第465話 『旅立ちの場所へ戻る』 (▼アテナpart)
――――クラインベルト王国。
私の生まれ育った国、そして緑に溢れて様々な動物や魔物も生息する肥沃な大地。
私は、この広い世界を見て回り、色々な場所でキャンプ……というか、様々経験をする為にこの国の第二王女という立場から、一般的な冒険者にジョブチェンジして、手始めにクラインベルト王国を見て回った。それは、心踊る旅であり冒険でもある。
それから暫くして、ルシエルやルキア、カルビという素敵で頼りになる仲間達に出会った。
新しい仲間ができた私は、そこから更に多くのものを見聞したいという欲求と、私の愛読書であるリンド・バーロックの冒険の書の影響もあって、クラインベルトから外国へ更なる冒険をするべく出発した。
隣国のガンロック王国――続けて、連なる山脈とその真下には、驚く程広大な大洞窟の世界が広がるノクタームエルドを見て回った。何処も素晴らしいキャンプ地……じゃなくて、世界だった。
ノクタームエルドでは、リンド・バーロックの書にも記されていたドワーフの王国を目指した。ドワーフの国は、とても美味しいものが沢山あって、世界でも有数の鍛冶職人や疲れを癒せるドワーフの国ならではの洞窟温泉に、素敵な出会いもあった。
でも、ドワーフの王国滞在期間中に大事件が発生した。
ザーシャという名のリザードマンが率いるリザードマン達の帝国、ザーシャ帝国とドワーフ達に追放された灰色ドワーフの一族ドゥエルガルが、ドワーフの王国に同時期に攻め込んでくるという大事件。
私は新たにできた友達やその国で生活する人達、知り合った親切で優しいドワーフ王国の人々の為に、リザードマンやドゥエルガルと戦う事を決意。
最終的には、リザードマンが最終兵器として連れてきた地竜ことグレイドラゴンも無事倒すことができて、国をなんとか救う事ができた。
その時反乱を起こしたドゥエルガルの方は、なんとルキアが解決してくれた。ドワーフの王国で別行動していた時に、ルキアは友好関係を築いていたドゥエルガル達の首領や、その周りの者達を説得して事態を収拾したのだ。これには驚いた。個人第一で言えば、ルキアが一番の功労者かもね。
こうして、このドワーフの王国全土を巻き込む戦いは、無事に平和を取り戻すことができた。
今回の件は、ドルガンド帝国やヴァレスティナ公国も関与している。私とお母様の因縁のある相手、帝国のヴァルター・ケッペリンも……
この件に関しては、まだ問題は解決はしていない。
最終的には、ドワーフの王国にはまだ帝国の侵略という脅威は残ってはいるけど、一時的にでも平和を取り戻し、今は平常を保っている事については、今一番の最良の結果だろう。
それは良かったと思うけれど――――私はその戦いでノクタームエルドで知り合った友人を、一人失った。
リザードマンの勇敢なる戦士、ギー。彼は自分の仲間を裏切ってまでも、私を守ってくれた。今、思い出すだけでも涙が溢れてくる。折角、友達になれたのに――――
…………
兎に角、私は私を守ってくれたギーにもまたいつかちゃんと、ありがとうって言えるように……彼が自分の命を賭けてまで、守って良かったと思えるような人間として生きていかなくてはならない。
そんなこれまであった事に関する様々な思いを胸に、私の義理の母であるエスメラルダ王妃に会う為に、彼女の私兵とも呼べるべきゾルバ・ガゲーロ率いる鎖鉄球騎士団に守られながらも、なじみ深いクラインベルト王国の王都へ帰ってきた。
旅する最中、この国でもガンロック王国でもノクタームエルドでも、鎖鉄球騎士団は私を連れ戻そうと追ってきた。理由はなんとなくは、解っている。エスメラルダ王妃が私を連れ戻したいのだ。
結局、何処かで決着はつけないといけないとって、旅の最中にも考え続けてきた。
ドワーフの王国を救う為に、私はゾルバ以下鎖鉄球騎士団の力を借りた。そう、クラインベルト王国へ戻り、エスメラルダ王妃に会うという条件で、騎士団長のゾルバは引き受け協力してくれた。
ゾルバの事は、信用できないし嫌いだけど約束は守らなくてはならない。なぜなら、ゾルバは約束を守ったのだから。
「おおーーおおーー!! 王都だ、王都!! さっすが、王都、栄えていやがるなー!! すげえ栄えてやがるぜー、まったくもー!」
馬車の窓から落ちそうになりながらも、身を乗り出すルシエルが叫んだ。もう、これでもかって位に、はしゃいでいる。馬車の警護をしている鎖鉄球騎士団の者達が、そんなルシエルの行動に怪訝な表情を見せる。
道行く王都の人達も、王族かと立ち止まっては私達の馬車を見物していた。うーー、恥ずかしい。笑顔で手を振るルシエル。選挙じゃないんだからっ!
