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第441話 『ファニング家の姉妹 その8』




 おじさんは、余った食材で付け合わせのスープも作ってくれた。それぞれの器にスープを3人分よそうと、特別製の鍋で炒めて作ったご馳走も、それぞれ皿によそって並べた。


 空腹というのもあったし、暫く葡萄とかそういうのばかりを食べていたというのもあるけれど、その細切れ肉と数種の野菜を刻んでライスと一緒に炒めた料理が、もう食べたくて仕方がないという気持ちになっていた。口の中に溢れる唾液をゴクリと呑み込む。


 おじさんは、そんな僕らの気持ちを知っているかのように、僅かにニヤリと笑い「じゃあ、食べようか」と短くいって両手を合わせた。


 僕らもおじさんと同じく手を合わせると、3人そろって「頂きます!!」と言った。その言葉が、まるで用意ドン! の合図のように僕とファムは夢中になってその料理を貪った。今まで味わった事のない味。食用に使った油で口のまわりが僕もファムも、テカテカに輝いた。



「グワーーッハッハッハッハ!! 沢山作ったからな!! まだまだお代わりはあるからな!! 遠慮せずに……っと言うか、儂も食べんとこのままではそなたらに全て喰われてしまうな」



 モッチャモッチャモッチャ……



 美味しいものを食べるというのは、至福の喜びである。しかも、焚火を囲ってこんな凄い料理を食べる事ができるだなんて。僕は、聞いてみた。



「モッチャモッチャ……この……モッチャモッチャ……料理は……モッチャモッチャ……なんとも……」



 すると、おじさんは大笑いすると僕の髪の毛をグシャグシャっとして、食べ終わってからにしなさいと言った。僕は、頷いて必死になってファムと食事を続けた。


 3人であっという間に食べきってしまった。料理のほとんどを、僕とファムが食べてしまった。


 おじさんは、僕らが夢中になって美味しい美味しいと言って食べていたのをみて、明らかに食べるスピードがダウンした。僕らに、少しでも多く食べさせてくれようとしたのだろう。だから、きっとおじさんは食べ足りてない。


 だから僕らはおじさんが作ってくれた料理を食べた後に、今度は僕らがおじさんに採取したキノコを焼いてあげて、ついでに山葡萄と木の実も出してあげた。おじさんは、デザートだと言って喜んで食べた。



「それで、質問なんだけど……この料理はいったいなんていうの?」


「ああ。この料理の名前か。それは――そのままだよ。見たまんまだ。『焼飯(やきめし)』っていう料理だ。どうだ、美味しかったろう?」


「うん、美味しかった。ね、ファム」



 ファムは、スープを飲んでいたのでそのまま飲みながら頷いた。


 『焼飯』。不思議な料理。しかも、お肉も美味しかったし、ライスなんてなかなか食べられるものじゃないから、感動した。



「それじゃあ、食事も終わった事だし、二人に儂から言いたいことがある。聞いてくれるか?」


「何かな?」


「何?」



 おじさんは、懐から何か瓶を取り出すとそれを軽く飲んだ。なんとなくそれがお酒だと解った。



「二人から話に聞いたナスタ村の話だ。二人に見誤ってもらってはいけないと思ってな」


「見誤る?」


「そうだ。ミューリとファムは、愛する両親を失ったと言ったな。それは物凄くつらいことであり、我が身を切られる程につらい事だっただろう。しかしな、悪いのはあくまで病気だ。村人ではない」



 それを言われて僕は、下を向いた。ファムも――。


 不思議な事に、おじさんの『焼飯』を食べる前だったら、きっとこんな話に耳を傾ける事はなかったと思った。


 だけど、今はお腹も気持ちも満たされている。おじさんの話を聞く事はできると思った。そう考えると、やっぱりさっき食べた珍しい料理は、神様の食べ物だったのかもしれない。



「そなたらは、まだ幼い。しかも両親を一度に失ったとなれば、その怒りや悲しみの矛先を何処へ向ければいいのか戸惑う気持ちも解る。だがな、間違いに気づいたのなら、そのまま正さずにいるのは駄目だ。そうした方が、気持ちが楽になるのも解る。だが、間違いは間違いだ」



 おじさんの言っている事は、僕もファムも理解していた。だけど、どうしても納得ができなかったのだ。おじさんは、続けた。



「仮にだ。仮にそなたらがその病になったとする。しかもその病は、人の命を奪い人から人へ移る凶悪なものだったとしよう。そうした場合、病に感染しているそなたらは、愛する家族にその病を移してしまうと理解していても、それでも家族に会う事を望むか?」



 僕もファムも、首を左右へ振った。



「村人達は村人達で、自分達の家族を守らなくてはならなかった。村長は、村人と村を守る責任があった。ノーマという【ウィザード】は、村人達の為に、これ以上病気を感染拡大させない為に、するべき事をした。そなたらの両親は、そなたらを守る為に最後に一目会いたくともそれを我慢し押し通したのだ。それぞれが、つらくとも正しい道を選んだのだ」



 おじさんの言葉に、涙が溢れてきた。ファムはもう嗚咽を漏らし始めている。すると、おじさんは「こい!」と言って僕ら二人を抱きしめてくれた。そして、おじさんも涙を流した。



「おじさんにもな、実は3人の子供がいた。長男が一人、そして可愛い双子の娘だ。しかしな、双子の娘は産まれた直後に母共々に、死んでしまった。子供を産むというのはな、母子共に命がけなんだよ。だから儂もそなたら同様に、大切なものを失う悲しみや怒り、どうしていいのかわからないような、身を切られる気持ちは解るのだ。だが、正しい事とそうではない事というのは、ちゃんと見定めておかねばならん」


「う、うん……」



 おじさんの胸で泣きながら、僕らは頷いた。



「だからと言って、直ぐにそうはできんだろ。そんな簡単に気持ちを整理できる事でもないし、おじさんも娘達と妻を同時に失った時はそうだった。この世の全てが憎らしく思えて、怒りにうち震えていた。でも、おじさんにはまだ息子がいたんだ。できの悪い息子だがな、心から愛している。ミューリにだってファムがいるし、ファムにもミューリがいるだろ?」


「うん……」



 その通りだと思った。まだ、直ぐには気持ちの整理なんてできない。でも、ちゃんと正しい事と間違いの分別をいつかはつけないといけない。お父さんとお母さんも、きっとそれを望んでいる。


 ファムが、おじさんに甘える様に上目遣いで言った。



「ファムにはミューリもいるけど、おじさんもいる」


「なんとなっ!! ほほう、それは嬉しいな。そんな事を言ってくれるなんてな」



 おじさんは、そう言って僕とファムを見つめた。その目は、とても優しくてまるで自分の娘達を見ているかのようだった。

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