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第429話 『ギリムの処罰』




 ――――ドワーフ城、近くの兵士達の訓練場。


 そこに私達は集まっていた。この訓練場には、玉座の()にいた者だけじゃなくて、街の人達も何が始まったのかと沢山集まってきていた。


 本人が公開処刑を望むなら構わないとガラハッド王は、何が行われるのか気になって集まってくる人達を特に止めもしなかった。


 沢山の人が集まる訓練場。私と戦士長ギリムは、そこでお互いに見合っていた。私はドワーフ兵に言ってギリムの装備と武器を用意させて彼に握らせた。


 ギリムは、威圧感のある形相で私を睨んだ。ガラハッド王には申し訳ないと思っているのだろうが、彼の私に向けるまなざしは敵を見る目だと思った。戦いはまだ終わっていないという事。彼は処断される事を受け入れているが、私と今向かい合っている事についてはまた別の事。



「これはなんのつもりだ、アテナ王女。反逆者の自分に対して、更に重ねて恥をかかせるつもりか?」



 私は笑って答える。



「罪を償うと言っているわりには、随分と上からものを言うのね」


「陛下には、お見せできる顔がない。死んで罪を晴らせるならそうしたいと思っている。だから、自分で決着をつけたかった。なのに、お前は……」


「それは、随分と自分に対して都合が良すぎない? そう簡単に死を選べる訳がないでしょ。あなたの罪をどうするかはガラハッド王が決める。そして、そのガラハッド王は私に一任した。だから、私が刑を執行する」



 そう言うと、ギリムは押し黙った。押し黙ったまま、私を睨みつける。



「武器を握らせたのは、あなたに戦士として最期を迎えさせてあげる為よ。ガラードとあなたは、判断を間違えた。でも、その考えは歪なものであったとしても、この国の未来を考えていた事も事実。だから、せめて戦士としておくってあげることにしたの」



 そう言うとギリムは、先程自害に使用しようとした斧を手に持ち、こちらを向いて構えた。



「クラインベルトの王女。お前が今している事は、慈悲などではないぞ。単なるうぬぼれだ。そして、それがやがて後悔に変わる。自分は罪を認め、自害するつもりではあったが……気が変わった。死して詫びるにせよ、お前の命はもらっていこう」


「フフフ。残念ね。実を言うと、あなたがそう言うだろうなって解っていた。本当を言うと、これは公開処刑よ。ガラハッド王を裏切ったあなたを私が裁くための」



 辺りはもう、歓声やら野次やらが飛び交っていた。集まった者達は、これから何が行われるか気づいたからだ。お陰で、ギリムとの会話は幸い私達二人だけしか聞こえていなかった。


 良かった、こんな会話をルキアに聞かれていたら、きっと教育上良くはない。あの子は、まっすぐに育って欲しいから。ちらりとルキアの方を見ると、真剣な眼差しでこちらを見ている。


 ガラハッド王がドワーフ王の剣フレイムントを抜くと、それを頭上に掲げた。



「それでは、これから我が愚かな息子ガラードに加担した戦士長ギリムの公開処刑を執り行う。アテナ王女。戦士長ギリム。武器を抜いて始めよ!!」


「うおりゃああああ!!」



 ガラハッド王の掛け声と共にギリムは、斧を振りかぶり真っ直ぐに突っ込んできた。



「アテナ!! ぼーーっとすんなや!! よけろや!! それで反撃やあー!!」



 ジボールの声。集まっている観衆の中に私の事を心配して大声を張り上げるジボールの姿があった。その横にはデルガルドさんもいる。


 私は二振りの剣を抜くと、ギリムの攻撃を避けつつもすれ違いざまに彼の身体を複数個所斬りつけた。


 しかし、その攻撃はギリムの身に纏う鋼鉄の鎧に傷をつけただけで、その身には達していない。びくともしないギリムは、何度も斧を振ってきた。



「クラインベルト王国の王女のモニカとアテナは、あのクラインベルト王国最強の将軍ゲラルド・イーニッヒに匹敵すると聴く!!」


「ゲラルドは、今は将軍じゃなくて近衛兵長よ!」


「最強には違いない! 兎に角、そのクラインベルトが誇る一人、アテナを討ち取りし者として死せるのであれば、この上ない冥土への土産だ!!」


「ドワーフ王国最強の、戦士長ギリムにそこまで言われるとは、私も光栄だわ」



 金属音。剣と斧が交差し、弾ける。


 私は跳躍すると、空中で一回転し片方の剣でギリムの兜を頭上から斬りつけた。



 ――兜割り(かぶとわり)!!



 ギィイイン!!



 ギリムの兜も、鋼鉄製。私の剣は、弾かれてしまった。



「くっ! やっぱ、片手で振っちゃ兜は割れないかー」


「グハハ。まるで、両手ならこの鋼鉄製の兜を割れると言った口ぶりだな。この鎧兜はドワーフ王国の鍛冶職人が粋を集めて作り上げたもの! 簡単に割ることなどできんわ!!」


「え、そう? 割ろうと思えば割れるよ」


「なんだと? ほざきおってからに!!」



 ギリムの目に炎が灯る。再び、打ち合う。


 ギリムの怪力で打ち出される攻撃を、正面から受け止める腕力は私にはないので、その全ての攻撃をかわして受け流した。


 そして、隙を見つけると踏み込んで二振りの剣を高速で打ち込み、ギリムの持っていた斧を宙へ跳ね上げた。斧が落下すると同時に、ギリムはその鉄の塊のような体でタックルをしかけてくる。本当に戦士というだけあって、戦い慣れている。


 避けると、ギリムはそのまま通り過ぎていき、自分の従えていたドワーフ重歩兵隊からウォーハンマーを奪い取って再び構えた。



「ふーーん。今度は、ウォーハンマーってわけね」


「ウハハ。これこそ、我らドワーフに最も適した武器だわ!! これで、今度こそ仕留めてやるぞ!! ペシャンコにしてやる」


「おいおい、大丈夫かよアテナ!! 選手交代か!! オレと選手交代するか!! なあ?」


「ちょ、ちょっと下がってください、ルシエル!!」



 ルシエルとルキアの姿も見えた。あの顔は、少し心配している顏だな。


 私は大丈夫だよと、二人に笑って見せる。次の瞬間、ギリムがウォーハンマーを片手にまた突っ込んできた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


兜割り(かぶとわり) 種別:剣術

勢いをつけて跳躍し、空中で一回転して剣を振り下ろす大技。相手の頭上から遠心力と体重も加えて剣を振り下ろし、相手の兜すらかち割るのでその名がついた。技を放つ者の腕や、剣の良さも関係するが鉄製の兜すら真っ二つにするという。

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