第421話 『ハーフドワーフ』
ノエルがまたもや起き上がってくる。流石に私もルシエルも驚きを隠せなかった。な、なんてタフな女の子なの!?
ドワーフという種族は、力持ちで武器を扱う能力にも長けている。そして、身体の頑丈さにおいても他種族に比べてずば抜けているのだと聞いた事があるけど……
ノエルには、そのドワーフの血が半分流れているのだという。確か、ヒュームとエルフから生まれたハーフエルフは、精霊力が通常のエルフに劣るけど、代わりに圧倒的な身体能力が備わると聞いたこともある。
昔、お父様の知り合いで、とんでもなく強いハーフエルフがいて、会わせてもらった時にその話を本人から聞いた。
でも、ノエルみたいなハーフドワーフがいる事は、知らなかった。
もしかしたらハーフエルフのように、通常のドワーフには備わっていないような能力が、ハーフドワーフにはあるのかもしれない。例えば圧倒的な耐久力――
「ここからは、一歩もいかせねえぞ!! 通りたきゃ、あたしを倒してからにするんだな!!」
「ま、まだ私達と戦う気なの!?」
「こうなったら全員でかかって、さっと片付けちまうか!」
ルシエルの言葉に、ノエルは反応しペロッと舌なめずりをした。駄目だ、完全に戦闘モードに入っちゃってる。こうなったらもう少し大きな技で、異常な程頑丈なノエルでも暫く起き上がってこない位のダメージを与えるしかない。
そう思い、剣を構えようとした瞬間、身体がふらついた。ルキアが慌てて駆け寄り、支えてくれた。
「だ、大丈夫ですか? アテナ! いったいどうしたんですか?」
「う、うん。大丈夫。さっきの大技、物凄く気力やら魔力やらもってかれるんだ。だから、ちょっとね……でも、もう大丈夫」
ルシエルが溜息をつく。
「ふーー、それなら仕方がない! ここはオレに任せて、皆ガラードを追ってくれ。ノエルとは、もう一度1対1で真剣勝負するんじゃないかって気がしてたしな、任せてくれ」
ルシエルの言葉を聞いてノエルは、笑みを浮かべる。
「フフン! おもしろい!! だが、あたしが本気になったからには、お前ら全員街にはいかせない! 陛下とガラードの野郎を安全な場所に移したら、直ぐにミューリとファムも戻って来るぞ! それまでに、果たしてあたしを倒すことができるかな? もう思い知っただろうが、あたしの頑丈さは折り紙付きだぞ!」
この戦いは避けられない。だけど貫き通すしかない。そう思って覚悟を決めた刹那、岩石のような大きな拳がノエルを叩き潰した。
「えっ? がふっ!!」
予想外からの攻撃という事もあって、ノエルは踏ん張る事もできずに固い岩でできた地面にめり込んだ。そして、もうピクリとも動かない。
私達は、その予想だにしなかった衝撃的な光景にあっけにとられる。すると、ノエルに巨大なパンチを放った本人、デルガルドさんがこちらを向いて言った。
「なにがアース&ウインドファイアだ。アースって偉そうに言ってはいるが、ノエルは土属性魔法はおろか魔法なんて一つも使えやしない。戦闘に関しても鍛冶職人としても、冒険者としても全て半人前のハーフドワーフ。何に置いてもハーフ、それが今のこいつの本性だ」
「え? ちょっと、ノエルってデルガルドさんの……」
はっとした。……ノエル・ジュエルズ。デルガルド・ジュエルズ。……え? もしかして、ノエルってデルガルドさんの!
「ノエルは儂の孫だ。今回の騒動で、儂が出る幕はないと思っておったが、グレイドラゴンが攻めてくると聞いてでしゃばる事にした。ノエルに関しては、何もかも中途半端な愚かな孫。何に対してもそうだ。まったく情けない」
そんな事はないと思った。ノエルは、とんでもなく強い。それに私達じゃ、とても及ばない位の剛力を持ち合わせている。そりゃ、デルガルドさんなんかと比べれば可愛いものかもしれないけれど。
デルガルドさんは、自分の作った太刀『土風』と『猫の爪』を見た。ルシエル、ルキアがそれぞれを持っている。
「そうか。おそらくはそうだろうと思っておったが、やはりこのハイエルフと獣人の娘、儂の作った太刀を使いこなしておるな。なるほど、納得がいった。」
納得? もしかしたら、デルガルドさんはルシエルとルキアの事を見て、二人に何かを感じたのかもしれない。そして、自分の作った太刀を使用する者として納得したと言っているのだと思った。
デルガルドさんは、地面にめり込んだノエルを抱きかかえると、肩に乗せて言った。
「ノエルは儂に任せろ。お前達は、ガラハッド王を救出しガラードにお灸をすえてやれ。あれでも、この国の王子だ。ミューリとファムは、もはやもう戦う事しか道がないと思うておるだろう。だから……」
私とルシエルは顔を見合わせるとにこりと笑ってデルガルドさんへ言った。
「ミューリとファムに正気を取り戻して、正しい判断をしてもらう」
「そこまで思ってくれているなら、もう儂の心配もない」
「はっはっは! そう言う事。ミューリとファムは、オレ達の友達だ。友達なら時には喧嘩もする。喧嘩をしたら、次は仲直りだ。まあ、さっと行って終わらせてくらあな!!」
「……うむ。それなら、後はお前さん達に頼んだぞ」
デルガルドさんとの話を終えた所で、カルビの飲んだ薬の効果が切れたのか、カルビは空気の抜けた風船のようにフシュルルルと小さくなってもとのサイズに戻った。
その滑稽な姿を見て、全員で大笑いするとカルビは凄く怒って飛び跳ねて回った。フフフ。
キョウシロウとジボールが、声をかけてくれる。
「行って決着をつけてこい、アテナ。俺はもう、ルイ伯爵やシャルロッテ様のもとにいかねばならない。シャルロッテ様は、ずっとお前の事を案じていたぞ」
「うん、私は大丈夫。キョウシロウは、キョウシロウの務めを果たして」
「アテナ!! あれやったら、ワシもいったるけどなー!! ワシが本気なったら、凄いで!!」
「ありがとう。でも、ジボールには街の人達の救助を頼みたい。もう、リザードマンはほぼ倒したと思うけどね」
ルキアが続けた。
「ジボールさん! ドゥエルガルの皆は、もう味方です。リーダーのボーグルさんと話をしました。だから、ドゥエルガルの人達がドワーフの兵士達に拘束されないように、取り計らって頂けますか?」
「そうなんや、やるやんけ!! ほんならめんどくさいけど、やったるわ!! 任しとけや!!」
ジボールはそう言って、デルガルドさんと顔を見合わせた。この二人が取り計らってくれれば、ドゥエルガルも大丈夫だろう。
私、ルシエル、ルキア、カルビ、ゾーイの5人でグレイドラゴンに破壊された門をくぐり、再び街へ入った。
遠くの方、ドワーフ兵を引き連れて城の方へ逃げていこうとするガラード達の後ろ姿が見えた。




