第466話 『奇跡の再会』
馬車を降りると、小さな柔らかい何かが私の胸に飛び込んできた。
「おかえりなさい!! アテナお姉様!!」
「ルーニ!! お出迎えに来てくれたんだ、ありがとう!! 元気にしてた?」
「うん! これ以上ない位に元気してたよ!」
私はその小さな身体を抱きしめると、抱え上げてくるっと回った。ルーニの笑顔を確認すると、下におろす。
「この小粒ちゃんは誰だ? も、もしかしてアテナの妹か?」
ルシエルがそう言った途端、後ろから誰かが蹴りを入れた。ルシエルは、よろめきながらも「あいたっ!」と言って蹴られたお尻を擦る。
ルシエルと共に振り返ると、そこには私達の馬車をドワーフの王国から、このクラインベルト王国の王都まで護衛してくれた鎖鉄球騎士団の団長ゾルバ・ガゲーロが立っていた。
ものものしい鎖鉄球騎士団が護衛する私達の一団は、途中賊には襲われなかったものの魔物には何度か遭遇した。
だけどその全てを、ゾルバ以下鎖鉄球騎士団が追い払う……というか、殲滅してくれた。私達は、ゾーイやゾルバの副官のガイ・メッシャーの雄叫びを聞きながらも馬車の中で楽しくお喋りに花を咲かせていた。それで気が付いたら、もうクラインベルト王国領内だったのだ。
こう考えると、騎士団っていうのはまた冒険者と違い統率されていて、強い力を持っているなと思った。
「てんめ、このヒゲおっさん!! 何しやがるんだ!! ガンロックでの恨みかこれは!!」
ルシエルがゾルバに蹴られたお尻を擦りながら、喰ってかかる。
「なんとも絶望的に礼儀のなっていないエルフだな! そして品性の欠片もなければ色気もない!!」
「あんだとおおお!! 色気とかそういうのは、あるわーーい! あえて隠してるんだよ!!」
ゾルバの罵声を聞いて、ノエルの口がニヤけた。はっとそれに気づいたルシエルが、更にゾルバに喰ってかかる。
「そんなアレだぞ!! アレだかんな!! そんな女子の尻をいきなり蹴飛ばすとかアレなんだからな!! とっても、良くない事なんだぞ!! 解ってやってんのかよ、ヒゲおっさん!!」
「ヒゲおっさんではない」
「ヒゲおっさんじゃねえか!! しかも、太ってるヒゲおっさん!!」
こ、子供の喧嘩? 私は溜息をついた。
「エスメラルダ王妃直轄、鎖鉄球騎士団団長のゾルバ・ガゲーロだ!! 何処の誰かも解らぬエルフふぜいが身分を弁えろ、この下郎が!! 貴様のアテナ様に対する態度、更にルーニ様に対する態度共に目に余るわ!! 身の程を知れい!!」
「はあ? そんなのだって、アテナはオレの友達だっし! マブダチだっし! 同じパーティーのメンバーだっし! 今更そんなん言われても困るーーう!! それに別にそんなの普通だろ?」
「な、なんだと、貴様!!」
ガンロック王国で私達を傷つけてでも捕らえようとしたゾルバの事があったので、ルシエルはゾルバの事を信用していない。またゾルバもルシエルの事を嫌っていた。だけど、いい加減仲裁しないと先に進まないかな。
「いいの、いいのゾルバ!! 私が冒険者として行動するのに、周囲に王族だという事を気づかれないように仲間の皆には、あえてそうしてもらっているの。だから、むしろこれはこれで気を使ってくれているんだよ」
そう言うと、さっきまで興奮していたルシエルが腕を組んで関心している眼差しで私を見た。
「ほう、上手い事言うなあ」
「こらっ!! そういう事を言うんじゃない!! っもう!!」
そう言って私は、手の甲でルシエルをペシリと軽く叩いて突っ込んだ。
「しかしですな、例えそうだとしてもこのエルフはルーニ様の事を小粒ちゃんと……」
「わーーーい、わーーーい!! 見てみて、アテナお姉様!! 凄く綺麗だよ!!」
ルーニの楽し気な声。ゾルバと共に振り向くと、そこではマリンが水属性魔法を使用し、掌から魔力で作り出した水を噴射させ、空に虹を作ってみせていた。
