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第439話 『ファニング家の姉妹 その6』




 倒れていたドワーフは、ゴツゴツの立派な鎧兜を身に着けていてとんでもなく重く、ファムと二人がかりであったとしても、とてもキャンプまで運ぶ事はできなかった。だから、その場で僕らにできる介抱をする事にした。


 暫くすると、ドワーフは目を覚ました。



「あっ! 気が付いた!」


「……む。ヒュームか! そなた達は、いったい何者だ!?」



 ドワーフは、驚いた顔をしたが起き上がれないでいる。



「初めまして。僕はミューリ」


「ファムは、ファム。ミューリとは姉妹。この近くでキャンプをしている者」


「キャンプ? そなた達、子供だけでこの山でキャンプをしているのか? 親がおろう?」



 親という言葉にファムの眉が一瞬動く。僕の胸もチクッとした。


 ドワーフはそう言って身体を起こす。すると、うっと声を漏らし痛そうに頭を押さえた。



「だ、大丈夫?」


「ああ。大丈夫だ」



 ファムが好奇心に満ち溢れた眼でドワーフを見つめる。



「おじさんこそ、こんな所で何をしている? もしかして、冒険者?」


「ぼ、冒険者だとな? 儂はな……ああ、まあそんな所だ。ちょっとこの辺りを調べて回っている。そしたら、いきなり大蛇に襲われてな。殺されまいと奮闘したが、途中で足をとられて山の中を転がり落ちてな。気が付けば……ん? そう言えば、儂の斧は……」


「おじさんの斧なら、あれかな」



 ファムが指をさす。ドワーフのおじさんが倒れていた場所から少し離れた所に、それは落ちていた。僕はその斧をおじさんに手渡そうと取りに行き、その大きな戦斧を持ち上げようとした。


 ずずず……


 お、重い!! なんて、重量のある斧!! 


 大きな斧だから重いとは思っていたけど、見た目よりも更に重さを感じる。必死に持ち上げようとしていると、ファムも手伝おうとしてこちらを向く。すると、おじさんはファムの手を掴んで止めると大笑いした。



「グワーーハッハッハッハ!! その斧は、ドワーフ王国最高の鍛冶職人デルガルド・ジュエルズが作った斧だ。威力も並ではないが、重さも並ではない。ヒュームの少女に、到底扱えるものではないわ」



 ドワーフ王国? 鍛冶職人デルガルド・ジュエルズ? 


 ドワーフの王国は、名前は聞いたことがある。ノクタームエルドの大洞窟内、北西に位置するドワーフ達の王国。ここからも、それ程遠くはない場所にあって、お父さんが僕達をいつかそのうちにそこへ連れて行ってくれると言っていた場所。


 そこにはドワーフ達が沢山いて、色々美味しいものがあって、行商人や冒険者も沢山立ち寄る場所で、とても賑わっている場所。僕とファムは、お父さんからその話を聞いて、そんな夢のような所があるのなら是非行ってみたいと、大はしゃぎしたのを覚えている。


 おじさんは、僕が必死で持ち上げようとしても持ち上げられなかった戦斧を片手で握ると、軽々と持ち上げた。


 ドワーフという種族は、僕ら子供位の背丈しかないのに、身体は筋肉が盛り上がる程に強靭で物凄い力持ちなんだと思った。


 ファムが目を輝かせながら問う。



「おじさんは、そのドワーフの王国から来たの? その国の冒険者なの?」


「まあそうだ。そこから来た。そんな事より、ここにいては危険だ。この山には狂暴な大蛇がいるからな」



 ドワーフの王国や鍛冶職人という言葉にも興奮しているファムだったが、大蛇と聞いて興奮は更に高ぶる。慌ててショルダーバッグから例の本を取り出すとパラパラとページを捲り、おじさんに見せた。



「これ?」


「むう。こんな本を持っていたのか。だが、違うな」


「じゃあ、これ?」


「違う」


「じゃあ、これだ!」


「そうそれだ! その大蛇……大きな蛇の魔物がこの辺りにいる」



 グリーディーボア。ファムが開いた本のページには、その名前の魔物が記されていた。


 大きな蛇の魔物で、性格は獰猛。森や林によく生息しているが、草原や湿地帯にいる場合もある。人間をひと呑みにできるくらいの大蛇で、鹿や羊などを好んでは丸呑みにしている光景を目にする冒険者は、少なくない。


 ノクタームエルドのような大洞窟や岩山連なる山脈地帯には生息していないようで、ナスタ村付近でも見た事はない。だけどこの緑溢れる山なら、生息していてもなんら不思議ではない。


 僕は、おじさんの腕を掴んだ。



「おじさんは、別にそのグリーディーボアを退治しにきた訳じゃないんだよね。それじゃ、一旦僕らのキャンプにこない? ここは危険なんでしょ」



 それがいいと思った。この近くで、このおじさんがそのグリーディーボアに襲われたとすれば、まだ近くにいるかもしれない。どうするかは、また後で考えるとしてもとりあえず一度安全な場所に移動した方がいい。



「わかった。そなた達だけにしても、もしもあの大蛇に遭遇したら抗う間も無く喰われてしまうだろう。だが儂がいれば、大蛇が出てもそなたらを守る事ができる」



 僕が思って吞み込んだ事を、ファムが口にした。



「でも、おじさんそのグリーディーボアに襲われてやられたんだよね。挙げ句に坂道をこう、転がって……」



 おじさんは、キャンプに向かっていた足を止めてファムを睨みつけると、大声で言った。



「やられた訳ではない!! 断じてやられた訳ではない!! 不覚をとった、それだけだ!! 戦っている時に足をとられ、それで転がって気を失った!! 足場がしっかりとしていて、1対1であればあのような大蛇に決して、不覚をとらんわ!! 儂は……」



 何かを言おうとして、おじさんは言うのを止めた。そして、再び歩き始める。


 おじさんの大声に怯える事もなく、ファムが更に言った。



「それじゃ、おじさんはあのグリーディーボアと再戦したら勝てる?」



 ファムの言葉におじさんの耳がピクリと動いた。そして、ファムの方を見ると親指を立てて見せた。



「もちろんだ!! 今度は、足場の事も考えて戦う。だから、決して儂があのような大蛇にやられるような事は決してないと断言しよう! 儂のが上だ!!」



 その言葉を聞いたファムは、にっこりと笑う。すると、おじさんもにっこりと歯を見せて笑った。


 ドワーフと言う種族には初めて会う。筋骨隆々の身体に、岩みたいなシルエット。背丈は低く、髭はもじゃっとした風貌。大声でファムに言い返した時は、一瞬ビクっとしたけどいらぬ心配のようだった。


 このおじさんは、優しい人の気がする。なにより、ファムがおじさんに懐き始めていた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇グリーディーボア 種別:魔物

大きな蛇の魔物。性格は獰猛。森や林によく生息しているが、草原や湿地帯にいる場合もある。人間をひと呑みにできるくらいの大蛇で、鹿や羊などを好んでは丸呑みにしている光景を目にする冒険者は、少なくない。※ファムの手帳をそのまま引用。

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