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第453話 『クウの願いとルンのダダコネ祭り』



 用事を済ませて、直ぐ帰るつもりだった。だけど街の外には出るし、商談が長引けばそれに応じて家を空ける日数がかかる。だから旅の準備を整えて、その荷物を荷車に積んだ。


 そして、クウとルンに「行って来るニャ」と手をあげて言うと出発――しようとした所で、クウが駆けてきた。



「ミャオ! 私、ミャオにお世話になって一緒にお仕事の手伝いをしているうちに、お店の事とか興味が湧いてきて……今ではもっとミャオの仕事を見て知って、勉強したいと思っているんです!」



 知っている。毎日、夜な夜なその類の本を冒険者ギルドから借りてきたりしては、読んでいるのを。その為に、文字の読み書きや計算なども独学で勉強しているのも知っている。


 ルンはこの街の学校に行っている。クウも一緒に行けばいいし、その為の費用もバーンさんが出してくれると言っていたけど、クウはニャーの仕事に興味を持っていて、手伝いたいと言って店番や品出しに掃除と毎日働いてくれている。


 だから続けて何を言い出すのか、おおよその検討がついた。



「だから、一緒に連れて行ってくれませんか? 絶対邪魔になりませんから!!」


「うーーーん。連れて行くといってもニャー。知っている通り、街の外に出れば魔物と遭遇したり、盗賊に襲われる事だってあるんニャよ」



 盗賊と聞いてクウの表情が強張った。ルンも……


 クウ達のかつて住んでいたカルミア村は、盗賊達に襲われて村人も殺された。クウ達もその時に攫われて、奴隷として売り飛ばされかけた経験がある。


 だから、あえてこう言えばついてくる事を躊躇すると思ったのだ。でも決意は、ニャーが思ったよりも固かったようだ。



「それでも一緒に連れて行ってもらえませんか! ちゃんと言いつけも守りますし、危険な事もしません!! お役にも立ちます!」


「うーーーん」



 外に出れば魔物との遭遇は、必ずと言っていい程ある。戦いになるか、こっちか向こうが逃げて事無きを得たとしても、魔物や盗賊とは遭遇はするのだ。


 それにクウはまあ、お姉さんになってきているしとは思うけど……



「クウが行くならルンも行きたい!!」



 やっぱりこうきた。



「ダメ! ルンは大人しくバーンさんと留守番していないと駄目。外は凄く危険なんだから!」


「そんなのクウも一緒でしょ! ずるい!! ルンだって行きたいんだから!!」


「ずるいって、私はミャオのお仕事の手伝いに行きたいと言っているのよ。お仕事の手伝いと、勉強にいきたの!」


「そんなのルンだって、お手伝いしたい! ミャオお姉ちゃんのお手伝いをしたいったら、したいんだから!!」



 ルンがだだをこねだす。すると、ますますその何と言うか……ルンの感じが、より狸っぽく見えてくる。小さな可愛い狸が、駄々をこねて暴れている。



「いい加減にしないと駄目なんだよ、ルン!! もう少し大きくなったらきっと連れて行ってくれるから!!」


「いやーーー、いくーーーー!! ルンもクウとミャオお姉ちゃんといくーーー!!」



 こうなるともう、止まらなかった。バーンさんと、一緒に耳を押さえる。



「じゃ、ニャーンさん、なんとかお願いします」


「じょ、冗談だろ⁉ このまま泣きわめかれちゃたまったもんじゃねーぜー。よし、解った! おにーさんがな、美味しいスイーツをご馳走してやるぞ、ルン。一緒に行こうか? な?」



 そう言ってバーンさんは、ルンの手を握ろうとした。でも、ルンはさっとかわす。



「そう言ってバーンおじさんは、ルンを騙してそのうちにミャオお姉ちゃんとクウは出発する気でしょ! ルン、それ位解っているんだから! 絶対そうでしょ!」



 バーンさんと目を合わせる。



「ミャオ。こりゃもうしょうがないんじゃねーか?」


「しょうがないってどういう事ニャ? まさか、ルンを街の外へ連れていけって事かニャ! そんなの危険ニャ!!」


「危険も何も、もうこれは収まりつかねーぞ。それにこの子達はもともとカルミア村に住んでいたんだろ? あの辺もスライムやゴブリン、ウルフなどの魔物は出るが村に防壁は無かった。そこで生活していた事があったんだ。なんとなく警戒の仕方も身に付いているんじゃないのかー」


「しかしニャー」


「何処かの村で商売相手と会って、取引するだけなんだろ? 別にダンジョンとか行く訳でもねーしよ」


「確かにそうニャけど、もしもの事があったらって考えるニャよ」



 ルンを見ると、物凄い形相でこちらを見ている。怒れる子狸。絶対ついてくる気だ。


 バーンさんは溜息をつくと、一つ提案をした。



「おし! それじゃあルン。ミャオについて行くのはかまわんが、それには条件がある」


「ちょ、ちょっと勝手な……」


「まあまあ」



 ルンはバーンさんを見つめた。



「条件ってなに?」


「まず、ついて行くならミャオとお姉さんであるクウの言う事は絶対に聞くんだ!! なんせ二人はお仕事で行くんだからな。邪魔をするなんて、絶対にありえない。そんなのは悪い子だ。どうだ? できるか?」


「できる!! ちゃんと言う事きく!! おトイレも一人で行ける!!」


「おいおい、トイレは一人で行くな! 外でとなると、逆に危険だ。兎に角、何をするにしても二人に聞く事。それと、外は危険だ。十分に警戒を怠らない事。いいか? できるな?」


「う、うん! で、できるよ!」


「……ってわけだ、ミャオ。連れて行ってやったらどうだ? 考えてみれば、お前が留守の間に何処かからドラゴンが飛んできて、この街をいきなり焼き払ってしまう可能性だってゼロじゃないんだぜ」


「でもニャー。アテニャやテトラニャら、ちゃんとルンを危険から守ってくれると思うけどニャ。ニャーはそういうの自信ないニャ。ニャー自身で手一杯ニャ」



 バーンさんはそれを聞いて、ポンと手を叩いてニヤリと笑う。



「おっしゃ。それなら、ちゃんとクウとルンを守れる奴がいれば問題解決だな。丁度、うってつけの奴がダンジョン調査の依頼を終えて、冒険者ギルドに帰ってきているぜ」



 え? もしかして、冒険者が同行するの?


 リッチーから買った、曰く付きの品物。ニャー一人でさっと行って、さっと帰ってこようと思っていたのに、なんだかそんなふうにはいかなくなってきたなと思った。


 ルンを完全に連れていく流れになり、ルンは大はしゃぎして回った。考えてみれば、ルンにとっては久しぶりの外の世界。


 それをクウは、呆れた顔で見ていた。ニャーもだけどね……

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