第446話 『ファニング家の姉妹 その13』
――――おじさんとのキャンプ、最終日を迎えた朝。
おじさんは、僕とファムを目にして一緒に暮らすのは難しいと答えた。昨晩は勢いで一緒に住みたいと言っちゃったけど、考えてみればおじさんには家族がいる。奥さんと二人の娘を亡くしたけど、息子がいると言っていた。
つまり、おじさんには帰る場所がある。
「それじゃ、支度をしなさい。ナスタ村までは一緒に行こう」
「……うん」
おじさんはそう言って僕らと一緒に村まで付いてきてくれた。その間、ファムはおじさんの手をずっと握っていて離れなかった。できる事なら僕もそうしたかったけれど、僕はファムよりもお姉さんだ。
おじさんにはおじさんの生活があり、都合があるのだと自分に言い聞かせた。
村近くまで戻ってくると、僕も落ち着きがない感じになってしまっていた。ファムも、きょろきょろとしている。一週間位しか経っていないのに、村を飛び出してから何年もの時が流れている感じがした。
少し時間はかかってしまったけど、ようやく村長にも皆にも謝る事ができる。お父さんやお母さんが死んだのは、病のせいだ。皆のせいみたいに気持ちをぶつけちゃったけど……ごめんなさいって――
皆に会ってちゃんと謝らないとと、無意識に緊張してしまっていた。
村の入口。そこで、唐突にノーマが声をあげた。
「なんだ? 何か村の様子がおかしい!!」
え?
ノーマのその言葉を聞いたおじさんは、僕とファムの手を引いて村へと急いだ。すると僕とファムが生まれ育った村は炎で焼かれ、村人達はそこら中に横たわっていた。
おじさんは、戦斧を手に持つと周囲を警戒しながら、僕とファムに何かあれば逃げろと言った。ノーマが倒れている村人を調べる。
「どうだ? 生きているか?」
「駄目だ。死んでいる……というより、何者かに殺されているようだね。魔物の仕業とも考えにくい。死体には、剣や槍などの刺傷や切傷があるんだよ。しかも、訓練された者のような太刀筋だね」
するとファムは、おじさんとつないでいた手を離して村の中を走って行った。僕とおじさんはファムの名を叫んで後を追い掛けた。
「待って、ファム!! 一人で行っちゃ危ないよ!!」
「待て!! 待つんだファム!!」
ファムを追いかけ、ある家の前で追い付く事ができた。っていうか、ファムが向かった場所がここだった。僕達の家――
家は、火も消えていて他の建物よりはまだ原型をとどめてはいる方だったけど、既に焼け落ちて半壊してしまっていた。
茫然と立ち尽くすファム。僕は、妹を抱きしめた。強く。そして、おじさんの方を振り向く。おじさんは、村が襲われていると解った時から、ずっと警戒を強めて辺りを探っている。そして、叫んだ。
「誰か来る、皆こっちへ来い!! 急げ、ノーマも早く!! 物陰に隠れるんだ!!」
しかし、ファムは家の前から動かない。僕はファムの名を何度も呼んで、その細い腕を引いたけど、ファムは放心状態だった。お父さんやお母さん、家族皆の思い出が詰まった家。それが灰になったのだ。僕だって泣き出したかった。
「ファム!! 誰かくるよ!! 早く、隠れなきゃ僕らも殺されるかもしれない!!」
動かないファム。虚ろな目。
「ファム!! いい加減にしないと、おじさんもノーマも一緒に殺されちゃうかもしれないんだよ!!」
「かまわん、ミューリ!! ここは余に任せてお前は、早くノーラと隠れろ!!」
おじさんはそう言って、僕をノーラの方へと押した。そしてファムを抱きかかえる。ファムが暴れだすと、おじさんはしっかりとファムの目を見て言った。
「ファム!! お前には帰る所がまだある。余の所に来い!! 余は、ちと厄介な立場でな。正式にそなたらを娘としては迎え入れる事はできんが、そなたらが望むなら余の娘同然に迎えいれたい。言ったよな。余には、死んでしまった双子の娘がいたと。そなたらの両親の事を思うと不謹慎かもしれぬが……余は、この巡り合わせは、神がお与えになった特別な物だと思っている。今ここで、はっきりとそう思ったのだ」
その言葉を聞いて、ノーマと先に物影に隠れた僕は涙が溢れた。おじさんが、僕らのお父さんになってくれる。ファムも、じっとおじさんを見つめている。
「それにあれだぞ! 帰る所は他にもあるぞ! あの山のキャンプもそなたらと余とノーマの居場所だ。考えてみれば二カ所もまだあるな。ワハハ」
あれ程、絶望していたファムが少し笑顔を見せる。
「だから、諦めないでくれ!! 両親を失い、生まれ育った村も家も失った幼いそなたらに、こんな事を言ってきかすのは酷な事かもしれんが、どうか諦めないでくれ!! 余と、生きていこう!! 平和な世を作って行こう!!」
ファムが声を張り上げて泣き出し、おじさんに縋った。それは望んでいた光景、だけど今そのファムの泣き声は、辺りに僕達がいると他の誰かにも教える事にもなっていた。辺りに何十人もの気配。すると、沢山の誰かが僕達を取り囲むように何処からか現れた。
包囲されると、おじさんは武器を掲げた。
すると、包囲した者達が近づいてくる。おじさんと同じ、ドワーフ? 鉄でできたゴーレムのような男が一人、前に出るとおじさんに対して跪き、それに伴って周囲のドワーフの兵隊達も跪いた。
その光景に僕とファム、そしてノーマも言葉を失った。




