第425話 『謎のお助け魔法使い その1』
――――ノクタームエルドに入り旅を続け、ドワーフの王国にやってきてから、凄く色々な事があった。
色々な事がありすぎて、もう何ヶ月もこの国に滞在しているような感覚に襲われる。
でも、このドワーフの王国で起きた一番の大きな事件も解決し、それによって起きた混乱も収束した。
デルガルドさんに、かなりお灸をすえられたのか、ノエルはこちらの味方になりガラードをぶん殴ってガラハッド王を見事に助け出した。後、私達はガラハッド王から城でしっかりと休息をとる様にと言われ、それに従った。
街は、リザードマンやドゥエルガルに荒らされていた。また暫くすれば、もとの活気のある王国に戻るだろうけど、それには少しだけ時間がいると思った。
デルガルドさんやジボールは、荒らされた建物などの修復や怪我人の搬送や手当をするといって、行ってしまった。話したい事も色々とあったんだけど……
メール、ミリー、ユリリアやベップさん、ユフーインさんの事も気になっていたけれど、彼女達も全員無事だとガラハッド王から聞かされた。既に、ドワーフ兵を走らせて状況を見に行ってくれたらしい。
戦いの最中、実はベップの宿にもリザードマンの部隊が向かっていたそうなんだけど、どうもシャルロッテがルイ伯爵と共に街を出る前に、ドルフスと一緒に忘れ物があると言い出して街へ戻り、宿のメール達と一緒になってリザードマン達と戦って宿の皆を守ってくれていたらしい。
やっぱりなんだかんだ言っても、シャルロッテは優しい子だと思った。優しくて思いやりのある貴族令嬢。ドルフスにもちゃんと感謝しないとね。
だけど宿の皆がもう安全だと解ると、二人は別れも告げずにルイ伯爵に従って公国に戻ってしまったらしい。キョウシロウも既にその後を追って、ドワーフの王国を出立した。
私、ルシエル、ルキアはもう1日このドワーフの王国に留まって欲しいとガラハッド王に言われたので、鎖鉄球騎士団のゾルバ・ガゲーロ団長にこの事を話し、騎士団を街で待機させてもう一日だけこの国へ滞在する事にしたのだ。
城に泊まると、ガラハッド王は私達にできる限りのもてなしをしてくれた。
傷の手当。ご馳走の数々。ご馳走は、ルシエルが特に楽しみにしていたので、飛び跳ねて喜んでいた。その横でルシエルに負けない位の喰いっぷりを披露するマリンには、色々聞きたい事があったのだけど、ちょっと今は話をしづらい感じだったので、後でしようと思った。
食事が終わるとガラハッド王からは、ルシエルやルキア、マリンとそれぞれに豪華な部屋を用意してくれて、そこで休んで欲しいと言われた。部屋に入ると、テーブルには美味しそうな果物がどっさりと置いて会って目を丸くした。
その日の夜、ミューリやファムに会いたいとガラハッド王に願ったが、二人とも戦いの疲れやダメージがあり明日にしようと言われた。
そんな訳で、私達はルキアの部屋に集まりマリンから色々と気になっていた事について話をすることにした。
ルシエルは部屋に入るなり、ルキアの部屋にも置かれていた果実を見つけて、一呼吸置かずに手を伸ばした。そして齧りつくと幸せそうな顔で咀嚼する。ルキアは溜息を吐くと、カルビを抱き上げるとそのままベッドに腰をかけた。ルキアの膝の上で丸くなるカルビ。
それを見たルシエルも、果物を片手にルキアのベッドに転がる。ボロボロと何かが、口から落とした。ルキアはそれを見てルシエルを怒り、ベッドから追い出そうとする。抵抗する、ルシエル。
私とマリンは、テーブルの方の椅子に腰を掛けると話を始めた。
「それで――早速だけど、あなたは何者?」
「一度言ったけど、そうだね。ちゃんと挨拶するべきだったね。ボクの名前は、マリン・レイノルズ。旅をする冒険者だよ」
「そう、私はアテナ。そして、ベッドで横になって果物をいやしくも齧っているハイエルフがルシエルで、その横に座っているのが獣人のルキア。その膝にいるのが使い魔のカルビよ。この皆でパーティーを組んで冒険をしているの」
「皆、よろしく。しかし、出会えてよかったよ。グレイドラゴンを倒すのに間に合わなかった時は、少しドキっとしたけどね。それでも、どうにか活躍の場があって良かった。じゃないと、君の師匠にまた何か言われそうだからね」
マリンの師匠と言う言葉を聞いて、あまりのことに身をのりだしかけた。まさかとは思うけど……
「え? 師匠?」
「そうだよ。君の師匠。SSランクの伝説級冒険者、ヘリオス・フリートだよ」
「う、嘘でしょ!? マリンが師匠に会ったって……」
「嘘をつく理由がないよ。ヘリオスさんとは、ノクタームエルドでここへ向かっている途中に出会ったんだ。君の話や、他に興味深い話も話してくれた。魔の物が活発化してきているみたいでね、グレイドラゴンの復活やリザードマンの襲来は恐らくその予兆であるとヘリオスさんは、推測しているみたいだったよ。そのうち、この大陸に今以上に魔物が現れ人を襲うかもしれない」
「嘘でしょ!! そ、そんな! 本当にマリン、あなた師匠にあったの!? しかも、師匠はこのノクタームエルドに来ていただなんて……信じられない」
「でも事実だよ。ボクは確かにヘリオスさんと会った。そして、少しだけど一緒に肩を並べて戦ったし、ヘリオスさんとも戦ったよ。とんでもない、化物だった。あれは、本当に紛れもなくSSランクだよ」
魔物の活動が活性化してきているという事よりも、マリンが師匠に会ったという事の方が驚きだった。私は、もうかれこれ師匠と何年もあっていない。このノクタームエルドにもしもいるのであれば、会いたい。
師匠に会って、色々や話を聞いてほしい。師匠のあの美しく凄まじい剣さばきと、あの顔を見たい。何より、師匠に会いたい。
「師匠は、まだこのノクタームエルドにいるの?」
「いや、もういないと思う。彼は、グレイドラゴンやリザードマンがドワーフの王国を襲う事を事前に知っていた。それで、ドワーフの王国へ向かっていたようだった。でも、ボクと出会いボクの事を知ると、ドワーフの王国の事はボクと君に任せると言って何処かへ行ってしまったんだ」
「そ、そうなんだ」
「うん、そうなんだ」
それだと……その口振りからすると、師匠はもうノクタームエルドには、いないだろう。でも、マリンと一緒に魔物と戦ったりしたって事は、今も変わらず元気でいるということ。それが解っただけでも良かった。
師匠も私も冒険者……そしてキャンパーである限り、そのうちまた何処かで出くわす可能性も大いにあるのだから。
私は続けて気になっていた事。マリンが、ルキアの妹リアの名前をなぜ知っていたかという事について聞いた。




