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第455話 『逃げ惑う聖職者』




 ――――空は快晴、緩やかな微風(そよかぜ)。いい天気。


 2頭の馬の蹄を聞きながらゆったと荷馬車に揺られ、街道をゆく。御者をするニャーの隣にはルンが座っていた。エスカルテの街の門をくぐってからずっと、目を輝かせて周囲を見渡している。頭の上の丸みのある耳がピコピコと動いている。


 荷馬車の後ろを見ると、シェリーは何やら武器の手入れをしている様子。クウは座り込んで、持ってきた本を読みふけっていた。なんと長閑なのだろうか。


 ルンが、脇腹をつついて言った。



「ニャヒンッ!! 脇腹はやめるニャー!」


「アハハ、だってミャオの反応面白いんだもん」


「でも運転中だからやめるニャー」


「それで、ルン達は何処に向かっているの?」


「そ、そうニャねー。とりあえずは、ブレッドの街へ行ってみるニャ」


「ブレッドの街……その街――大きい街なの」


「そうニャよ。エスカルテと比べると、やや劣るかもしれニャいけど、それでもカルミア村よりもずーーっと大きな街ニャ」


「へえーー!! 楽しみ!! ルン、その街へ行った事ないもの! そこで、後ろに積んでいる商品を売るの?」


「うーーーん。宛は一応あるんニャけど……売れればいいニャけど、もしかしたらそこでは売れないかもしれないニャ」



 街には行くけれど、そこでは売れないかもしれない。その言葉を聞いて、ルンは不思議な顔をする。



「え? それじゃどうして、そのブレッドの街に行くの? 商売をしに行くんでしょ?」


「そうニャよー。その街には、ニャーの知り合いがいるんニャ。その知り合いと話をして、商品がそこで売れるようならいいニャけど、無理なら何処かよそで買ってくれる人がいニャいか教えてもらうんニャ」


「へえーー! おもしろーい! そうなんだ!」


「商売の基本は、良い物を安く仕入れて、それを求めているお客さんに高値で売りさばく。それが基本ニャンニャ。その場合、仕入れ値は最低でも3割程度じゃニャいと必要経費なども含めて赤字が出ることもありえるんニャー」



 ルンは、もう聞いてはいなかった。ちょっと、話が難しかったかな。


 リッチー・リッチモンドから買い入れた商品は、なんだったのか記憶を整理する――――



・武器や防具   ・植物の種   ・油入りの壺 

・小麦粉(8袋) ・馬鈴薯(2袋) ・林檎(2袋)

・酒   ・調味料        ・煙草

・魔石  ・不思議な鰐の仮面



 荷馬車にはそれらを積んでももう少し余裕があったので、ついでに売れたらいいなあって、ニャーのお店から他にも商品をいくつか持ち出してきた。


 最初、リアやパルマンさん達の顔を見るついでに、カルミア村によってからリオリヨンの街へ行ってもいいかもと思った。


 だけどこれだけの量の商品になると、その情報は既に他の街へ流れている可能性もある。それにリオリヨンのように特に大きな街だと、曰く付きの商品は嫌われる傾向があるし、足元を見られて買いたたかれる可能性もある。


 曰く付きの商品を取り扱う場合、何処で仕入れたかを明確に冒険者ギルドや国にちゃんと報告して入手した経緯を明らかにし、買い手が説明を求めた際には、きちんとその素性を明らかにしなければならない取り決めもある。


 それらを破ると商人ギルドを追放され、悪徳違法行為を行った者として、最悪なケースになると政府に逮捕される。


 だから、やはり足元を見られる可能性の高いリオリヨンの街に行く事はやめて、ブレッドの街にした。そこでもこの商品を売るのは難しいだろうけど、さっきルンに言ったようにいい買い手の情報を教えてくれる友人がいるのだ。


 印象が良ければ、その場で買ってくれる。


 まあ、その友人も商売なので利益を基準に査定される事には違いないのだが……


 狙いは、曰く付き商品だと説明した上で、高値で取引してくれるお客さん。これだけの商品、商人相手に取引を持ち掛ければ必ずどうやって入手したか、仕入れ先を聞かれるだろうから。


 そうなると、正直にリッチー・リッチモンドからと言わないと……


 ふむ。だけど、酒や煙草、調味料なんかはあっという間に売れるんじゃないか。魔石だって、きっと高値で売れる。



「あれ、ミャオ。なんか、ニヤついてるけど何かいい事あったの?」



 知らないうちにニヤついていた。ルンに指摘され慌てる。



「ニャニャ!! 商売の事を色々とシュミレーションしていたニャ。それで、ちょっとおかしくなって笑っちゃったんニャ。ニャハハハ」


「アハハハハ。ミャオ、変なのー」


「変じゃないニャー」


「変だよーー」


「変じゃないニャーーー」



 ルンと戯れていると、急にルンが何かを見つけて声をあげた。



「ミャオ、あれ! あそこ見て! 誰か人がいるよ。魔物に襲われているみたい!」



 ルンの指の先。見ると、確かに魔物に襲われている女性がいた。3匹のウルフが女性の後を追う。


 ウルフから逃げ惑っている女性は、身なりからして聖職者だと解った。だけどどうしてこんな所に冒険者でもない聖職者がいて、魔物に襲われているんだろうか?


 まあ、そんな事よりも今はまず助けないと――


 馬車を街道の脇へ停車させると、後ろの荷台へ移る。クウとシェリーが何事かとニャーを見た。ニャーは、荷物から剣と短剣を取り出すとクウとルンにそれぞれに手渡した。



「こ、これは?」


「この短剣、かっこいい!! ルンにくれるの?」


「そうニャ!! それをプレゼントニャ!! ニャー達は、ちょっとあの向こうで魔物に襲われているシスターを助けてくるニャ!! クウとルンは、ここで待っていて欲しいニャ。このプレゼントした武器は、玩具じゃないニャ。護身用ニャよ」



 リッチーから手に入れた武器ではない。二人に手渡したのは、どちらにしても街の外へ出るなら後で護身用に手渡そうとしていたうちの店に陳列する武器だった。


 だから、どの位の切れ味があって耐久性があるとかしっかり解っている。つまり、二人には十分に質の良い武器を選んだのだ。



「それじゃ、追加料金はちゃんと支払うからシェリー、一緒にきて力を貸して欲しいニャ」


「了解したが、追加料金はいらんぞ」


「ニャ? ニャんで?」


「そんなの決まっている。バーンさんから追加料金をもらわなくてもいい位の十分な報酬を前払いで頂いているからだ」


「ニャ、ニャるほど……」



 シスターの悲鳴。ニャーはナイフを抜き、シェリーは剣を抜いてシスターのもとに駆けた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ウルフ 種別:魔物

狼の魔物。群れで行動する事が多く、獲物をみつけると狩りをする。


〇リオリヨンの街 種別:ロケーション

クラインベルト王国で、王都を含めなければ最大級に大きな街。王国内では、国境に近いせいか冒険者で賑わっている街としても有名である。


〇ブレッドの街 種別:ロケーション

クラインベルト王国にある街。エスカルテの街から比較的近い位置にある街。

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