第44話 『ガンロック王国入国 その2』
ファイヤーリザードは、口から火炎放射をする危険な魔物。だから、速攻でかたをつけたかった。
――――瞬時に畳みかけて、残りは1匹。このまま一気に倒す。
私達に追いつめられて残った1匹は、一番倒しやすと思ったのか、狙いをルキアに定めた。
――――まずいっ!!
「ルキアーー!!」
「え?」
「ルキア、かがんで!!」
私は、出来る限りの速さでルキアの方へ走って跳んだ。そしてルキアに覆いかぶさると、魔法を詠唱した。
「《全方位型魔法防壁》!!」
魔法で作った光の膜が、私とルキアを包み込む。ファイヤーリザードは、口を大きく開けて私とルキア目がけて火炎放射した。だけど、なんとか防御魔法が間に合ったので防ぐことができた。
「アテナ!! ルキア!!」
ルシエルが叫ぶ。その横を走るウルフの影。火炎放射するファイヤーリザードの足にカルビが噛みつく。その痛みで身体を捩った刹那、ルシエルが放った矢がそのファイヤーリザードの頭を貫いた。
ファイヤーリザードは、ドサリとその場に倒れて絶命した。
「ルキア、大丈夫?」
「あっ……はい! 助けてくれてありがとうございます。私は、大丈夫です!」
良かった。ルキアは、全く大丈夫だった。ポンポンと頭を撫でると、心配したカルビがルキアに飛び掛かり顔をペロペロと舐めた。一瞬、火炎が私とルキアにふりかかったので、それを見てカルビも肝を冷やしたのだろう。
魔物を全部、倒した事を確認するとルシエルが辺りをウロウロと見て回りだした。ルシエルなら何かあってもまず大丈夫だろう。そう思っていたら、ルシエルは何かを手に持って走って戻って来た。
「なにかあった? ルシエル?」
「ああ! なんと驚くものを見つけたぞ。これ見てくれ!」
ルシエルは、その辺で拾ってきたのだろう板きれを私に見せた。その板には、文字が刻み込まれていた。板も文字も長年晒されていたせか、所々消えかかっている。だけど読むことはできた。
「ふーむ。なになに――マハリ道具店…………これって店の看板? …………もしかして!! もしかして、ここがマハリの村⁉」
ルシエルは、頷いた。
「みたいだぞ。もうここは廃墟になってしまっているが、ここはかつてマハリの村があった場所なんだろう」
…………驚いた。
まさか、マハリの村がもうなくなっていたなんて…………確かに、読んだ本から解るようにリンド・バーロックがこのマハリの村に立ち寄ったのは、およそ150年程前…………一つの村が廃墟になっていたとしても不思議ではないのかもしれない。
「どうする? とりあえず、あそこに井戸があって、さっき探索中に調べてみたが使えるぞ。水質も特に問題ないようだ」
「うん。それなら、水と食料の補給はできるね。今日は、ここでキャンプしよう」
ルキアが首を傾げる。
「え? 水は、井戸があるので理解できますが、食糧の補給って、その食糧は何処で調達するんですか? 狩りに行くのであれば、私もお手伝いしますが」
私とルシエルはにっこり笑った。そして、ルシエルは、その食糧の方を指をさして言った。
「ほら、あれ。食糧ならいっぱい転がっているだろ?」
「ええ⁉ もしかして、ファイヤーリザードを食べるんですか?」
「なんだ? ルキアはファイヤーリザード苦手かー? でもそんな事言っても、ルキアも食べるだろ? 解体するから手伝ってくれ。キャンプするとなると、テントの設営と焚火の準備もしないとだしな」
私は、ルキアの肩をポンっと叩いた。
「たまにだけど、王都にもファイヤーリザードの肉が入ってきて、市場に並んだりする事もあるの。以前その時に、珍しいと思って食べたけど、とても美味しかったから大丈夫だよ。あと、ファイヤーリザードの口の中からは、上質な火打石が採れるよ」
「火打石ですか!! 火打石って、焚火とか火を付けたりする火打石ですよね⁉」
「うん。正確には、火打ち牙なんだけどね。ファイヤーリザードは、体内のガスを口から放出して、それに引火させて火炎放射しているの。それでその火を点ける方法なんだけど、それがずばりその火打ち牙。カチって噛んで、火花を散らして引火させているらしいよ」
ルキアは、そのファイヤーリザードのうんちく話を聞いて、ピョンピョンとその場で跳ねて見せた。きっと興奮しているのだろう。
「凄いです、凄いです! アテナは、なんでも知っているんですね」
「なんでもは、知らないよーー。全部、読んだ本の知識だしねー。っあ! そうだ、これ」
私は、ザックから1冊の本を取り出してルキアに渡した。
「え? これは?」
「ルキアにプレゼント! だから、早く文字を覚えて読んでみてね」
「ええええ!! これを私に⁉ ありがとうございます! 凄く嬉しいです!!」
初めて本を手に入れたルキアの凄まじい喜びようは、見てすぐに伝わって来た。
「勿論、文字は覚えますが、とりあえず何の本かだけども、教えてもらえないですか?」