「もうもう、はしゃがないでください! 目立っちゃうじゃないですか! ルシエルはもっと落ち着かないといけないですよ!」
猫耳と尻尾の生えている可愛い獣人の少女、ルキアがルシエルを嗜める。その隣にはカルビが丸くなっている。
「なんだと―! ルキアの分際でこのオレに歯向かうのかー!! そんなのアレだかんなー!! アレもんのコレもんだぞー! コレもんなんだからなー!!」
そう言ってルシエルは、ルキアを押さえつけ彼女の脇腹をくすぐりだした。馬車が揺れる。
「アハハハハ!! やめて、やめてーールシエル!! 助けてアテナーー!!」
苦笑いをする私。その横で、死んだ魚のような目で二人を見つめるマリン・レイノルズ。そして、こんな状況でも居眠りしているハーフドワーフのノエル・ジュエルズの姿があった。
馬車の窓から見慣れた王都の風景を眺める。お父様やルーニ、エスメラルダ王妃の待つ城はもうすぐそこだ。私は、ルキアをくすぐりまくっているうちにエスカレートしていって、悪魔のような顔になってきているルシエルを止めると、居眠りしているノエルをつついて起こした。
「な……なにさ……も、もう鉄は冷やがったのか? ちゃんと形は成しているんだろうな……」
よだれをごしごしと拭きながら、目をゆっくりとあけたノエルが呟いた。ルシエルが笑い転げる。
「ハッハッハッハ!! なーーに寝ぼけてんだノエル!! ここは、デルガルドさんちの工房じゃねーぞ! チョーうける!」
「そうだよ。もう、お城につくから、そろそろ起きてね」
私はノエルにそう言うと、ハンカチを出してノエルの口から垂れていたよだれを拭いてあげた。すると彼女は唐突に目を見開き、顔を真っ赤にして立ち上がった。
しかし、馬車の中。ノエルは馬車の天井に大きく頭をぶつけると蹲る。それを見ていたルキアは「大丈夫ですか!!」と彼女の顔を覗き込んだが、ルシエルは更に笑い転げてひっくり返ると、自分も馬車のドアに頭をぶつけて悶絶していた。
マリンは、そんな光景を死んだ魚のような目で変わらず眺めていた。
エスメラルダ王妃と会ってまず何を言って来るのか考えると、気持ちが重く沈んできてなんだか嫌な気持ちになる。だけど、私にはこんなに賑やかで素敵な仲間達がいる。
なんだって、かかってきなさい!! そう心の中で何度か叫んで自分自身を鼓舞した所で、馬車が止まった。
城に到着したのだ。
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〚下記備考欄〛
〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム
本作品の主人公。旅する事も食べる事も大好きな冒険者。趣味は、キャンプで冒険者というよりも本当はキャンパーと名乗りたがっている。二刀流の使い手でツインブレイドという剣を所持する。ドワーフの王国が一件落着し、その際にゾルバ・ガゲーロと約束をした事を果たす為、クラインベルト王国へ帰国中。
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
アテナの相棒。森の知恵者と呼ばれるエルフには似つかわしくない言葉使いや、行動を見せる。お調子者だけどちょっぴり涙もろいその性格は、憎めない。アルテミスの弓というとんでもない武器を所有しているが、彼女がなぜそれを所持しているのか、エルフの里からなぜ旅に出たのかは不明。アテナも気になっているが、話しづらい事もあるよねと、聞いていない。
〇ルキア・オールヴィー 種別:獣人
アテナの妹分。猫の獣人で、ノクタームエルドではその獣人としての能力に覚醒した。でも真面目で優しいその性格は戦闘では鬼になれず、人を殺められない。そのことでヴァレスティナ公国のドルフス・ラングレン男爵には冒険者に向いていないと言われるが、アテナに活人剣もあると言われる。
〇マリン・レイノルズ 種別:ヒューム
オズワルト魔導大国にある魔導都市マギノポリスでは、天才と言われた。しかしマリンは冒険者となり、旅をする。テトラやセシリアと出会い、エミリアとも出会った。そして現在はアテナ達と合流し一緒に行動を共にしている。見た目は銀髪でいつも眠たげな可愛らしい女の子だが、水属性魔法が得意で、水の悪魔やアクアデビルの異名を持つ。
〇ノエル・ジュエルズ 種別:ハーフドワーフ
ノクタームエルドでも有名な冒険者ユニット、アース&ウインドファイアのアースの異名を持つ。背丈は小さく褐色の肌で髪をサイドテールに結っている見た目から、小さな女の子に見間違われるがアテナよりも年上。武器は背負っているバトルアックスで、彼女のパンチは剛拳として恐れられ岩をも粉砕する威力を持つ。
〇ゾルバ・ガゲーロ 種別:ヒューム
クラインベルト王国の騎士。鎖鉄球騎士団団長で、エスメラルダ王妃の直轄の部下。エスメラルダの命令で、アテナを王国へ連れ帰る為にずっと追いかけてまわった。ドワーフの王国ではアテナに助力する事を条件に、一度王国へ戻りエスメラルダと会う約束を取り付けた。偉そうな髭に、肥満体の身体だがかなりの武力を持っている。
読者 様
当作品を読んで頂きまして、ありがとうございます。
そしてブクマ・評価・感想・いいね・誤字脱字報告して頂きました読者様には、重ねてお礼申し上げます。
とんでもなく励みになっております( ;∀;)
そして気が付けば400話を超えてしまい、物語も四章に突入してしまいました。
自分でもびっくりしております。
ですがまだ暫く、アテナ達の冒険は続くようです。
これからもより一層、楽しいものができればいいなーっと頑張って参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。
(*'ω'*)ハイー




