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第450話 『リッチー・リッチモンド その1』 (▼ミャオpart)





 ――――クラインベルト王国、エスカルテの街。


 大通りから少し離れた場所にある雑貨屋。そこで働く狐の獣人クウと、狸の獣人ルンが本日の業務を終えて、住まいとしているこの店の上階へ上がると、店主のミャオ・シルバーバインことニャーは、一人の男を店に招き入れた。



「久しぶりだな、ミャオ」


「久しぶりだニャー。それで、儲け話かニャ?」


「早速だなー、儲けの話に敏感と言うか何と言うか」


「商人っていうのは、そういうものだニャー。腕に覚えのある剣士だって、強い剣士を一目見ればそうだと解るってもんだニャ」


「なるほどな、流石はミャオ・シルバーバインてなもんだ」


「それはそうと、儲け話があるのニャらさっさと話すニャ。時は金ニャリニャ」


「そうか。それじゃ取り繕った前置きは、またの機会にしよう。早速、現物を見て欲しい」



 この怪しい商人風の男は、リッチー・リッチモンド。ニャーと同じくエスカルテの街の商人で、いつも何か曰く付き(いわくつき)の怪しい商品が手に入るとここへ話を持ってくる。


 ――曰く付き。何と言っても、怪しい商品。他の店でも怪しまれて、なかなか交渉すらできない事が多々あるそうだけど、ニャーは一応話を聞いてみる。それで、儲けになるようであればリッチーと交渉を進める。


 どんな商品でもまず話だけは、聞いてみる。そんなスタンスをとって商売をしているので、リッチーは最近じゃそういう品が入ると、まずニャーの所へ持ってくるというのが定番となってしまっていた。


 だけど、冒険者が魔物やダンジョンを怖がっていては仕事にならないように、商人もその品物が曰く付きだからといって怖がっていたら、商売にならないのだ。ニャーは、商人だ。儲け話になるのなら、話位は聞いて吟味する。



「店の外へ付いてきてくれ。あんたならのってくると思って、もう店の裏に運んできてるからよ」


「店の裏? まったく、今回は何を持ってきたんだかニャー。――クウ、ルン!! ちょっと店の外に出てくるニャー。先に食事をしていてもいいニャーー」



 上の階にいる二人に向かってそう叫ぶと、「はーい!」っていう元気の良い返事が二人分返ってきた。ニャーは、リッチーと一緒に店の外に出ると、裏手に回った。


 するとそこに、1台の荷車が道の脇にとめられていた。



「これが商品かニャ?」


「そうだ、これを丸ごと売りたい」


「丸ごとかニャー。積み荷はニャンニャ?」


「さあーー。食糧かなんかだと思うけどな」


「ニャニャ? 自分が取り扱っている物を知らないのかニャ」



 信じられないという顔でリッチーを見ると、リッチーは頭を摩って照れた表情を見せる。いや、誉めてないから。


 物がなんなのか解らなければ、買い取る事ができないのは当然の事。買取金額の査定もできない。仕方がないので、荷車に積んでいる荷にかぶさっているシートを引っ張ろうとした。すると、手に何かがついた。水?



「ニャンかついた」



 手元を灯りのある場所に向けて確認すると、べっとりと赤いものが付着していた。



「ニャーーー!! こ、これは、血かニャ!! リッチー、あんたついにやっちまったニャ!!」



 慌ててリッチーから距離をとる。武器は……持ってない。しかも、丁度壁を背にしてしまって逃げ場を失ってしまった。まずい! このままでは人殺しに殺られる!!



「ニャニャーー!! ニャーに何かしたら、大声で叫ぶニャー!! そしたら、大通りまできっと聞こえるニャ!! この時間ならまだ、街の自警団か王国警備兵が巡回してるから、急いでやってくるニャよ!!」



 そう言って、半泣きでリッチーを威嚇した。しかし、リッチーも慌てていた。両手をあげて首を振っている。



「まてまてまて!! 俺は人殺しじゃない!! 知っているだろ? なんの変哲もないケチな商人だよ!! っていうか、俺が人を殺せるような度胸がないの、よく知ってんじゃん!!」



