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第434話 『ファニング家の姉妹 その1』 (ミューリ&ファムpart)




 ――――13年前、ヨルメニア大陸。


 ドルガンド領とノクタームエルドの国境から少しだけ離れた場所に位置する村がある。その村はナスタ村と言って、赤と緑それぞれの髪色を持つ可愛らしい姉妹が住んでいた。


 姉妹はミューリとファムという名で、この村に昔から住んでいるファニング家の子供だった。二人は、生を受けてから特に重い病にもかからずすくすくと元気に育った。しかしながら、元気溌剌と育つ娘たちとは違って、間もなくして両親のファニング夫妻は重い病に倒れた。


 その頃、たまたま旅の途中ナスタ村に立ち寄った年老いた【ウィザード】のノーマは、村の者達に頼まれてミューリ達の両親を診察する。結果病はノーマの知るものであったが、決して治らない病気である事にノーマは肩を落とした。


 その病気が凶悪なもので、致死率も非常に高く他の者にも感染するものだと知っていたノーマは、その事をファニング夫妻に告げた。


 すると、ファニング夫婦は自分達の意思で、村長を始め他の村人にも自分達の病の事を打ち明けて相談した。結果、ファニング夫婦は、病を流行らせないよう自ら家に閉じ籠った。


 ファニング夫婦にとって、それはとても可哀そうな事であったが、それが正しいとファニング夫婦がそれを望み決断した事だった。


 ミューリとファムは、もちろん両親に会いたがったが、当然それを許すとファニング夫婦の病気は、たちまち娘達に感染し、そこからまた村に広がって行くだろう。だから、ミューリ達が両親に会う事をノーマも村長も……そしてファニング夫婦が禁じ、両親から娘達を遠ざけた。


 それでも両親に会うと言って従わない姉妹を、仕方がなくノーマは熟練した黒魔法で小屋に結界を張って閉じ込めた。放っておけば、姉妹は確実に両親に会いに行く。だから、可哀想でも仕方がなかった。


 ファニング夫婦の愛する娘、ミューリとファムはノーマが結界を張った小屋の中で毎日両親を呼んでは泣き叫んだ。


 やがて、ファニング夫婦は病で命を落とし、感染が広がらないようにノーマは夫婦二人の遺体を魔法で焼いた。


 全てが終わると、ミューリとファムは小屋から解放されたが、病気というものをまだちゃんと理解できない二人は、ナスタ村の村長をはじめとする村人と【ウィザード】である老婆のノーマを恨んだ。


 ファニング夫婦亡きあとは、両親に変わって村長が姉妹の面倒をみていくと言ったが、憎悪の炎を心に燃やす姉妹はそれを良しとせず、ノクタームエルドの端にある、緑に恵まれている山に消えた。


 旅する【ウィザード】ノーマは、自分のした事の正しさは間違いないものだと思っていたが、それをまだ理解することができない姉妹に、この悲惨な結果を突き付ける事は酷だと思った。だから、そのまま放ってはおけないと村長や村人達とも相談した。


 それからノーマは、ナスタ村の村長へ二人を探し出す旨を伝え、姉妹の後を追ったのだった。


 ノーマは、旅をするには歳を取りすぎていた。自分でそう自覚している。人は自分の姿を見せれば、老婆だと思うだろう。しかし、昔はそれなりに美人魔法使いと言われる【ウィザード】だった。酒場で何度も男に誘われた事もある。元気もあったし、力もあった。だがそれはもう、遠い過去。それが歳を重ねるごとに、日々弱っていく。


 冒険者として生計を立てていたノーマは、自分の老いを実感すると共に、冒険者としての生業を諦め何処かの村か街で、魔法関係の店を構える事にした。黒魔法に関してなら、長年極めた知識と技術がある。それに、前々から店も持ってみたかった。


 しかし蓄えはそれ程ないので、街での開業は無理かもしれないとノーマは思っていた。それで、最後の冒険者としても、引退も兼ねて店探しの最後の旅をしていた。


 その途中で、ナスタ村を見つけた。この位の小さな村でなら、初期投資を抑えてマジックショップを開業できるのではないか。そんな思いでナスタ村に寄った所での事件だったのである。


