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第459話 『商人にとって大切なもの』




 ルンが、指先でつついてきた。ちょっと、くすぐったい。



「ミャオ、何とかしてあげようよ。このままじゃあの子達、栄養が足りなくなって倒れちゃうよ」


「な、なんとかって何をだニャー」



 今度は、クウが袖を引っ張る。



「私とルン、それにリアやミラール、ロン、それにルキアも盗賊団に攫われ奴隷にされて売り払われかけた時に、水も食事もろくにさせてもらえませんでした。極限の空腹は、地獄の苦しみです。アテナはそんな私達を救ってくれました。優しくしてくれました。だから、今の私達がいるんです。私やルンもアテナと同じように、そういう子達がいたら力になりたいです」


「で、でもニャー。アテニャは、冒険者ニャ。ニャーは商人ニャよ。この子達の今の生活や、お腹を減らしている状況には可哀そうだとは思うニャけど、商人は利でものを考えないといけないんニャよ」


「利だけじゃないよ」


「ニャニャ⁉」



 ルンの言葉に動揺する。



「だって、ミャオが前に話してくれたよ。商人は利だけじゃないって。利益のほかに信頼もいるんだって。信用されないと、商売は成り立たないって言ってたよ。あれは、嘘だったの? 信頼ってどういう事? 困っている人を助ける事と信頼は違うの?」


「そ、それはニャーー」


「あ、あの、私達は大丈夫ですから!!」



 ニャーがクウとルンと言い合っているのを見て、シスターアンナとケイトがたじろぐ。


 まったく、どうしたものか。商人がいちいち慈善事業などしていては儲からない。商人の価値は、儲ける事にあるのに。それは、戦士が純粋に強さを求めるような事と一緒。


 それでも痩せ細った孤児たちを捨て置けずに色々と言って、ニャーを説得しようとするクウとルン。助けを求めてシェリーに視線を送る。しかし、彼女は寝たふりをして逃げた。


 ルンが更に言った。



「ミャオはアテナの友達なんでしょ!!」


「そ、そうニャよ!! 友達ニャ!!」


「アテナの友達なら、アテナみたいにこの子達を助けてあげてよ!! できる範囲でいいから助けてあげて!!」


「ニャーー!! そんな事言ったってニャーは商人!! アテニャは冒険者ニャ!! 友達だけど、生き方が違うニャ!!」



 クウが、唐突に声を張り上げて言った。



「違いません!! ミャオもアテナと同じように優しい人です!! 私やルンの面倒をみてくれています。それに、それだけでなく商売の事など色々と教えてくれています。正直、私はミャオの事を実のお姉さんのように慕っていますよ」


「ルンもだよ!! ルンは、ミャオが大好き!! だって、ミャオも優しいから!!」



 お、お姉さん……うーーーーーーーーん。どうしよう。


 ニャーは、大きく溜息を吐くと立ち上がった。そして、クウとルン、それに居眠りしているふりをしているシェリー・ステラに向けて言った。



「ニャーは商人ニャ。先に言っておくけど、商人は利益を考えて動くんニャよ。クウとルンは、今すぐ外にとめてある馬車へ行って積み荷から、林檎と馬鈴薯を降ろしてくるニャ。それぞれ麻袋に入ったものが2袋あるから、全部持ってくるニャ。重いから、シェリーとアンナも手伝って欲しいニャ」


「はい!! わかりました!!」


「うん、だからミャオ好きーー!!」



 クウとルンが外へ駆けて行くと、そのあとをシェリーとシスターアンナが追い掛けていった。シスターケイトは信じられないという顔でニャーに言った。



「よ、よろしいのですか? それはミャオ様の大切な商品なのでしょう?」


「その通りニャ。でも、商人は利益で計算して動くんニャよ。だからシスターや子供達にもニャーが、ちゃんともとがとれるように協力してもらうニャ。それにこのまま何も改善しないで、こんな薄暗い教会の中に籠って、野草を食べ続けていても未来はないニャ。待っていてもダメニャ。神様は、助けてと手を差し出すものに対して救いの手を差し伸べてくれるものニャ。最悪を良しとしていても、誰も助けないニャ」


「ミャ、ミャオ様!! わ、わたくしは……うっうっ……ミャオ様のお言葉に深く感銘を受けました!! おっしゃる通りです!! これから、わたくし達はどのようにすればいいでしょうか?」



 シスターケイトは、ボロボロと涙を流しながらもニャーにそう言った。隠れている子供達の何人か――特に幼い子達がシスターケイトを心配して、飛び出してきて彼女に抱き着く。ニャーは子供達にも笑いかけた。



「それニャー、皆にはニャーの為に働いてもらいますニャ!! 働いて利益が出れば、賃金もお支払しますニャ。でもその前に、腹が減ってはなんとニャらっていうからニャ!! 皆ニャーについてくるニャ!!」



 孤児は全員で24人。シスターケイトと共に子供達を教会の外へ連れ出すと、それぞれにまず林檎を配った。先程まで絶望に暮れていた子供達の表情は、林檎一つでぱあっと明るくなった。



「シャリシャリ……おいしいい!!」


「甘い!!」


「凄い美味しいよ、シスターケイト!!」


「はいはい、皆焦らないで食べなさい。そして、ミャオ様にお礼を言ってください」



 シスターケイトが子供達にそう言うと、シスターアンナも子供達に言ってきかせた。



「ありがとう、ミャオ様!!」


「甘くて美味しい林檎をありがとう! ミャオ様!!」


「ミャオ様―!!」



 ミャ、ミャオ様ってなんだかちょっとそれはやめてほしい。変な宗教の、教祖様みたい。ニャーは頭を掻きながら、困った顔でシスターに言った。



「様はやめてニャー!! ミャオでいいニャー!! シスターもお願いだからやめて欲しいニャ。あと感謝するニャらクウやルン、シェリーにもちゃんと感謝しないと駄目ニャ」



 そう言うと、子供達は皆クウ達に寄り集まってお礼を言った。特にルンとクウは、子供達とも年齢が近いせいか、早くも少し打ち解けてきている様子が伺える。うん、子供はそうでないと。



「皆、林檎をもう1つか2つ食べていいニャ。それで食べ終わった者から早速、ニャーのお手伝いをして欲しいニャ」


「お手伝い?」



 子供の一人が首を傾げて尋ねる。



「そうニャ。馬車にはまだ麻袋が積んでいるニャ。中身は小麦粉ニャ。これからそれを使って、あるものを作ってもらうニャよ。シスター達もちゃんと手伝うニャ」



 料理と聞いて、子供達は更に喜びの声をあげた。


 ニャーは、早速教会の外で料理を始める為に、作業台や椅子など必要な物を皆に分担させ、外へ運び出して用意をするよう指示を出した。


 そしてシェリーには、もしも近くに盗賊や魔物が現れたら、直ぐに先手を打てるように警戒して欲しいと頼んだ。

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