第420話 『金剛斬』
一目でノエルは、怒りでたがが外れている事が解った。止めなければ彼女は、ガラードを――
「ゾーイ!! ノエルを止めて!!」
「了解」
我を忘れ、ガラードに襲い掛かろうとするノエルの足に、ゾーイの鎖鉄球が巻き付いた。
それでもノエルは止まらない。足に巻き付く鎖を乱暴に解いて、再びガラードに襲い掛かろうとした。でも、時間は稼げた。そこで私は追いつき、ノエルを掴んで一本背負いで投げ飛ばした。
「どけ、邪魔をするなアテナ!! うがあっ!」
「ごめんね、ノエル! でも今はちょっと、大人しくしていて!」
受け身の取れないノエルは、再び固い岩でできた地面に投げつけられて目を回した。ようやく自分に危機が迫っていた事に気づいたガラードが吠える。
「俺に危害を及ぼすなら、親父を殺すぞ!! いいのか!!」
「自分で何を言っているのか解っているの? 父親でしょ! そんな事ができるの!」
そう言うと、ガラードは冷や汗を流しながらも引きつった笑みを浮かべ、ガラハッド王の胸に剣を軽く突き立てた。ガラハッド王の、「うっ」という声と共に、その刺した箇所に血が滲む。ガラードは、追い詰められて正気ではなかった。
ガラハッド王は、叫んだ。
「兵達よ!! この馬鹿息子を捕らえよ!!」
しかし王の命令に反応しないドワーフ兵。戦士長ギリムもガラード派とはいえ、こんな公の場で国王陛下の命令を聞き流しているのには、流石になぜかと思った。でも、次のガラードの言葉でその理由が解った。
「ハッハッハ! 国王ともあろうものが忘れたのか!! これを見よ!」
ガラードは、帯刀していた剣を抜いてこれ見よがしに掲げた。その剣は、赤く燃えるような立派な宝剣のようだった。
「これは、宝剣フレイムント。これを持つ者こそ、このドワーフの王国の国王なのだ! つまり、この国の兵達は我が父ガラハッドの血を受け継ぎ、この剣を持つ者こそ王として認める訳だ。つまり、今俺様こそが、この国の王なのだ。ウワッハッハッハ!!」
なるほど、そう言う事か。つまり、ガラードをぶん投げて、あの宝剣を取り戻してガラハッド王を救出して、それでもって宝剣を王へ返せば全てが丸く収まるという事か。
ガラードは、宝剣フレイムントを私の方へ突き出すと、大声で兵達に命令した。そしてミューリとファムにも――
「よーし、これよりこのドワーフ王国はこの俺様が治める事にする!! まずはその手始めに、その俺様の邪魔をする父を排除するべきかと考えていたが、まだ利用価値があると判断した。ミューリ、ファム!! 直ぐにアテナ達を捕らえろ!! できなければ俺様は、とりたくない行動にでなければならなくなる。そうなればとても悲しいが、俺は父親殺しと噂される事になってしまう!! そんなこと、させないでくれ!!」
ガラード!! な、なんて奴!!
それを聞いてミューリとファムの顔つきがかわった。再び、襲って来る。
「すまんな、アテナ。俺はどうやら、ここまでのようだ。ガラードが出てきた今、ルイ伯爵の身辺警備を任されている俺がこれ以上かかわると、色々と問題になる」
「ありがとう、キョウシロウ。リザードマンももうほぼやっつけたみたいだし大丈夫。ここからは私達でやるから。ジボールも下がっていて。あなたもこの国の民として、王族と事を構えない方がいい」
「アテナ、そんなん気にすんなや!! かんけーあらへんわ!!」
「いいからさがって! 大丈夫!!」
キョウシロウに続いて、ジボールも下がらせた。でも、ジボールのその顔は納得のいかないというものだった。でも、これでいい。この国の民じゃないからこそ、できる事もある。
私の隣に、ルシエル、ルキア、カルビ、ゾーイが並んだ。私は、自分の一番頼りにしている仲間達に向かって言った。
「皆! これで、終わりにする!!」
「おう、やってやるぜ! これできっぱりさっぱりと片をつけようぜ!!」
「ミューリとファムと戦わなければならないのは、私は嫌です。でも、私は逃げないです! アテナだけではなく、ミューリとファムにも一人前の冒険者として認められたいから!」
ワウワウッ!
「クラインベルト王国鎖鉄球騎士団、ゾーイ・エルだ。アテナ王女殿下に危害を加えるというのであれば、私が排除する」
全員でガラード達に向けて武器を構える。すると、ガラードがドワーフ兵達に命じた。
「かかれ!! 最悪、アテナ以外は殺しても構わん!!」
ギリム戦士長は、頷くと数十人のドワーフ兵を率いてこちらに突進してきた。ミューリ、ファムもその中にいる。
これで、勝負を決する!!
――しかし、その時だった!!
グオオオオオオオオンン!!
力尽きたかに思われていたグレイドラゴンが、再び起き上がり地鳴りのような雄叫びをあげた。悲鳴をあげるドワーフ兵達。
そして、グレイドラゴンは残っている力を振り絞るように、口から光線を放った。光線は辺りを破壊する。ドワーフ兵達は逃げまどい、ガラードも慌てて街の中へ後退した。
グレイドラゴンは、まさに最後の力でその光線を防壁へ放ち、街を破壊し焼き払おうとした。
やはり、ドラゴン。凄まじい生命力。もう一度、今度は確実に止めを刺すしかない。
そう思った刹那、門から巨人が勢いよく飛び出して、大きな岩で光線を防ぐとそのまま距離を詰めて思い切り大きな拳でグレイドラゴンを殴りつけた。グレイドラゴンの身体がよろめく。
「おい! アテナ! あのばかでっかい、ドワーフって……」
「うん、デルガルドさん!! ルシエルやルキアにプレゼントした太刀を作ってくれた鍛冶職人のデルガルドさんだよ!!」
デルガルドさんは、私の方へ振り返る。
「アテナ。お前、こいつにとどめをさせるか? そのツインブレイドを持つ者ならば容易いはずだが」
「うん。容易くはないけどね」
私が左右の手にそれぞれ握る二振りの剣、『ツインブレイド』。それを重ね合わせ、集中し闘気を込める。
一本の強力な剣になるように念じた。すると、『ツインブレイド』は眩いばかりに輝き始め、光を放ち一振りの光り輝く大剣に変化した。ルシエルやルキアだけでなく、デルガルドさんもこれには目を丸くした。
「これで決める!! ルシエル、お願い!!」
「よっしゃ!! 任せろ!! 風よ、アテナを吹き飛ばせ! 《突風魔法》!!」
ルシエルの放った風に飛ばされてグレイドラゴンの頭の辺りまで飛ぶと、両手に持つ光り輝く大剣をひと薙ぎにした。
――――奥義!! 金剛斬!!
一瞬、大剣が更に長く伸びて、光が走った。そして、グレイドラゴンの首がドスーーンという大きな音とともに地に落ちる。
着地すると、『ツインブレイド』からは光が消えて、もとの二振りの剣に戻っていた。
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〚下記備考欄〛
〇金剛斬 種別:剣術
剣に闘気を注ぎ込み、光の大剣を生成する超大技。アテナの場合は、二刀の剣を重ね合わせて強力な大剣に変化させる。術が切れるともとに戻る。光の剣の正体は莫大な術者のエネルギーで、強力な武器を生成しているので消費エネルギーも凄い。アテナは、闘気に加えて魔力も使用して威力を底上げしている。




