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第448話 『道連れの後 その1』 (▼ギーpart)




 ――――ノクタームエルド。大洞窟。


 何かパチパチという音で目が覚めた。目を凝らして周囲をよく見ると火。焚火。その前に誰かが座り込んでいた。


 目がちゃんと見えない。何度も目を凝らしてみて、それが誰なのか探った。



「あーーー!! 目を覚ましたな!! でもまだ、起きちゃだめだよー!!」



 幼い雌の声。もっと目を凝らしてそれが誰なのか見てみようと試みる。すると、まだぼやーーっとはするが、声の主は灰色ドワーフ、ドゥエルガルの子供だと解った。


 身体を起こそうとしたが、動かない。手と足の指……それぞれが僅かに動く程度。



「こんらー。まだ、動こうとしちゃだめでしょ!! 元気になるまでまだもう少しかかるんだから、もうちょっと大人しくして!!」



 そう言えば、ドワーフの王国でオレは戦っていたはず。


 帝王ザーシャと共に、ドワーフの王国へ攻め込んだ。そして戦いの最中アテナを見かけて、気が付けばオレはアテナを守る為に剣を振っていた。


 アテナを守る為に、あのドワーフ共が作りあげた金属製の大きな吊り橋でギャオスと戦いになって一緒に谷底へ落ちたのだ。


 あれからアテナは、どうなったのだろうか? 


 無事だろうか? ザーシャ帝国はドワーフ共に勝ったのか? それとも負けたのか? ドワーフの王国は、滅んだのか? 朦朧とする意識の中で色々な疑問が頭を駆け巡った。


 オレは、自分を介抱していたドゥエルガルの娘に聞いてみた。



「オ、オマエハ、ナニモノダ?」


「喋ったあああ!! ノーマの言ったとおりだ!! 喋る事のできるリザードマンがいるって言っていたけど、本当だった!! あたしは、デイリ。ドゥエルガルだよ」


「ドゥエルガルトイウノハ、ミレバワカル。オマエガ、オレヲタスケタノカ」


「うん、そうだよ。ノーマと水を汲みに……湧き水が流れている谷底を歩いていた時に、あなたを見つけたの」



 そうか。ギャオスを道連れに吊り橋から落下した時に死ぬと悟った。あの時は、アテナを守れればそれでいいと考えていたが、谷底を落下している時に初めて自分は死ぬのだと思った。そして、それを受け入れた。


 アテナを救う事ができ、あのギャオスと決着もつけられるのだと思うと、何も後悔はなかったのだ。


 だが、死を覚悟したところでオレは生きていたようだ。このドゥエルガルの娘と、そのノーマという誰かに助けられたようだ。



「オレガ、ナゼシャベルコトガデキル、リザードマンダトオモッタ?」


「身なりだよ。あたしがあなたを見つけた。崖下を流れる水に、プカプカと浮いている傷だらけのあなたを見つけたの。それであたし、ノーマにあなたの事を助けたいって言ったら手を貸してくれて……あなたの身に着けている立派な鎧やマント、きっとリザードマンの族長とかリーダーみたいだから、もしかしたら言葉を喋る事ができるかもしれないって。それもノーマから聞いたの。だから、あたしもしかしたら生まれて初めてリザードマンと会話ができるのかなってドキドキして、あなたが目を覚ますのを待っていたの」


「ソ、ソウカ……」


「そうよ。それはそうと、あたしは名乗ったわ。あなたの名前はなんていうの? 助けたんだから、名前を教えてくれてもいいんじゃない?」



 なんとなく……なんとなくだけど、このドゥエルガルの娘の雰囲気がアテナに似ているなと思った。


 灰色ドワーフである娘の姿は、アテナとは似ても似つかない。だが、この好奇心旺盛でお節介な感じ。なんとなく似ていると思う。

 

 以前のオレなら、きっとドゥエルガルごときに、己の気高き名前を名乗る事なんてしなかった。名乗るときは、相手が強者でありその者を殺すとき。冥途の土産に教えてやるのだ。



「オレハ、ギー。イダイナルザーシャテイコクノ、センシダ」


「ふーーん、ギーっていうのか。いい名前!」


「イイナマエトオモウカ?」


「うん、だってギーだなんて、とても覚えやすい名前だもの!」



 デイリは、ニカっと無邪気に笑った。そして、焚火にかけていた鍋から何かスープのようなものを器によそって木のスプーンを添えてオレの目の前に差し出した。



「はい、できたよ。美味しいよー。栄養満点だし、この洞窟内で自生している治癒効果のあるキノコと、ノーマが薬草を分けてくれたからそれも入っている。これを食べるとすぐに元気モリモリ。でも、心配しないでね。薬草や治癒効果のあるキノコを使っているって言っても、味はいいから。苦くないし美味しいよ」



 デイリの言葉に鼻で笑ってしまった。やはり、アテナに似ている。この娘はオレを治療しようとしてくれているようだが、オレが回復し動けるようになればどうなるかという事をリアルに考えていない。解っていない。



「イイノカ?」


「なにが?」


「オレハ、リザードマンダ。イマハ、ドウニモウゴクコトハデキナイガ、ウゴケルマデカイフクスレバ、オマエヲクッテヤル。リザードマンハ、ヒュームモクウガ、ドウワーフヤドゥエルガルダッテコロシテクウ。オマエハ、トクニニクガヤラカクテオイシソウダ」



 谷底に落下しダメージを負って、自由に動けない身体。それでも精一杯に力を振り絞って、自分の鋭い牙を娘にこれ見よがしに見せつけて笑った。


 この娘は危機感が無さすぎる。少し恐怖すればいい。アテナもそうだったが、アテナはそれを通す強さを身に着けていた。


 だが、この娘からは強さなんてものは微塵も感じない。剣を一振りすれば、簡単に命を奪えるだろう。この娘は、もう少し警戒心を持った方がいいと思った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ギー 種別:リザードマン

リザードマンの帝国、ザーシャ帝国最強四将軍の一人。アテナが地底湖キャンプをしている時に、遭遇し対決した。それからはアテナに魅かれ続ける。ザーシャ帝国がドワーフ王国を攻め入った際に、他の四将軍と攻め込むがアテナの姿を見つけて、アテナに味方した。仲間だったリザードマンを斬り、ライバルだったザーシャ帝国最強の戦士ギャオスと争いながら崖下へ落ちた。その後、アテナはギーが落ちた吊り橋に花を捧げた。


〇デイリ 種別:ドゥエルガル

灰色ドワーフの少女。崖下で死にかけ同然だったギーを見つけて救った。ギー相手でもまったく物怖じしない性格をしている。


〇ノーマ 種別:ヒューム

ウィザードの老婆。デイリと共にいる魔女のような魔法使い。昔、ミューリとファムの産まれ育ったナスタ村に訪れて、その村を病気から守った事がある。その後、両親を亡くしたミューリとファムに、自分の魔法を教えた。


〇ザーシャ帝国 種別:ロケーション

ノクタームエルドに存在するリザードマンの帝国。ザーシャというリザードマンが帝王を名乗り、何千という仲間を束ねていた。ギデオンという恐ろしい魔導士にそそのかされてドワーフの王国に攻め入るが、ザーシャはアテナ達に阻まれて倒された。

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