第418話 『最強コンビVS最強コンビ その2』
ノエルは思いきり跳躍すると、手にしっかりと握る大きな戦斧を私達目掛けて振り下ろしてきた。
私はその攻撃を避けて反撃しようとしたけれど、ルシエルは構わずにぐっと前に出る。嘘、ノエルの怪力を正面から受け止める気!?
そう思った刹那、ルシエルが私の方を見て微笑んだ。それで、解った。
私も『ツインブレイド』を掲げてルシエルの掲げる太刀『土風』と一緒に、計三本の剣でノエルの戦斧を同時に受け止めた。
――ギィィイイン!!
それでも、物凄い衝撃。身体がズズズと、後ろへさがる。こんな子のパンチを顔面にもらったルシエルの事を思い出すと、背筋がぞっとした。
「ちくしょー!! あたしの渾身の一撃を二人がかりで受け止めやがった!!」
「ノエル!! 距離をとって!!」
ミューリの叫び声! でも、ルシエルは兎も角私はそんなにあまくない。ここぞとばかりに、ルシエルと一緒に、ノエルに剣を連続で打ち込む。慌てるノエル。
ルシエルが素早くノエルの腕に峰打ちで太刀を連続で打ち込むと、彼女はたまらないといった表情で戦斧を地面に落とした。その隙をついて私は流れる様な動きで彼女の懐に入る。更に、一回転して遠心力をつけると共に鳩尾に剣の柄を押し込んだ。
この相手の突進力を利用して、大ダメージを与えるカウンター技は、私の姉モニカの得意技、方円撃!!
「うがっ!!」
これにはたまらず声をあげるノエル。でも、まだまだ――そのまま『ツインブレイド』を地に突き刺すとノエルの腕と襟を掴んで背負い投げた。
「せいやっ!!」
「ノエルーー!!」
ノエルを地に投げ落とすと、今度はミューリとファムが同時に襲い掛かってきた。私とルシエルは、ミューリとファムの二人と剣で打ち合い、攻撃魔法を放ち合った。お互いにまったく譲らない。
ミューリが爆炎放射からの火球魔法を放つ。避けた所に、ファムの風属性魔法――風の刃が飛んでくる。それも避けた所でファムがニヤリと笑った。
しまった、もしかして誘い込まれた。
「ごめんね。アテナ、ルシエル。二人ともとんでもなく強い冒険者と理解しているから、尚更手は抜けない。この位しないと、倒せないと知っているからファムは遠慮もしない」
ミューリが叫んだ。
「やって、ファム!!」
「うん、任せて!! これで終わり!! 風よ、我らの前に立ち塞がる者達を吹き飛ばせ!! ≪風撃大噴火!!」
出た!! ファムの奥の手!! 風属性の上級魔法風撃大噴火。
この魔法は、範囲魔法で特定した範囲に魔法陣を展開させ、その場所の地面から空へ向かって強烈な突風を発生させる。その場にいるものは、突風で一気に空へ飛ばされるので浮遊や飛行ができないものがそれを受けると、落下時の衝撃で死ぬ場合もある。
でもここ、ノクタームエルドのような大洞窟では、空が無く天井があるので、今みたいにこの場所でこの魔法を展開されると、同じように強烈な突風で宙へ吹き飛ばされる。そして、その固い岩で覆われている天井に思いきり身体を叩きつけられる事になる。運が悪いと潰れたトマトのようになるかもしれない。
私とルシエルの足元に、緑色の魔法陣が展開する。風属性魔法。駄目、逃げるチャンスを失った。
ルシエルの方を振り返ると、ルシエルはキョロキョロとしながら顔を真っ青にしていた。こうなったら、しょうがない。
「ルシエル!! 逃げて!!」
「え? アテナ!!」
私は素早くルシエルの方へ突進し、彼女の胸倉を両手で掴むと後ろへ倒れ込むようにして彼女のお腹を蹴り上げた。――巴投げ。
「え、ちょっと? あーーれーーー」
ルシエルは、。綺麗な放物線を描いてファムの展開した魔法陣の外へ飛んで行った。
「うまくルシエルだけ逃がしたようだけど、こちらとしてはアテナを先に倒したかったから問題ない!! だから、これでいい!! はあああ!!」
ファムは手を頭上に勢いよく掲げる。それと同時に足元に展開される緑色の魔法陣から突風が巻き起こり、私は勢いよく上空へ打ち上げられた。
その勢いは、凄まじくまったく止まらない。そう、このままでは固い岩でできた天井に叩きつけられる。……でも、私ならばこの風魔法を破る事ができる。
私がニヤリと笑うと、風の上級魔法風撃大噴火を放ち続けるファムは不安な顔を見せた。そう、その感覚は正しい。
私は、天井に叩きつけられる寸での所で、身を返す。まるで、天地逆になったかのように逆さまになった。
そして天井に激突する瞬間に、地面に飛び降りたかのように着地。同時にそのまま前転し、受け身をとって叩きつけられる衝撃を殺した。
そして思いきり天井を蹴ると、今度はファムの方へ飛んでいき、信じられないという顔であっけにとられている彼女に上空から蹴りを入れた。派手に吹き飛ぶファム。戻ってきたルシエルが叫んだ。
「うおーー!! いけ! そのままいけ、アテナ!! いいぞ、いいぞ、ハッハーー!!」
しかし追い打ちをかける間もなく、倒れ込んだファムの前にミューリが立ち塞がり火属性魔法を放ってきた。
火球を避けると今度は、火炎放射。私は、自分の羽織っているマントに身を包むと、そのまま突進しミューリに突っ込んで行って彼女を押し倒した。
そしてそのまま寝技にもっていくと、袈裟固めでミューリを完全に動けなくした。
「う……ぐ……アテナちゃんが尋常じゃないって事は知っていたけど、まさか火炎も効かないだなんて」
「エッヘッヘ。私のこのマントは、特別性で耐火性なんだ。だから、この位の火じゃなんともなーい。悪いけど、私の袈裟固めはここから顔面にパンチも入れられる。これで、勝負はついたよ」
「う……うん……悔しいけど……」
ミューリは、私に袈裟固めを極められながらも向こうで倒れているファムに目をやった。そして、悲しそうにそう呟くように言ったのを聞いて、私は技を解こうとした。
だがそこで、街の方から何十人ものドワーフ兵がこちらの方に向かってきた。
そのドワーフ兵達の先頭には、ガラードとその父親のガラハッド王がおり、なんとガラードは実の父の首に剣を突き付けて登場した。
私は溜息を吐くと、抑え込んでいたミューリを解放した。
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〚下記備考欄〛
〇風撃大噴火 種別:黒魔法
上位の、風属性魔法。広範囲の場所に狙いをつけて風の魔法陣を展開し、その範囲内にいるものを強烈な突風で上空へ吹き飛ばす。
〇方円撃 種別:棒術
テトラの得意とする棒術。相手の大きな振りに合わせて懐に回転しながらも懐に入り放つカウンター技。遠心力も加え、脇腹(脾臓や肝臓)や鳩尾などの急所を狙う為、威力も凄まじい。