「うん。さっき話した、ファイヤーリザードとか、色々な魔物の事が記されている本だよ。魔物は世界中に沢山いるから、こんなのもいるんだって楽しめるよ。勿論この本には、その全てが記されている訳じゃないし、その一部しか載っていないんだけど…………それでも、きっとこれから役に立つ知識だよ。しかも、魔物の生息地とか生体とか、内容も凄く面白い本だしね」
「うわーー!! ありがとうございます! アテナー!!」
ルキアは、本を何度も開いてみたり眺めてみたりして、はしゃいでいた。
その光景を微笑ましく見ていたら、ルシエルがキャンプを設営し始めたのでルキアと一緒に作業に加わった。
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〚下記備考欄〛
〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム
Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。趣味は、旅と食事とキャンプ。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。生まれて初めてのガンロック王国の旅。初っ端からファイヤーリザードの群れと遭遇し戦闘へ発展。アテナはファイヤーリザードと初めて戦うが、既に本から魔物の知識を仕入れており、その肉がクラインベルト王国で売られていたのを知っていたのでどういう魔物かというのは予め解っていた。
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。初めて戦うファイヤーリザード相手でも、特に苦戦もしない程の戦闘力抜群のハイエルフ。ファイヤーリザードに矢を射っている間も、こいつもしかしたら食べられるんじゃね? とか、考えていた。
〇ルキア 種別:獣人
Fランク冒険者。猫の獣人。まだ僅か9歳だが、いつも一生懸命でとても賢く気遣いのできる優しい少女。エスカルテの街のギルマス、バーンから特別なナイフを貰い、アテナからは魔物に関する本を貰う。文字も教えてもらう約束をして、ルキアは戦闘技術だけでなく知識もモリモリと成長していく。ガンロックへ入ってからは見る物全てが珍しいのか、はしゃぎ気味。
〇カルビ 種別:魔物
子ウルフ。アテナと別行動していたルシエルが出会った子ウルフ。ニガッタ村での騒動を経て、アテナのパーティーの正式な4人目の仲間となる。(※あえて匹ではなく4人とカウント。)ルシエルの使い魔でもあるが、アテナやルキアにもよくなついている。もしかしたら、ルキアの事はアテナやルシエルのように妹のように思っているのかもしれない。
〇ファイヤーリザード 種別:魔物
真っ赤な皮膚をした蜥蜴の魔物。ガンロック王国の至る所に生息している魔物で、口からは火炎を吐く。火だるまにされる冒険者もいる事から危険な魔物ではあるが、その素材は余すところがない。牙は火打石になるし、内臓や肉も売る事ができる。なので、この魔物を見つけては狩って素材を売って生活する冒険者もガンロック王国には多々存在する。
〇マハリ道具店 種別:ロケーション
アテナがガンロック王国に入国し最初の目的地がマハリの村だった。マハリの村は既に廃墟化し、マハリ道具店という表記の入った看板が砂を被っていた。人はもう住んでいないが、残る廃墟の中にある井戸はまだ生きているので水を補給する事ができる。荒野や砂漠では、水の確保が何より重要だ。
〇魔物読本 種別:ロケーション
アテナの持ち歩く何冊かある本の1つ。多種様々な魔物が記されているが全ての魔物が載っている訳ではなく、一部が記されている。一般的に知られている魔物が中心に載っているようだ。内容は魔物のイラストや名前、生息地や説明等。決まった場所を拠点とする冒険者には、あまり必要ではないが各国を旅するのであれば世界中に魔物は存在するので重宝しそう。
〇全方位型魔法防壁 種別:防御系魔法
強力な防御系上位魔法。自分の周囲にドーム状(実は球体)の光の幕を張り、物理攻撃や炎や冷気などの攻撃も防ぐ。とても強固な防御魔法で、なんとアテナはこの魔法を瞬時に発動できる。アテナは、魔法は得意ではないらしいが、王宮にいた頃に教育係の爺にスパルタで教えられて扱えるようになった。
〇狩り
冒険者が、人里離れた場所を旅する場合に狩りをするという事はよくある。なぜなら、村や街が近くにない場合にでも食糧調達が必要になる場合があるからだ。その場合、冒険者やパーティーの中に弓が得意な【アーチャー】がいれば助かる。ついでに、狩った獲物を手際よく解体できる技術を持っているとより良い。アテナは弓が得意ではないが、狩りは得意だし獲物の解体もお手の物なのだ。ルキアもそれを見て、一生懸命に学習している。




