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第445話 『ファニング家の姉妹 その12』



 キャンプに戻ると、早速おじさんは蛇肉を調理し始めた。蛇肉と言っても、グリーディーボアという大蛇。


 僕とファムが手伝うと、なんとノーマも手伝い始めた。皆で調理。それが物凄く楽しい。お父さんとお母さん、ファムと家族4人で料理をした事を思い出す。



「ファムとノーマは、そっちから蛇の皮を引っ張って剥いでくれるか。ミューリは、こっちへ来て手伝ってくれ」


「うん! 今、いくね!」


「ファムに任せて!」


「ヒャッヒャ。皆でワイワイ調理をするなんて、何十年ぶりだろうね。楽しいね。パーティーを組んで、冒険者をしていた頃を思い出すよ。そら、ファム! もっと力を入れて皮を引っ張って! なんてへっぴり腰だい?」


「力は入れている! ノーマがもっと力を出して!」



 キャンプ――メラメラと燃える焚火の近くに皆でする作業は、僕達だけでなくおじさんやノーマも凄く楽しそう。


 蛇肉を調理しやすいように仕上げると、おじさんはシンプルに金属製の網に乗せて火で焼き始めた。


 味付けは、肉の臭みを取る為のハーブと、塩胡椒を使用。胡椒は高級品なので、それを持っていたおじさんはお金持ちなのだろうかと思った。


 それにそう思った理由はまだある。最初に出会った時に思ったけれど、身に着けている装備は、どれも高価そうな立派なものだった。


 もう一度、おじさんの身に付けている立派な鎧兜に目を奪われていると、その視線に気づいたおじさんは言った。



「なんだ、どうした? 作業はまだ続いているぞ、手を休めるな。さて、料理は更にもう一つ。これは、酒とよく合うぞ。まあ大人に合わせた料理なんだがな。飲むだろ?」



 おじさんはそう言って、自分の大きな荷物からお酒の入った瓶を取り出してノーマに見せつけた。ノーマはそれを見て、にんまりと笑う。



「ほう、いいねえ。それじゃ、あたしも今日はここに泊まろうかね」



 僕とファムは、ノーマの事を何も知らない。知らないのに、お父さんやお母さんが病気になった事も全て、ノーマにせいにしてぶつけていた。だから、ノーマがそんな表情をすると胸が痛くなった。僕らはノーマに随分とひどい態度をとっていたから――


 おじさんは、いそいそと金属製の箱のような調理道具を取り出すと、その中に採取していた木の皮を入れる。山を歩いていた時に、おじさんが熱心に生えていた木から採取していたもの。


 その木の皮と一緒に、軽く味付けして食べやすい大きさにカットした蛇肉を入れて、火を点け蓋をした。

 

 金属製の箱の蓋の隙間からは、大量の煙がモクモクと発生する。箱が火であぶられ、底に敷いた木の皮が燃えて煙を出している。そんな不思議な調理方法に目を奪われていると、おじさんは僕の背中をポンと叩いた。



「珍しいか?」


「うん、珍しい。これは、何ていう料理なの?」


「燻製だよ。聞いた事くらいはあるだろ? 蛇肉を煙で燻して燻製にしているんだ。これがまた、なんとも酒に合う」


「へえー、燻製……」



 隣でその話を聞いていたファムは、自分のショルダーバッグから手帳を取り出すと何かを夢中になってかき始めた。


 きっと、この燻製の事やグリーディーボアの調理の仕方などを書き留めているのだろう。ファムは、僕よりも好奇心旺盛で勉強熱心なところがある。



「さあ、できあがったぞ! ナイフとフォーク、皿などの準備ができたら皆、焚火の周りに座れ」


「はーーい!」



 ファムが一番早かった。次に僕で、ノーマの順。


 あれ程嫌って敵視していたノーマが僕の隣にいて、ファムと笑い合っている。そして、反対側には一週間前に偶然この山で知り合ったドワーフのおじさんが、蛇肉を真剣に美味しくなるように焼いている。


 最初がどうであれ、この山でキャンプした事によって生まれた人の和だと思った。僕らは悲しみと怒りでどうしていいか解らなくなって、それを他の皆にぶつけた。それで山に入って、皆を心配させた。


 それについてはもう反省しているけど――だけど、森に入った事は正解だったと思っている。



「さあ焼けた! 蛇肉ってのはな、もともとの形を想像するとちょっとあれだがな。その肉は意外といけるんだ! さあ、皆食べてみろ! もう少しすれば、燻製肉もできあがるぞ」



 おじさんが一生懸命になって焼いてくれた蛇肉は、とても美味しかった。そして燻製肉も香ばしくて、最高に美味しかった。普通に焼いたものよりも、なんとなく上品な味がして、深みがある。それでいて言ったように香ばしくて、お酒に合うというのも理解できた。


 あっという間に持ち帰った肉を4人で食べ終わると、僕らは横になって星を見上げてそのまま眠りについた。


 眠りにつく前に一つだけ、おじさんに気になっていた事を聞いた。



「ねえ」


「うん? なんだ」


「明日で一週間。僕らはノーマと村へ帰ることにした。それでさ……考えたんだけど、おじさんも一緒にこない? 僕、おじさんと一緒に住みたいな。ファムもそう思うよね」


「うん。ファムもおじさんと、一緒に住みたい。これからもずっと一緒にいたい。ノーマもね」



 ノーマもね。


 その言葉を隣で転がって聞いていたノーマは、両目を押さえた。震えている。ファムはノーマを突っついた。



「あれ? ノーマ、泣いている?」


「な、ないていない!! あたしゃ、そんな事で泣かないよ!! 涙なんて、とうの昔に枯れ果てたね! そ、そんな事より、本当に魔法に興味があるのなら明日から早速お前達二人を弟子にしてやってもいい。だけど、あたしはマジックショップを開きたいんだよ。見返りにそれを手伝ってくれるかい?」



 僕が弟子? マジックショップを手伝う?



「ええ!! いいの!?」


「ファムも!! ファムも一生懸命手伝う!!」



 僕らが弟子になり経営を手伝うと言うとノーマは、本当に嬉しそうに笑った。そしてやっぱり、その顔には涙が伝った跡が見えた。


 お互い蟠りがあったけど、今は理解し合う事ができる。おじさんのお陰で、僕とファムは間違いを正すことができた。僕は隣に寝転がるおじさんの太い腕を掴んで縋るように言った。



「ねえ! おじさんもナスタ村に行こう!! それで一緒に住もう!! 僕もファムには、もうお互い意外に家族はいない!! だから、おじさんに僕達の家族になって欲しい!! 駄目?」



 おじさんは、夜空に浮かぶ星々を眺めて黙っていた。そして、結局返事はしてくれなかった。


 悲しいけど、無理なら無理とハッキリと答えてほしかった。だけど、返事もしない。


 だから、完全に嫌だという訳ではないのだと思った。


 …………


 ……そういえば、おじさんにはやる事があると言っていた。それがあるから、返事ができないのだと思った。

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