 ……確かに……そう言われてみればそうだった。リッチーの事は、まあ知っているけどとても人を殺せるような度胸のある男ではなかった。それを思い出した。



「じゃ、じゃあこれはどういう事ニャ!」


「先にこれを見せるべきだったな。順番を間違えちまったぜ。あははは、はい、これ」



 リッチーが手渡して見せてきたのは、冒険者ギルドのサインと印のついた発行証書だった。


 この荷物の全ての所有権をリッチーのものとし、売り払う事も許可されているという事が記されていた。但し、取引をする場合、曰く付きである事は、相手に明確に伝えなければならない。



「ニャるほど。つまり、ゴブリンかオークか――それとも盗賊かは解らニャイけど、行商人辺りが旅の途中、襲われてそのまま置き去りになった品物という訳かニャ。それをリッチーが見つけて、冒険者ギルドへ報告し、調査を終えて所有権を手に入れたニャ。そんなとこと見たニャ」


「察しが良くて助かったぜ。まあ、そんなところだ。名推理の通り、前の所有者はもうこの世にはいねえ。殺されちまったんだ。その時の傷痕や血ノリがまだ所々に付着していてな。普通の店じゃ買い取ってくれねえんだよ」


「それでニャーの店にかニャ。血ノリ位拭き取って、刀傷も削って誤魔化せば荷車自体も売れたんじゃないのかニャ」


「だからー、知っているよなー。俺は血が苦手だー。それに、ギルドや酒場で魔物や宝の話をすればすぐに冒険者の間でその話が広がるように、冒険者ギルドにこの荷車の事を報告し調査してもらって、所有権を得る手続きをした時点で、目ざとい商人共の情報網には、この荷の話は流れちまってんだよ。エスカルテの街一番のハンサムな商人リッチー・リッチモンドが、曰く付きの荷車を手に入れたぞってな」


「ニャるほどニャ。それで、うちにその商品を売ろうと持ってくるっていうのも、なんか腹立つニャ。リッチーは、自分で商品を捌かないのかニャ」


「アハハハ。今、捌こうとしてんじゃねえか。ミャオはおもしれえ事言うな」



 リッチーはそう言って、ニャーの肩を叩き、腰に手を回してきたのでその手をつねった。


 さて、それじゃモノを見てみようかな。しかし、この荷を運んでいた者は、襲われて殺されてしまったのに、荷物は盗んでいかないなんて……なんとも不可解だなと思った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ミャオ・シルバーバイン 種別:獣人

ニャンニャン言葉を口にする猫の獣人。アテナ達やテトラ達とは友人。アテナの助けたカルミア村の少女、クウとルンを家で住まわせている。商人で金に意地汚いような所があるが、本質はアテナと同じく心の暖かい人間。獣人だが商人なので、戦闘はあまり得意ではない。武器を使う事よりも金の勘定が得意。


〇クウ・ウルベース 種別:獣人

狐の獣人。かつて住んでいたカルミア村を奴隷売買目的の盗賊団に襲われて仲間と共に囚われた。護送されていた所、偶然アテナに出くわして助けられる。その後は、ミャオのお店を手伝いながら一緒に暮らすが商売の面白さに気づきミャオに弟子入りする。


〇ルン・タッソ 種別:獣人

狸の獣人。クウと同じくミャオの家に住んでいて、店を手伝う他にエスカルテの街が運営している学校にも通っている。まだ5歳だが、その割にはしっかりしている。クウやルキア、ミラール、ロンとは血は繋がっていないが実の兄弟のように慕っている。


〇リッチー・リッチモンド 種別:ヒューム

エスカルテの街などを拠点とする商人。ミャオの商人仲間だが、結構アウトローな商売をしている。そしてとてもリッチな感じの名前をしているが、金回りはあまり良くないようだ。自分の事をハンサムと言ったりしているが、好みの別れるところ。


〇クラインベルト王国 種別:ロケーション

アテナやテトラの国。ルキアもこの国の出身である。


〇エスカルテの街 種別:ロケーション

クラインベルト王国にある、とても栄えている大きな街。冒険者ギルドのギルドマスター、バーン・グラッドや雑貨屋のミャオなど、アテナやテトラの共通の友人が住んでいる。


〇ミャオの雑貨屋 種別:ロケーション

大通りから少し外れた場所にあるお店。ミャオ・シルバーバインが経営しているが、住居にもなっている。1階が店舗で、2階3階が居住場所。2階はダイニングやキッチンがあり、3階には寝室がある。

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