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第457話 『情と利』




 街道を大きく逸れて、草原地帯を馬車で進んでいた。シスターアンナが魔物に襲われて、投げ出してしまったという野草を回収する為に――



「あちらの方です。確か、あのあたりに投げ捨てたような……」


「ニャニャ! 了解ニャー」



 暫く馬車で草原地帯を走り、辺りを探る。荷台の方からもクウとシェリーが顔を出して周囲を見回していた。すると、ルンが声をあげた。



「あった! あれあれ。きっと、あれだよー!!」



 見ると、草原のど真ん中に大きな籠が転がっていた。馬車で近くまで行き、魔物がいないか警戒しながら籠を拾い上げて回収した。籠の中には、確かに野草が沢山入っていた。食べられる野草。


 シスターアンナは、その籠を抱きしめるとニャー達の方を向いてありがとうと何度も感謝の言葉を言った。



「ありがとうございます、ありがとうございます!! これで、なんとか子供達も助かります」



 え? 子供達? それを聞いてクウと顔を見合わせる。



「どういう事ニャ? シスター以外にも子供がいるのかニャ? まさか、その子供達も何も食べてないとかじゃニャイニャンニャ?」



 恐る恐る、頭に過った事を聞いてみる。するとシスターアンナは、ゆっくりと俯くと答えた。



「……実は、子供達がいます。子供達は全て、孤児で私とシスターケイトの二人で面倒を見ています。孤児なので当然ですが親もおらず、行く当てもない子供達ばかりなのですが……本当は、私達も明日食べる物の事ですら、ままないありさまでして。それで、他にどうすれば良いのか悩んだあげく、森などで食べられる果実や野草など採れば、子供達全員の食べ物も確保できるかもしれないと思い、教会で引き取ることにしました」


「ニャ、ニャニャーー」



 まさか、そんな事になっているとは……シスターアンナの身に纏う、所々破れ箇所があり汚れの目立つ修道服から、そういうあまり好ましくない環境に身を置いているとは、想像はしていたけど……やっぱり……


 クウがそんな子供達の生活環境を心配して、シスターアンナに詰め寄る。



「そ、それで子供達は大丈夫なんですか? ちゃんと、十分なご飯を食べているんですか?」


「はあ、一応。私とシスターケイトに至ってはもうかれこれ4日程、水しか口にしていませんが、教会にはまだ馬鈴薯がいくつか残っていましたので、それをなんとか皆で分け合って凌いでいます。でもそれももう、あとわずかで」


「なるほどニャー。それで、魔物と遭遇するかもしれないのに、こんな所に食用になる野草を探しにきていたんニャね」


「はい。冒険者を雇うにしても、お金もありませんし」



 皆の顔を見る。すると、まずルンが言った。



「ミャオ。ルン達がそこへ行ってなにかできる事ないかな?」



 クウも言った。



「私もルンと同じ気持ちです。何とか私達で、少しでも助けになれる事があるのではないですか?」


「そ、そう言われてもニャー。ニャーは別に慈善事業をしている訳じゃニャーしニャー。商人っていうのは、利益で動くもんニャよー」



 うーーん。まいったなと思った。ニャーは、今は商売の途中で、リッチー・リッチモンドから買い取った荷台に積んでいる沢山の商品を売ってこなくてはならない。


 今はその仕事の途中。店も長期間留守にしておけないし、できれば商売以外の事に首をつっこみたくもないけど……


 ルンとクウに何か言って、上手く説得して欲しいとシェリーに目配せを送ると、彼女は頷いて行った。



「あたしも生活があるからな。正式に依頼を受けて報酬をもらえるのであれば手伝いもするが……タダ働きは厳しい。それにあたしは、子供は大嫌いだしな。そんな孤児たちのいる所にいっても大して力にもなれそうにないな」



 そうニャ。そうニャ。その調子ニャ。その調子で、もっと言って欲しいニャ。


 恵まれない孤児たちは、とても可哀そうだと思うしシスターアンナの事は気の毒だとは思う。だけど、ニャーだって生活があるし商売をしている。商人が、困っている人がいるからと言って、いちいちボランティアしていると、商人として潰えてしまう。


 それが、損得勘定と言われてしまうとそれまでだが、商人っていうのはそれを基準にして生きている。可哀そうだからと言ってそのたびに助けていては、きりもないし、他人ばかりを助ける事が全てになって、いつか自分があり得ないくらいに落ちぶれてしまっているという可能性だって否定できない。


 ニャーは、僧侶などではなく商人だ。

 

 すでにニャーは、アテナやバーンの頼みでクウやルンの事も面倒をみて養っている。二人が、成長しやりたいことを見つけて、それを叶えるまで全力でバックアップするつもりだ。だけどニャーにとっては、これで精いっぱいだし、十分じゃないかと思った。更に他の子供達やシスターの面倒までは、みきれない。


 しかしシェリーは、自分の言葉で肩を落としたシスターアンナを見て言葉を続けた。



「――――しかしながら、報酬はだな。エスカルテの街のギルドマスター、バーン・グラッドから十分に受け取っている。しかも前払いでな。こういうのは、冒険者も商人と一緒で信頼問題に関わる事だしな。自分を高く売り込めるチャンスでもある訳だ。だから、あたしは教会へ行って何かするんであれば、手伝わされるという事に関して言えば吝かではない」



 ええええーーー!! シェリー、そうきたかニャ!!


 クウとルンも、ニャーの顔を見つめていた。



「お願いです、ミャオ。何か力になれないですか?」


「ミャオーーー! お願い!!」



 懇願する二人の少女の顔。それを見て、二人の村が盗賊に襲われた事を思い出した。ミラールやロン、リアもそうだけどクウとルンは、その盗賊共に攫われ奴隷として売買されかけた。


 奴隷売買何て、ニャーからすれば商人の中でも外道中の外道。同じ商人とも思えないし、他の人にも思ってほしくも無い。


 ……だから、そんなつらい過去をもつ二人は、悲惨な状況下に陥っている孤児たちがいると聞いて、とても捨て置けないと思ったのだろう。


 ニャニャニャーー。武芸者が武で動くように、利で動くのが商人。そんな商人が、情だけで動くのはどうかとは思うけど、こうなったらクウとルンの教育の為にも仕方がない。こうなってしまったら、覚悟を決めるしかないか。


 いくら商人でも、情だって必要な場合はあるし、ニャーにも情というものがあったのだろうから、ルンとクウと家族になれた。


 ……ええい! まあもう決めたならあれこれ考えても仕方がない。



「ニャニャ!! もうしょうがないニャ!! とりあえず、シスターを教会まで送っていくから、案内するニャ!! それで、何かニャー達に力になれそうな事があれば、微力ながら力にならせてもらうニャ」


「ほ、本当ですか!! ああ、神に感謝します!! ありがとうございます、これで魔物に襲われる事なく、無事に子供達にこの野草を届ける事ができます!」



 神様にではなく、クウとルン。それにシェリーに感謝するニャ。そう心の中でカッコ良く言い放った。

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