリーアタック)》!!」


「こっちへ来るなあああ!! 《爆炎放射(フレイムバースト)》!!」



 目映いばかりの聖なる光と、激しい炎がレッサーデーモン達を包み込んだ。


 ターグとマルクが身を乗り出して、そこへ突っ込む。



「ロベントン!! リノ!! 無事か?」



 ターグの仲間たちは、二人とも無事だった。そしてその二人は、持てる魔法を駆使してレッサーデーモンを退けている。



 ギャアアアアア!!



「今だ!!」



 懐から5本…………ありったけの聖水を取り出して、レッサーデーモン達に投げつけた。効果覿面、苦しんでいる。これなら、いけるぞ。

 


「よし!! 全員俺についてこい!! 一気にこの遺跡から脱出するぞ!!」



 そういって、大部屋まで走った。振り返ると全員いる。よし。脱出だ。



「うおおおおおお!!」



 脱出するために、一心不乱に走って出口へ向かう。更に後方から、新たにレッサーデーモンが何匹も迫ってきている気配がした。しかし関係ない!! 全力で走り抜けろ!! 走る事だけを考えるんだ!!


 遺跡を飛び出た。飛び出たら、すぐにターグ達を引っ張って近くの岩陰に身を隠した。


 思った通り、数体のレッサーデーモンが遺跡から外へ飛び出してきた。俺たちを探している。


 俺は、ターグ達に暫くじっとしていろと合図を送った。






 ―――――どれだけ時間が経ったのか、レッサーデーモンの気配はいつの間にか、なくなっていた。


 …………俺はアテナのように、スマートな戦い方ではないが、自分なりに、俺も以前の俺のような冒険者を救う事ができた。これでまず、あの時の自分への借りは返せたと思った。



「ありがとうな、ウィリアム」


「かまわん」


「それはそうと、こんな時になんだが、俺たちの仲間になってくれないか? ウィリアム。あんたみたいな、屈強な人が仲間ならこの先、心強い」



 俺は、ターグが差し出してきた手を握って応えた。



「嬉しいよ。よろしく頼む。これから、俺の事を呼ぶときは、ウィルでいいぞ」


「ああ! 解った! おっ、そろそろ街へ戻れそうだな。さあ、戻ったらまずは酒をおごらせてくれ。ウィリアム!」


「よろしくな、ウィリアム!」


 

 悪夢も断ち切った。これから、俺の再スタートだ。見ていてくれ、アテナ。



 俺は、そう強く思って空を見上げた。



 アテナもきっと何処かで、同じこの空を見ているのだろうか。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ウィリアム・ハーケン 種別:ヒューム

Cランク冒険者で、クラスは【ウォーリアー】。絵にかいたような戦士でウォーハンマーを愛用の武器としている。かつて、無謀にも仲間とネバーランの遺跡に挑むが、ダンジョントラップにかかり仲間には見捨てられ大変な目に合う。無我夢中、死に物狂いで逃げている途中、アテナに偶然出会い助けられる。それ以来、アテナの事が忘れられない。レッサーデーモンに襲われた恐怖は今もなお、トラウマになってはいるがアテナの事を思い出すと身体に力が漲る。名前がウィリアムなので、親しみを込めて出会う者にはウィルと呼んでくれと言うがなかなか思うように浸透しない。なんでー。


〇ターグ 種別:ヒューム

Cランク冒険者で、クラスはソードマン。仲間と共にネバーラン遺跡の財宝に目がくらみ挑む。しかし、ウィリアム同様にダンジョントラップに引っかかり、大変な目に。二人の仲間を置いて命からがら脱出を図るが、やはり仲間を忘れられずウィリアムに救出を頼む。


〇マルク 種別:ヒューム

Cランク冒険者で、クラスはランサー。ターグのパーティーメンバー。


〇ロベントン 種別:ヒューム

Cランク冒険者で、クラスはプリースト。ターグのパーティーメンバー。


〇リノ 種別:ヒューム

Cランク冒険者で、クラスはウィザード。ターグのパーティーメンバー。ターグの仲間の中で紅一点。


〇レッサーデーモン 種別:魔族

下級悪魔。下級と言っても、悪魔は幽体アンデッド程ではないが物理攻撃に強く、魔法にも耐性があったりするので神聖系魔法などで対抗しないといけない。よって、下級冒険者は悪魔と遭遇すると基本的には聖水などの備えがなかったり、パーティーにクレリックやプリーストのような聖職系のクラスがいなければ戦いを避けた方が良い。もちろん、こんな悪魔を大量に相手するなどの事があれば、よほど腕に自信がない限り逃げるべきだ。


〇ネバーランの森 種別:ロケーション

クラインベルト王国にある、とある鬱蒼とした森。森林ウルフなど魔物も沢山潜んでいる。本作品1、4,5話で、アテナがいた森。


〇ネバーラン遺跡 種別:ロケーション

ネバーランの森の奥深くにある遺跡。まだ調査もろくにされていないダンジョンで、冒険者ギルドからも危険視されている。その為、遺跡の中にはまだ手付かずの財宝が眠っていると噂されるが、危険なダンジョンな為、冒険者ギルドはこの遺跡に立ち入るには、 Aランク以上の冒険者でないと危険だと判断し推奨している。


〇ソードマン 種別:クラス

冒険者ギルドか認めている冒険者のクラス。剣士。剣が得意。


〇ランサー 種別:クラス

冒険者ギルドか認めている冒険者のクラス。槍使い。槍が得意。もちろん、ランサーだからと言って、剣を使ってはいけないというものでもない。冒険者ギルドに自分は槍を得意とする槍使いだという事を知らせ、登録をすればランサーのクラスは手に入る。例えば槍術を教えている道場なども存在し、ランサーでないと奥義を伝授しないという場合もある為、クラスというのは大切だったりもする。


〇プリースト 種別:クラス

冒険者ギルドか認めている冒険者のクラス。聖職者。回復魔法や神聖系法術を使用する。他にも似た聖職系クラスにクレリックなどもある。


〇ウィザード 種別:クラス

冒険者ギルドか認めている冒険者のクラス。魔法使い。黒魔法を使用する。杖を武器にするクラスで、ウィザードの使っている杖は、魔法効果が付与されているものなど特殊なものを使用してる場合も多い。


神聖光撃法術(ホーリーアタック)

黒魔法ではない。教会が教える、神聖系法術。魔力ではなく、聖なる力を使用し術を使う。聖なる力とは武術で言う気などに近い。聖なる力を持つ光は、魔を宿す魔物にも効果的に威力を発揮するが、悪魔やアンデッドなら更に効果を発揮する。霊体にも有効。


爆炎放射(フレイムバースト)

中位の黒魔法。爆発させる魔法ではなく、手の平から爆発により発生する強烈な炎を放つ魔法。低位の魔物ならこの魔法で、こんがり焼ける。





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