 ノーマは、そんな事を考えながらもファニング夫婦の愛していた娘達を探す。


 二人が入り込んだ山は、ここで間違いはなかった。だが、岩肌目立つノクタームエルドには珍しく、姉妹が入り込んだ山は草木が豊富に茂っている場所で、二人を見つけるのにはそうとうに骨が折れると思った。


 しかし、ノーマは冒険者であり黒魔法を得意とする【ウィザード】。老いてはいても、熟練した魔法使いではある。


 草木の生い茂る中、暫く姉妹を探してみて見つからないと思うと魔法を詠唱し始めた。


 ――風属性の探知魔法。



「風よ、この山に潜む少女達の潜む場所を我に示せ。≪風の探知魔法(ウインドサーチ)≫!!」



 風が舞い上がり、それが掌に集まって浮かび上がるとくるくると回り風の塊ができる。それが、姉妹の居場所を指し示す。ノーマはニヤリと笑った。



「見つけた。どうやら、あの姉妹のいる場所はあっちだね」



 山道というのは、傾斜もきつく歩くそれだけで年老いたノーマにとっては、きつかった。顔を一瞬歪めつつも姉妹が隠れていそうな方へと足を向ける。


 すると、小さな湖があり、その近くには洞穴があった。ノーマは、ミューリとファムがその洞穴にいるに違いないと思った。


 ノーマは小さな湖を迂回し、洞穴の前に立つと大声で叫んだ。



「あたしゃ、ノーマだよ! 旅する【ウィザード】ノーマ!! ミューリ、ファム!! 出てきな!! あんた達がここにいるのは、解っているんだよ!!」



 …………



「早く出ておいで!! 村長も心配している!! どうしても、出てこないってんなら実力行使になるよ!! いいのかい!!」



 脅すように強くいうと、洞穴から二人が顔を出した。赤髪と緑の髪の可愛い少女。


 しかし、その二人がノーマを見る目は憎悪の目。ミューリ達にとって、ノーマは自分達の両親を殺した仇に見えているのだ。


 二人は、近くにあった石を手で掴むとそれを思いきり振りかぶってノーマに投げつけた。



「魔女め!! お父さんとお母さんを帰せ!!」


「魔女め!! 呪ってやる!!」


「あいたっ!! な、何をするんだい!! まったく、この娘どもは!! 風よ、娘たちを吹き飛ばせ!!」



 ノーマが手を翳すと突風が吹き、姉妹はノーマに向かって投げた石ごと吹き飛ばされて洞穴の壁に打ち付けられた。


 ファニング夫婦の残した可愛い娘たちは、その衝撃で気を失った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ミューリ・ファニング 種別:ヒューム

ナスタ村に住む少女。赤髪でマッシュヘアの可愛い女の子。後にノクタームエルドの最強姉妹ユニット冒険者『ウインドファイア』と呼ばれる。


〇ファム・ファニング 種別:ヒューム

ミューリの妹。緑色の髪で、マッシュヘアの可愛い女の子。ミューリと共に、後にノクタームエルド最強姉妹ユニット冒険者『ウインドファイア』と呼ばれる。自分の好きな話になると饒舌になる。


〇ノーマ 種別:ヒューム

魔法使いの老婆。クラスはもちろん【ウィザード】で、長年冒険者を生業としてやってきたが、年齢を感じて落ち着ける場所を探しそこでマジックショップを営もうとしている。


〇ヨルメニア大陸 種別:ロケーション

クラインベルト王国やガンロック王国、ヴァレスティナ王国やドルガンド帝国等々の国のある大きな大陸。アテナやテトラが冒険を続けている世界。まだまだ未知なる世界は、広がっている。


〇ナスタ村 種別:ロケーション

ミューリやファムが幼い頃に住んでいた村で、丁度ドルガンド帝国とノクタームエルドの国境付近にある村。


風の探知魔法(ウインドサーチ) 種別:黒魔法

中位の風属性魔法。掌に風でできた球を発動する。それを見る事によって、近くにあるお宝や敵の場所の索敵、ダンジョン内でのマッピング等々できる、冒険者なら是非使えるようになりたい魔法。

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