そういえば、この二人……ルーニとマリンは、セシリアやテトラを通じて面識があるのだなと思い出した。
ゾルバが呆気に取られていると、ルーニが何かを思い出したかのように、はっとしてルキアに駆け寄った。
「そう言えば、アテナお姉様にご挨拶した後、言わなければいけないと思っていたんだけど、あなたひょっとしてルキア?」
「は、はい、ルーニ王女様! わ、私はルキア・オールヴィーと申します!」
ルーニに話しかけられて、身体を震わせ緊張を隠せないルキア。どうしようと私の顔を不安げにちらっと見たが、私はルーニの事を信じているので、微笑んで返した。するとルキアは、再びルーニの目を見つめる。すると、ルーニは目を見開いて、ルーニの両手を取って興奮した様子で迫った。
「やっぱり!! やっぱりあなたがルキアだったのね!! 知っているわ! カルミア村のルキア・オールヴィー!!」
「な、なぜ私の名前なんかを王女様がご存じなのでしょうか?」
また震えながら問うルキアに、ルーニが抱き着いた。
「にゃっ!!」
「実はね、あなたに合わせたい人が今日ここに来ているの。私、ずーーーーーっとあの日から、ある人をあなたに合わせたかったの。それがついに叶うのね」
「え? え? 誰ですか?」
私はまさかと思った。
ドワーフの王国の件でゾルバに借りを作り、エスメラルダ王妃との事もいい加減解消しなければと思ってはいたので、嫌々ながらも戻ってきてはみたけれど……
私は、ルーニのサプライズの正体が何か完全に気づいた。
そして理由はどうであれ、この王都に戻ってきて良かったと心の底から思った。ルシエルとマリンもそれに気づいたのか、微笑んでルーニとルキアのやり取りを黙って眺めている。
ルーニは、ルキアから手を離すと何処かに向かって叫んだ。
「もう出てきてくれていいわよ!!」
すると、城門の方から一人の少女がこちらに向かって歩いてくる。獣人の女の子。顔もルキアとよく似ている。
ルキアはその少女の姿を確認すると、目から涙を溢れさせ泣き叫んだ。
「そ、そんな……嘘でしょ……これは、夢⁉ リ、リア。リアーーーー!!」
「お姉ちゃん!!」
二人の少女はお互いの方へ走り出し、そして抱き合った。暫くの間、辺りは二人の少女の泣き声が響き渡った。
流石の私も感極まったが、これからお父様たちに会うのだと思うと、しっかりしなきゃと我慢した。でも、別の方からも嗚咽。
見ると、永遠に再会する事ができないと思っていた二人の姉妹が、奇跡の再会をする光景を目にしたルシエルとノエルが、目からも鼻からも大量の涙を流していた。
二人共なんて涙もろいんだろっ思った刹那、自分も例外ではない事に気づいた。
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〚下記備考欄〛
〇ルーニ・クラインベルト 種別:ヒューム
クラインベルト王国第三王女。セシル王とエスメラルダ王妃の子で、アテナ、モニカ、エドモンテの妹。まだ幼いがしっかりしていて、それでいて自信家。正義感も強く、納得のいかない事は、しがみついてでも解明しようとする。アテナのようになりたいと、いつも言っている。
〇リア・オールヴィー 種別:獣人
カルミア村に住んでいた猫の獣人。ルキアの妹で、賊に殺害されたと思われていた。真面目で優しい性格は姉のルキアと同じで、ルーニ気に入られている。たまに王都に呼び出されると、ルーニの王女の仕事を手伝ったりしているが、エスカルテの街でミラール達に会ったりカルミア村の復興活動にも身を乗り出しているので忙しい毎日を送っている。勿論それは、リア自身とても幸せな事だと感じている。
〇ガンロック王国 種別:ロケーション
一面荒野が広がる国。寂れた寂しい国だと思いきや、フェスが開催されたりレースをしていたり、活気に溢れている。栄えている街もいくつもあるし、王都はかなり大きい。アテナ一行がクラインベルト王国を出て初めて冒険の旅をした国。




