第432話 『ドワーフの王国、別れの時 その2』
ルキアとドゥエルガルの少年達との別れを見て、ルキアもこの王国に来てから色々な冒険や経験、そして出会いをしたんだなって改めて思った。微笑んでいると、私も名を呼ばれた。
「アテナ!! アテナーー!!」
見ると、そこには髭に青いリボンを結んだドワーフが立っていた。いつもは、不機嫌そうな顔をしていたけど今はそうじゃない。――悲しそうな顔。
「ジボール!!」
「もう、行ってまうんやな!! もっとおるー思ってたけどな!!」
「ごめんね、ジボール。悲しいけど私達は旅の途中だし、今回の騒動もあって一度クラインベルト王国に戻らないといけないの」
「そ、そうなんや。でも、またここに来るんやろ?」
「うん、もちろん! 旅は続けるし、色々な場所を見てみたいから直ぐにではないけれど、必ずまた来るよ!」
「ほ、ほんだらええわ! ただ、次ここへ来たときは真っ先にそのアホみたいな面を見せにこいよ!!」
ジボールはそう言って、プイっと振り返った。私はそんなジボールを追って、後ろから抱きついた。
「な、なんや!? どないしたんやっちゅーに!!」
「ありがとう!! 色々ありがとう!! 鍛冶屋を探していて、たまたま声をかけた人がジボールみたいな優しい人で良かった。こんなにも私の事を気にかけてくれる人と出会えて良かった。また、絶対に会いに来るからね」
「お、おう! 絶対や!!」
ジボールにも別れを告げた所で、ガラハッド王が戦士長ギリムと共に現れた。私は、ガラハッド王に頭を下げるとガラハッド王は「ありがとう」とまるで頭を下げているかのように、深く頷いた。
ルシエルとルキアと顔を見合わせ、そろそろ旅立とうとするとデルガルドさんとマリンが前に進み出てきた。そこにノエルの姿は無く、ルシエルは彼女が何処かにいるのではないかときょろきょろと探している。デルガルドさんは、落ち着きのないルシエルに気付いて言った。
「すまんな。ノエルは、ここへは来ないそうだ。あいつは、照れ屋でな」
「なにーー、そうなのか!? せめて最後に会いたかったな」
「……なに、直ぐに会える。それはそうと、アテナよ。お前の剣をもう一度、見せてはくれんか」
「はい、いいですよ。どうぞ」
帯刀している二振りの剣『ツインブレイド』を抜くと、デルガルドさんに手渡した。デルガルドさんの手はその巨人のような身体に比例して大きく、私の剣を摘まむようにして持つとそれをまじまじと見て、そして返してくれた。
「何かありましたか?」
「ふむ。やはりこの剣は『ツインブレイド』だな。間違えない」
デルガルドさんは、おかしなことを言うなと思った。この剣が『ツインブレイド』だという事はもう、伝えている。
「まあ、そんな謎めいた顔をするな。この剣はな、元々は儂の家にあった剣だ。それを儂が打ち直した」
「えええーー!! 嘘でしょ? だって、これは私が師匠から……」
「お前の師匠は、ヘリオス・フリートだろ? ヘリオスと儂は、昔パーティーを組んで旅をしていた頃があった。あいつは気まぐれで一人を好む。パーティーを組んだのは、数年だけだがな。……それで、ヘリオスに『ツインブレイド』を欲しいとせがまれてな、儂が打ち直して餞別にヘリオスにくれてやった」
もうドワーフの王国を旅立とうとしていたのに、旅立つ直前で衝撃の事実を知ってしまった。『ツインブレイド』は、デルガルドさんの家にあったもので、それを師匠がもらったもの。しかも、デルガルドさんと師匠は、一緒にパーティーを組んでいた事があるだなんて。
どうりで、ワームを狩りに行った時もグレイドラゴンを殴り倒した時も、とんでもない人だと思っていた。だけど、ようやく合点がいった。デルガルドさんの何事においても動じない程の強さの謎――あの師匠とパーティーを組んでいた人なら不思議ではない。
「それで、お前がグレイドラゴンを一薙ぎにした技だがな。二振りの剣を合わせて一本の凄まじい威力を持つ大剣に変えたあれ、あれには驚いた」
「エヘヘ。師匠と一緒に考えた技なんだ。その名も金剛斬!」
「確かに凄まじい技だったが、あれは実は『ツインブレイド』本来の形ではない。本来の形を見出し、それを使いこなせば今以上の力を引き出せるだろう。それをアテナ、お前に伝えておきたかった」
そう、『ツインブレイド』は一刀流でも二刀流でも使えるけど、それは本来の形ではないのだ。私はデルガルドさんに「そうだよね」と笑って見せた。するとデルガルドさんは、私が既にそれを知っていただろう事に気づき驚いた。
「まさか、もうこの剣の真の使い方を知っているのか?」
「はい。知っています。でも、教えてくれた事は嬉しいです」
自信満々にそう答えると、デルガルドさんは呆れた顔をした後に、豪快に大笑いした。そして、それならもう今の所は伝えるべきことはもうないと、手を振って私を送り出してくれた。
――残るは全身水色の魔法使い、マリン・レイノルズ。
「ボクは、アテナと共に行くよ。テトラとの約束も無事に果たしたし、一応ヘリオスさんに言われた通りアテナに助力した。ドラゴン退治には間に合わなかったけれどね。まあどちらにしても、クラインベルト王国に戻るのであれば一緒に行こう」
「ええ。それじゃあ、帰りの道中にセシリアやテトラやリアの話を聞かせて」
「解った、いいよ」
ガラハッド王に、メール、ミリー、ユリリアに、ジボールに、デルガルドさんに、ベップさん、ユフーインさんに、ゴーディ、テディ、ブラワーに、ギブンに……そして、ミューリとファムに手を振って別れた。
後ろ髪を引かれる思いで、吊り橋の真ん中まで歩いた所で、後ろから声がしたのでまた振り返る。すると、まだ私達の事を皆、手を振って見送ってくれていた。いつまでも……
そして、デルガルドさんとミューリとファムの大きく振り絞った声がここまで聞こえてきた。
「アテナ、頼んだぞおおお!! ヘリオスにも会う事があったらよろしく伝えておいてくれい!!」
「また僕らを誘ってねーー!! その時は、また一緒に冒険やキャンプをしよう!! それと、色々あると思うけどお互いに頑張ろうねーー!! しっかり頼んだよーー!!」
「次会う時は、ファムはもっと腕をあげておく!! だから、次あったらまた改めて勝負しよう!! ルシエルには、もう負けないから!! アテナとルキアは、しっかりしているから大丈夫だと思うけど、ルシエルはそうじゃないから!! また会おうね!! あと、ファムからも頼んだからねーー!!」
「さよーーなーーらーーー。また逢う日までーーーー!!」
ルシエル、ルキア、マリンと共に大きく手を振る。吊り橋の向こうで、いつまで待たせるのかという感じでイラついているゾルバの姿が見えた。確かに別れを惜しみすぎて、随分と鎖鉄球騎士団を待たせちゃったかな。
…………
それにしても、デルガルドさんもミューリもファムも何をそんなに頼んだと言っていたのだろうかと思った。
順当に考えると、ドワーフ王国とクラインベルト王国の同盟の事だと思うけど……なぜか、ムズムズっとした。




