第451話 『リッチー・リッチモンド その2』
重量感のある大きな麻袋が10袋。そのうちの2袋が馬鈴薯。2袋が林檎。そして残りの袋が小麦粉だった。
その他には武器や防具、何やら植物の種――おそらくは、作物の種。油の入った壺もあった。後は、木箱がいくつか。武器に関しては、鞘だけのものなどもある事から、襲われた時に盗まれたのだろうと思った。
だとすると、盗み去った者は武器にのみ興味を示したという事なのかな?
それを踏まえて考えると、こういう事かもしれない。この荷の所有者だった商人を殺害したのは、魔物の可能性が高い。考えてみれば盗賊なら品物全てを丸ごとさらう。
ゴブリンやオーク、コボルトなどの魔物なら、行商人を襲う事も珍しくないし、小麦粉や馬鈴薯に興味を示さないのも納得できる。肉ならきっと奪われている。
林檎に関しては、小麦粉の入った麻袋が上に乗っていたので気づかれなかったのかもしれない。
木箱を開けてみる。すると、中身の入った酒瓶が入っていた。他の木箱も続けて調べる。すると、料理で使う調味料や煙草、魔石まで見つけた。これは、なかなかの品物だ。全て売り捌けば、かなりの金額になる。特に魔石は、宝石のように価値がある。そして、最後の木箱を開けると不思議な仮面が入っていた。鰐の顔が象られた珍しい仮面。
ニャーは、リッチーを睨みつけた。
「いくらニャ? いくらでニャーに売りつける気ニャ?」
「売り付けるって、言い方! でもさっすが、エスカルテの裏の大商人ミャオ・シルバーバインだぜ!! もちろん売るぜ! だけど、条件がある」
「ニャンニャ? もったえぶらずに、言ってみるニャ」
「買ってくれるのは、ありがてえ。だがどれか選んで、気に入った品物だけってのは駄目だ。買うなら荷車ごと買い取ってもらう!!」
「ニャンニャ、そんな事かニャ。解ってるニャ、そのつもりニャ。金額を言ってみるニャ!」
そう言うとリッチーは、指を2本立てて見せた。
「き、金貨2枚かニャ?」
「そんな訳ないだろ! これだけのお宝だぞ。魔石だってあるんだから、大金貨で2枚だ!!」
だ、大金貨2枚。金貨に換算すると20枚。銀貨にすると、2000枚。普通のいい感じの宿に泊まれば1泊銀貨2枚で食事もついてきたりする。
ニャニャニャニャ……
リッチーは、詰め寄ってきた。
「いいか、これだけの品だぞ! 確かに曰く付き商品って事ではあるが、売っちまえばもう関係ねえだろ。それに曰く付きでなければ、十分適正価格……いや、かなりいい取引だと思わないか」
「……まあ、そうニャけど。でも、それニャらニャんでニャーの所へ売りにきたニャ。曰く付きで、既にエスカルテの商人達に知れ渡っているっていうのは解るけどニャ。焦って売ろうとしている感じも気になるニャ」
「べべべべべ、別に焦ってねーっし!! よよよよ、余裕だっし!!」
「それじゃあ、明日にするニャ。商売は感情に任せてするもんでもニャいし」
「ままま、待て待て!! 直ぐに金が必要なんだよー!! 頼むよー、ミャオ様――!!」
「……ギャンブルニャね」
ギャンブルというと、リッチーの目は忙しく動いてひどく動揺をしているようだった。図星だ。大方、ギャンブルで大金をすって、直ぐに負け分の支払いを迫られているのだろう。
他の商人だと、リッチーがどういう人物かはそれなりにこの街では知れ渡っているし、足元を見られて不利な交渉をされるか、中には面白がってじらしたりする者もいる。
端から見ればそれは陰険なようにも思われるが、商人にとっては、それは取引であってジャブを打っているようなものなんだけど……
アテナよりは……と思っていたけど、ニャーもあまいな。
「頼むーーーーう!! ミャオ様!! ミャオ様――!!」
リッチーはそう言って、ニャーの肩を揉んできた。鬱陶しいので、手で振り払う。
「解ったニャ。それニャら、特別ニャ。大金貨1枚と金貨5枚で手を手を打つニャ!」
「そそそ、そんなああーー!! それは、あんまりだ!! 最高のブツだぞー!! せめて、大金貨1枚と金貨8枚!! あと、大金貨でなく金貨で支払って欲しい!!」
「うーーん。じゃあ、それで交渉成立ニャ。それじゃ、曰く付きニャから、その証書とニャーのものになったという証明書を作るから、サインして印するニャ。あと近くにニャーの倉庫があるから、そこまで一緒にこの荷車を運んで欲しいニャ」
「うっす!! 了解しました!! まったく、ミャオは商売の女神様だぜ。ミャオんとこに持ってきて良かった。話が早い」
「調子がいいニャねー」
リッチーとの思いがけない取引がまとまってしまった。
ニャーとリッチーは、まずこの荷車を早速ニャーの借りている倉庫へと運んだ。運び終えると再び二人で店に戻り、書面を交わして商品の代金を支払う。金貨で18枚。リッチーは金貨の枚数を確認し、革袋に入れるとにんまりと笑みをこぼした。……もう少し、金額を下げてもいけたかな。
商談成立後、リッチーは飛び跳ねながら嬉しそうに店を出ていった。そして、二階から少し心配そうな顔をしたクウとルンが降りてきた。
「ミャオ、何かあったのですか?」
「何かあったのーー?」
「別に単なる商売の話だニャ。ニャニャ!! もうこんな時間だニャ! 二人とも、さっさと晩御飯を食べてお風呂に入って寝るニャー!」
「はい。晩御飯は、既にできていますよ」
「ニャッハー!! 流石はクウだニャ!! うちに料理の得意な者がいると助かるニャ!」
「ルンもだよ!! ルンも卵を割ったり手伝ったんだよー!!」
「流石ルンニャ!! これは、将来は雑貨屋以外に料理人にもなれそうニャね。二人とも、将来有望だニャー」
そう言って、ダイニングのある2階へと上がった。
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〚下記備考欄〛
〇お金 種別:通貨
クラインベルト王国には紙幣は無く、下記6種類の硬貨が使用されている。他国も貿易などをより円滑に進める為に、ほとんどが同じ物を使用して通過を統一しているが、中にはそうでないその国独自の通貨を使用している国も存在する。
銅貨
大銅貨 = 銅貨10枚分
銀貨 = 大銅貨10枚分
大銀貨 = 銀貨10枚分
金貨 = 大銀貨10枚分
大金貨 = 金貨10枚分




