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第443話 『ファニング家の姉妹 その10』




 おじさん……そしてノーマの説得で、僕とファムはナスタ村に戻る事にした。そして、きちんと村長や村の皆と話をすると約束した。ノーマだけでなく、おじさんとも約束をした。


 僕とファムは、この山でキャンプをした。そして、ガラハッドというドワーフのおじさんと、出会った。


 僕達がずっと両親の仇だと思い込み、睨みつけ遠ざけていたノーマ。それでも彼女は、僕達の事を常に気にかけてくれていた。そのお陰で僕らはようやく自分達の間違いに気がつき、前を見て歩き出すことができた。


 おじさんもそうだった。おじさんの僕らに対する優しさは、気持ちの整理を助けてくれた。


 でも、両親を失った悲しみはまだ消えない。完全には消えないのかもしれない。でもいつか、いい思い出だけが残ればいいのになと思った。


 今日でおじさんと約束した、一緒にキャンプを続けると言った日まであと二日を切った。その日が来れば、おじさんはノクタームエルドの大洞窟へ帰ってしまうという。


 僕達もできる事なら、おじさんについて行きたかったけれど駄目だと言われた。それに村長や村の皆に、まずは会わなければならない。心配をかけた事、お父さんやお母さんの埋葬をしてくれた事。色々と話さなければならない事があった。


 ノーマは、僕とファムが元気でいる事を村の皆に伝えると言って先に戻って行った。

 

 僕ら3人は、始めに約束をした通りに残り二日間のキャンプ生活に戻った。


 




 ――――翌朝。おじさんは、早速武器の手入れをすると山奥に入っていく準備をした。僕とファムは、ピンと来た。


 そう言えば、おじさんはやる事があると言っていたけど、今日はそれとは違う。なんだか物々しい。あの、グリーディーボアと決着をつけるつもりだと思った。



「おじさん、今日はグリーディーボアを退治しに行くんでしょ? 僕らも行くからね」


「じゃあ、しっかりと注意してついてこい。余から決して離れるな。今日こそ奴を見つけて、退治してやる」



 もうおじさんは、危険だからついてくるなとは言わなかった。それに、自分の事を儂ではなく余っていう変な言い方をするようになっていた。でも、それが本来のドワーフ流なのかなと思ってそれ程気にはならなかった。


 僕とファムが自作し、それをおじさんが更に強度と使いやすさを改善してくれたお手製の槍。それをしっかりと手に持つと、おじさんの後に続いた。


 山に入る所で、後方から声。



「おおーーい!! 待て! 待ってくれ!!」

 


 振り返ると、そこにはノーマがいた。灰色の三角帽子にローブ。魔導士の杖。【ウィザード】というよりは、本当に魔女のように見える。魔女ノーマ。



「ノーマ! どうして? 村には戻るって約束をしたけど、明後日だよね?」


「そうだ! その通りだ! はあ、はあ、はあ……」

 


 ノーマは、ナスタ村から急いで僕らの後を追ってきたのか、凄く息を乱していた。歳もとっているし、仕方がないと思う。



「はあ、はあーーー。山道は腰にくるね! あたしも、付いていくよ」


『え!?』

 


 僕とファムとおじさん、3人で一緒になって聞き返してしまった。


 こんな老婆が危険な草木の茂った山奥に入るなんて正気とは思えない。魔物だってでる。っていうか、魔物を退治しに行くのに。おじさんが言った。



「我々はこれから、大蛇を退治しに行くんでな。あなたは、見た所……いい歳だ。やめた方がいいと思うが。あんたまで、余は守る自信がないがね」


「ヒャッヒャ! それなら、心配は御無用。あたしはこう見えても、お前さんよりも長く冒険者を続けてきた大ベテランだよ。それに魔物退治は、いわばエキスパートだ」



 ノーマがナスタ村に来たのは、最近だった。だから、彼女の事をぜんぜん知らない。だけど、確かにずっと冒険者を続けていて、寄る年波に耐えられなくなり、何処かで自分のマジックショップを経営する為にその場所を探していると言っていた。そして、ノーマはナスタ村を見つけてそこで、お店を出店させようとしているのだと――


 ……つまり、老婆と言ってもつい先日までは、冒険者をしていたという事。



「解った。それじゃあ、一緒に行こう。ついてこれなければいつでも休んでもらっていいが、そこで置いて行くからな。もう一度言っておくが、それが嫌なら村へ戻るかこのキャンプで我々の帰りを待つかだ」



 ノーマは、おじさんの言った事を笑い飛ばした。おじさんは、溜息をつく。


 おじさんが言う大蛇、グリーディーボアを探して山奥へ進むこと、一時間程――おじさんは、「こういう場所にあの大蛇は生息しているんだ」と言って獣道に入っていく。


 僕とファムもそれに続き、その後にノーマがついてくる。すると、僕の足元を何かが通り、僕は悲鳴をあげた。



「ひゃああああ!!」


「大丈夫!! ミューリ!!」


「なんだ、どうした?」



 ファムは直ぐ隣にいたけど、おじさんが直ぐに助けにきてくれた。


 おじさんが斧を使い、ファムが槍を使って草を掻き分ける。すると、小さな蛇がスルスルと動いて何処かに去って行った。安堵の溜息をつくファムとノーマ。おじさんは、声を張り上げて笑った。こんな小さな蛇に怯えてしまった事に僕は恥ずかしくなって、後頭部を擦った。



「ごめん」


「グワーーッハッハッハ!! 心配いらん。アオダイショウと言う蛇の子供だ。毒牙も持っておらんし、性格も大人しい蛇だ」



 毒も無く性格も大人しい。そして、子供。それを聞いたファムは、すぐさま辺りの草場をガサガサと漁り、さっきの蛇を夢中になって探した。



「いたっ!! さっきの蛇!!」


「えーー、ファム! そ、それどうするの?」


「え? だってこの蛇、毒も無いし大人しいんでしょ?」



 頷くおじさん。少し引いているボクをよそに、ノーマはヒヒヒと笑った。



「ファム。もう少し、顔に近づけてよく見てごらん」


「え? うん」



 ペロリッ



 アオダイショウの顔に、ファムは自分の顔を近づける。すると、アオダイショウに鼻の頭を舌で舐められた。ファムは、驚いて目を丸くさせると、ノーマの顔を凝視した。



「ヒッヒッヒ。可愛いだろ? 【ウィザード】っていうのはね。蛇や蛙、蝙蝠なんかとも相性が良かったりするんだ。興味があるなら、首に乗せて巻いてみな」



 すると、ファムはアオダイショウの子供を首に巻いた。おじさんとノーマが感心した声をあげる。


 最初は、アオダイショウに興味を示したファムに引いていた僕だったけど、なんだか次第に羨ましくなってきた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ガラハッド 種別:ドワーフ

ミューリとファムが村を出て山でキャンプをし始めて出会ったおじさん。なんだか豪快で暖かみのあるおじさんに、二人は懐いている。腕っぷしも強そうだが、料理も得意。中でも焼飯など、豪快に火を使った料理が得意。


〇アオダイショウ 種別:動物

蛇。大きなものもいるが、毒は無く気性の穏やかな蛇。ペットとしても人気がある、やっさしー蛇。山には他にも、カラスヘビという小さくて黒い蛇が生息しているが、その蛇も穏やかである。

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