第419話 『地底湖でできた友人』
戦士長ギリムが指揮するドワーフ兵がリザードマン達を一掃する。唯一生き残ってはいるものの、追い詰められたギャオスが私目掛けて向かってきた。玉砕覚悟!?
私は剣をギャオスの方を迎え撃とうとしたが、ギーが割って入りギャオスの、まるで鋸のよう形状の大剣の一撃を同じような剣で受け止めた。
そして、2匹のリザードマンは剣で斬り合い始める。
「ドケ、ウラギリモノノ、ギー!! オマエノセイデ、ザーシャテイコクハ、オワリダ! セメテ、アテナハ、オレサマガコロシテクッテヤル!!」
「オマエナドニ、アテナハクワセナイ!!」
「ギー!! 私は大丈夫だからさがって!!」
「ダメダ! コイツハ、オレガケリヲツケル!!」
「ギャハハ!! オレサマハ、ザーシャテイコクサイキョウノセンシ!! ギー、オマエハツヨイガ、ズットナンバーツーダ!! ゼッタイニ、オレサマニハカテナイ!! ダカラ、ドケ!! オレサマハ、ドウセシヌナラ、アテナヲクッテシヌ!!」
「ソレハ、ゼッタイニサセナイ!!」
2匹は何度もぶつかり、ついにギャオスの跳ね上げるような一撃でギーの剣は宙に飛ばされ吊り橋の下に落ちた。
「ギャハハ! ブキハ、ナクナッタ! オワリダ、 ギー!!」
ギャオスがギーに、斬りかかった。すると、ギーは物凄い体当たりでギャオスにぶつかり吊り橋の端にまで追いやる。振りほどこうと、ギャオスがギーの身体に剣を突き立てる。血飛沫。ギーは、痛みに顔を歪めるも全く手を緩めない。
「ギー!! ちょっと、待って!! 私がギャオスの相手をするから、一旦さがって!!」
「ダメダ、ギャオスハ、コノママツレテイク!! コイツハアテナニ、チカヅカセナイ!! コイツハ、キケンダ。キッチリトカタヲツケテ、アテナヲマモッテヤル!!」
ギーのその言葉で私ははっきりとこの先の展開が予測できた。
ガラードやギリム、ミューリ達でさえ、戦いを一旦中断し、このギーとギャオスの成り行きを黙ってみている。
冷酷残忍で、人間を食糧か害虫程度にしか思っていないようなリザードマンが、私の身を案じている光景に誰もが目を疑っていたのだ。
私はこの後の展開をリアルに予測し、ギーに向かって全力で駆けた。ギーは、私を守る為にギャオスと共に死ぬ気だ。それは、させたくない!! だって、折角助けたのに……しかも、ギーとは解り会える……解り会える友人にきっとなれそうだと思っているのに。
地底湖キャンプの時、サヒュアッグの巣で彼に感じたものはきっとそれだとはっきりと今、確信した。だから、彼を助けたのだ。なのに……
駄目……間に合わない。
「ギー!! 今行くから、馬鹿な真似は止めて!!」
「ドケ!! ドクノダ、ギー!! アテナヲクワセロ!!」
「サ……サラバ……アテナ。オマエノヨウナ、メストシリアエテ、ウレシカッタ。マタ、アオウ」
「ヤメロ! ギー!!」
「やめて!! 待ってよ、ギーーー!!」
ギーは、ギャオスに深々と剣を突き立てながらも組み合って一緒に吊り橋から谷底に落ちて行った。私は思いきり走って跳んだ。彼の手を掴もうと……だけど、それは叶わなかった。
目から涙が溢れる。
ギーとは、最初会った時に何か感じるものが確かにあったのだ。そう、きっと良い友人になれたはずなのに――なのに、救えなかった。
ごめんなさい、ギー。助ける事ができなくて、ごめんなさい、ギー、私を許して……
ギー!!
「うわあああああ!!」
大声で吠えた。その光景に、ガラード達やミューリやファムだけでなく、ルシエルやルキアまでもが驚いていた。
私は涙を拭うと、ガラードの方を向いて叫んだ。
「もういい! こんな事になるんだったら、もう終わりにする!! ガラード、あなたを拘束する。そしてガラハッド王の手にこの国を戻し、本来のドワーフ王国に戻す。帝国や公国、魔物がこの国に攻めてきても関係ない。それについては、クラインベルト王国が全面的にこの国の防衛に協力する! それで、この件はおしまいよ!!」
こんな剣幕になったのは、ルキアの時以来だった。ルキアと出会った時、彼女は奴隷として売り払われる為に馬車に乗せられていた。酷い馬車の中の環境。
私はそれを見つけて、奴隷売買しようとしていた賊達をその場で斬り捨てた。それで、ルキアやミラール。クウにルン、それにロンを助ける事ができた。でも、私が見つけるのが遅くてレーニとモロという子達は既に死んでしまっていた。
こんな気持ちになるのは、あの時依頼。そう、ギーを失ってしまった事で、心が壊れそうに痛い……
「ア…アテナ……」
心配そうに後ろから私の服を引っ張るジボール。しかし、私の視線はかわらなかった。ガラードとその父、ガラハッドに向いている。
「今、ここで!! 今、ここで私の友達が私を助けようとして吊り橋から落ちた。この高さだから、きっと助からない。もう、ここらで止めにしよう。これ以上続けるというのなら、本当に怒るよ」
それを聞いたガラードが笑った。私は、その行為に一瞬殺意を覚えたがその気持ちを押し殺した。
「クラインベルトの王女が、まさかリザードマンと内通していたとはな! 友達か、おもしれえ! こういうこったよ。クラインベルトはリザードマンと組んでこの国を奪い取ろうって腹だった訳だ! これでわかったろ、親父!」
「解らなければならんのは、お前だ馬鹿息子!! 先程のアテナを救ったリザードマンの事は既に、ミューリとファムから報告を受けている。地底湖で出会ったとな。それよりも、リザードマンのザーシャが攻め込んできているこの事態に、こんな面倒な事態に陥れたお前の罪の方を、余は国王としてもお前の父としても、裁かねばならん!」
「ほう、そうか! じゃあ裁いてみろよ! 今すぐにヤってみるがいい!!」
「まったく、この馬鹿息子は!! すっかりとあの帝国のヴァルターという男や公国に騙されよって! 奴らこそが、わが国の真の敵だという事をまだ理解できんか!!」
「ふん、ほざいてろ!! 馬鹿親父!!」
ガラードはそう言って実の父を殴りつけた。
それを見たミューリとファムが、ガラードを睨みつける。意識を取り戻したノエルが同じ様にガラードの行動に激昂すると、戦斧を片手にガラード目掛けて走り出した。




