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第449話 『道連れの後 その2』



「アーーッハッハッハッハ!!」



 デイリは、まるで笑いを堪えていたかのように唐突に大笑いしはじめた。



「ナ、ナンダ?」


「アーーーッハッハッハ!! だって、そんな満身創痍な状態でそんなに凄まれてもねーー。今なら絶対にあたしの方が強いしーー」



 そう言われて急に腹が立ってきた。


 あの谷底に落ちてこれで死んだと思った。でも、生きていた。身体を思うように動かせない程のダメージを負いながらも生きていた。アテナを守る為に同族を裏切り、死を覚悟して大きな傷を負い、もう何もかもが終わってしまったかのように感じていた。


 なのに、この娘に馬鹿にされ笑われた事によって、身体の奥底から怒りがフツフツと湧いてきた。怒りでオレの目が変わった事に気づいた娘が、近くの壁に立てかけている鋸のような大きな剣を指さして言った。



「あれ、ギーの剣でしょ? あたしを殺すならあそこにあなたの剣を拾って立てかけているから、やればいいよ。でもあたしは、あなたの命を助けたのよ。恩人よ。お礼も言われていないのに、命の恩人であるあたしを殺して食べるなんてことをするなんて、犬畜生でもやんないわ」



 い、犬畜生……



「ザーシャ帝国とか言っていたけど、ギーはその一族の(おさ)かなにかなんでしょ? 知識もあるし、言葉も喋る事ができるし。そんな凄いリザードマンが恩人を殺したりなんかするの? 犬畜生にも劣るの? 劣っちゃうの? ねーねー」


「グヌヌヌヌ」



 ますますアテナみたいだなと思った。俺の身体が自由に動けばこんなドゥエルガルの娘、たちまち泣かして言った事を後悔させてやるのに……



「リザードマンの様子はどうだ? もうだめなんじゃないのか?」



 別の声がした。しわがれた声。目をやると、そこにはロープを身に纏った老婆が立っていた。手には薪になる薪茸というキノコと、何処かで狩ってきたのだろう何か魔物の肉を持っていた。



「ノーマ!! 帰って来たの!!」


「ああ。いい肉がとれた。あたしみたいな老婆の力じゃ、獲物を狩っても引きずってキャンプまで持ち帰る事なんてできやしないからね。でも、【ウィザード】で良かったと思うよ。この歳になっても、魔法で魔物を仕留める事ができる。肉は、とりあえず持ち帰れるだけ持ち帰ってきたよ。早速焼こうか? 肉を喰えば元気もでるよ」


「ええーー。ギーはまだ肉は食べられないよー。あっ、でもスープは飲めるよね」


「アア、スープヲクレ」



 オレがデイリに返事をすると、ノーマと言う老婆は驚いた。やはり喋ることができるリザードマンだったと。


 オレは、デイリからスープを受け取るとそれを飲んだ。う、美味いが苦みもある!!



「ニガミガアル! サッキ、オマエハ、オレニタイシテ、ニガクナイト……」


「でも、美味しいでしょう? それにしっかりとそれを食べれば、早く元気になれるよ」


「…………」



 スープを平らげると再び眠りについた。デイリが言ったように、スープを飲んでから少し身体が調子を取り戻してきた感じがする。



「おやすみなさい、ギー。あたしも少し眠ろうかな」


「それがいい。リザードマンはあたしが見ててやるから、あんたも少し眠りな」



 ノーマがそういうと、デイリはオレの方を見てニカっと笑うと横になった。






 ――――再び目が覚めると変わらず洞窟の中で横になっていた。目の前には焚火があり、老婆が座ってこちらを見ている。


 目が合うなり、老婆は言った。



「リザードマンよ。お主は、動けるようにまでなったら、あたしらを殺して食べる気か?」


「ソウダ、クッテヤル。イキナガラニナ」



 老婆の名前は確か……ノーマ。ノーマは溜息をつく。



「なるほど。それなら殺して食うのは、あたしだけにしな。デイリは、あんたの恩人だろ?」


「タシカニ。ダガ、トシオイタノヲクウノモイヤダ」


「じゃあ、どうする? 恩を仇で返すか? 竜の一族とか名乗っているが所詮は蜥蜴の魔物か」


「リュウノイチゾク……オレハ、ウラギリモノダ。ナカマヲウラギッタ。ナンデモナイ、リザードマンダ。ナカマモイナイ。ダガ、オンハカエス。トシヨリモ、クワナイ」


「ほう……なら、信じよう。もしも偽りでデイリに襲い掛かるような事があれば、あたしの黒魔法で黒焦げにしてやるぞ」



 やれるものならやってみるがいい。そう言おうとしたが、もう面倒くさくなって言わなかった。手足の指を動かすと動いた。デイリの作ってくれたスープが効いたのだと思った。



「ググ……」



 痛みはあるが無理やりに身体を起こしてみた。そして、思い切って立ち上がる。すると、デイリが目を覚ました。



「あっ!! ギー!! もう元気になったんだ!!」


「マダダ、マダチョウシハモドラナイ。ダガ、オマエヲコロスクライノチカラハ、モドッタ」



 脅したつもりだったが、デイリは無邪気に笑っていた。オレはノーマの隣、焚火の前に座る。すると、デイリも一緒に座った。



「ドワーフノオウコクガ、ドウナッタカシッテイルカ?」


「ああ、知っている」


「ナラ、キカセテホシイ。アテナトイウ、ボウケンシャノハナシハ、キイタコトガアルカ?」



 それを聞くとデイリとノーマは顔を見合わせた。



「え!! ギー、冒険者アテナを知っているの?」


「オレハ、アテナヲマモルタメニ、ナカマヲウラギリ、タニゾコニオチタ」


「えええ!! ギーってじゃあやっぱり、いいリザードマンだったんだ!! リザードマンの帝国の軍隊がドワーフの王国を襲った時に、リザードマンはグレイドラゴンっていうとても大きな竜を従えてきたらしいよ。冒険者アテナは、なんとそのグレイドラゴンを一刀両断しちゃったんだってー」


「ナ……ナンダト!! ソンナコト、イクラアテナデモ、デキルワケガ……」



 ノーマの表情を伺うと、彼女も深く頷いていた。



「あたしも長年冒険者をやっていた身だが、グレイドラゴンを一刀のもとに両断できる冒険者なんて会った事もないよ。しかも、アテナは年端も行かない少女だという」


「ソウカ……アテナハ、ブジダッタカ……モット、シッテイルハナシヲキカセテクレ」


「それはいいが、その前に肉を焼いてやるからもっと食え。そして、しっかりと元気をつけてデイリに恩を返してやれ」


「ギー。元気になってね」



 自分の仲間を裏切ったオレには、もう行き場も無かった。それにやる事も……一度死んだ身のようだし、それならアテナを探してついていくというのもいいかもしれないと思った。


 でも、デイリとノーマがオレを助けた。アテナが自分の道を通したように、オレもアテナのように道を通そうと思った。


 とりあえず、そう遠くない所で魔物の気配がする。暫くオレは、デイリとノーマを守ってやろうと思った。


 俺はかつて、偉大なる竜の末裔だった男。恩は返さないとな。

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