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第464話 『ドルガンドの将軍達 その2』




 皇帝陛下は、玉座から立ち上がられると集まった者達の前で宣言をした。



「これより我が帝国は、再び世界征服へ向けて行動を開始する。再三の勧告にも応じず、従属する事を愚かにも拒む愚者共の目を覚まさせる為に、軍を進行させるのだ。よって、余が招集したこの場にいる各将軍達には、それぞれ攻撃する為の筆頭となって従事してもらい、速やかに戦の準備万端整えるのだ」



 裏での暗躍、目に見えぬ静かなる戦争は続けてきた。しかし実際に兵を編成し動かして他国を攻めるというのは、最後にクラインベルト王国を攻めてから数年ぶりになる。冷戦は続いてはいたが――


 戦争時は、クラインベルトの猛将ゲラルド・イーニッヒと智勇共に兼ね備えた第一王女モニカ・クラインベルトによって、我が帝国軍は散々に打ち破られて撤退を余儀なくされた。


 あれから再びまた世界征服へ向けてドルガンド帝国は、動き出す。その第一歩としてまずは、ドワーフの王国の愚かな王子ガラード・カザドノルズを丸め込み、ヴァレスティナ公国とも裏で協力し、国力を高めてきた。だが、今他国を攻めるにしてもそのための力が備わっているのだろうかと疑問が残る。


 銀髪の魔獣と言われるハイドリヒ将軍と、豚野郎のシュヴァイン、そして王女誘拐など姑息な真似を続けていたヴァルター・ケッペリンが、陛下が開戦ののろしを上げたことに称賛の声をあげた。


 この者達は、戦争ができればそれでいい者達。そして自分の財の事しか考えてない、欲深き信用のならない者達だ。真の愛国者ではない。


 私はたまらず、おそれ多くも陛下に伺った。全員の視線が私と陛下に向けられる。



「陛下、よろしいですか」


「なんだ、クリスタフ。まさかこの余の決定に何か意をとなえる気か? 余はドルガンド帝国の皇帝ぞ。余の決定は、絶対なのだぞ」


「その通りでございます。もちろん我らは、陛下のご命令に従いますし、従うべきでございます。もしも従わないものがいるのであれば、直ちに極刑に処すべきでしょうな」


「ふむ……では、クリスタフ。お前は何を申すのだ?」


「恐れながら、ご質問をさせて頂きたく存じます。我々はまだ、何処へ攻め込むのか聞かされておりません。クラインベルトとの戦から数えれば、逸る気持ちもありましょうが、まずはじっくりと慎重に戦略を進める為にも、攻め入る国を教えていただけますでしょうか?」


「ウワーーハッハッハッハ!! そう言えばそうであったな。余としたことがうっかりしておったわ。お前は、ドルガンドで最も慎重な男だったな。よくぞ余を恐れず指摘してくれた。クリスタフ・ヴァルツよ。お前こそ、我が真の忠臣ぞ」


「はっ! ありがたき幸せでございます」



 陛下にお褒め頂いたと同時に、敵意を感じた。豚野郎、アテーム・シュバイン。この男は本当にどうしようもない男だな。自分自身の出世に害しそうな者がいると少しでも思えば、自分と同じ立場の同僚にも平気で敵意を向けてくる。


 そして他の将軍からも何かしらの気配を感じた。この場にいる者は、その全てが曲者ぞろいだ。



「これよりドルガンド帝国は、隣国であるパスキア王国とその王国と友好関係にある、クラインベルト王国に宣戦布告する」



 オオオーーーーっという臣下の声があちらこちらからあがる。ある程度予想していた国の名前ではあるが、いざ宣言されると驚かざるおえない。パスキアに関しては、同盟はしておらぬが友好国だ。



「どちらにしても両国は、友好関係にある国だ。どちらかを攻めれば、どちらかが援軍を送って我が帝国に牙を向けるだろう。小さな牙でも、噛まれれば痛みを感じるのが鬱陶しい。それでな、余は考えた。まずは隣国パスキア王国にのみ、宣戦布告する。それで一気に軍を送り、短期決戦を行いパスキアを従属させたのちに、勢いにのってクラインベルト王国を攻め滅ぼす」



 豚野郎のシュヴァインを筆頭に、陛下の言葉に「おおーー!! 素晴らしい!!」っという賛同をする声があがる。


 確かにパスキア王国は、クラインベルト王国のように手強くはない。今日まで力を蓄え軍事力を高めてきた我々にとっては、電光石火の如く攻め寄せ打ち滅ぼすことも可能だろう。しかし、気になる点はある。



「陛下、しかしパスキアには……」


「なるほど、クリスタフは心配性でいかんな。だが、慎重である事は良い事だ。慎重かつ断端な行動をとれる者こそ、我が帝国の将軍に真に必要な男だ。よし、決めた。お前を今回パスキア攻めの総司令官に任命しよう」

 

「はっ? 私如きが軍事総司令官をですか?」



 舌打ち。目をやらなくても解る、豚野郎のシュヴァインだ。



「そうだ! ここに集まった帝国の優秀なる将軍達よ。この度のパスキア攻めの戦、総司令官にはこの慎重かつ冷静な男、クリスタフ・ヴァルツに任せる。副将にはまた誰を任命するか追って命じるが、これより各々パスキア攻略の準備を始めよ!」


『御意!!』



 シュヴァインとあと何人かの将軍が、私が総司令を務める事を明らかに不服そうな表情をわざとらしくも見せたが、陛下の決定は絶対。各々従い、玉座の間を出た。私もそれに続こうとしたが、そこで陛下に呼び止められる。



「クリスタフ・ヴァルツ司令官」


「は、はっ!!」


「お前の手腕を見せてくれ。いいな、パスキアは即座に平定し、クラインベルト王国の攻略へ続かせなければならんぞ。グハハハ……いいな。即座に平定だ。パスキアは脆弱だ、お前なら確実にやりとげられるだろう。攻め滅ぼすか従属させるかは、お前に一任する。好きにせよ。この成功を持って、お前への褒美も考えておこう」


「はっ! ありがたき幸せにございます!」



 これは、大変な事だ。確かにパスキア王国は、隣国に我が強大なドルガンド帝国があるというのに、クラインベルト王国やヴァレスティナ公国の陰に隠れ平和ボケしてしまっている国だ。


 だが、脆弱と一言に決めつけてしまうのはどうか。あの国の王は大したことはないが、あの国にはあの国を守るパスキアの双璧と言われるとんでもない将がいる。


 この陛下から賜ったパスキア攻略作戦の司令官の立場。もしも失敗するような事があれば、私は陛下に首を刎ねられるかもしれない。


 とりあえず軍の侵攻は、陛下が私の副将を発表してからだ。それまでは、まだ時間があるだろう。作戦の立案も急がねばならんし、急ぎすぎても作戦に支障がでるかもしれない。


 あれ程の将軍たちの前で私を司令官に任命したのだ。もはや逃げ場もない。


 こんな事ならあの豚野郎が司令官をやって、失敗し始末されればいいのにと思った。

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