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第415話 『ルキアの夢物語』





 ギブンさんは、持っていた手斧をカルビに向かって投げてきた。しかし巨大化したカルビは、それを苦もなく軽く前足で弾く。



「う、嘘じゃろ……こんなのアリかの……」


「カルビ!! お願い!!」


 ガウウウン!!



 カルビはそのまま、ギブンさんを押し潰すように前足を振りおろした。ギブンさんは、慌てて持っていたもう一本の手斧を投げ捨てると再びウォーハンマーに持ち替える。それで、真正面からカルビの前足を受け止めた。



 ガルウウウウウウ!!


「ぬおおおおおおお!! な、なんちゅうパワーじゃあああ!! こ、こんなのありかああ!!」



 ギブンさん達の依頼者……確かメロディ・アルジェントって言っていたけど、その彼女にもらった薬を飲んでギブンさんは大幅にパワーアップしているけど、同じ薬を飲んだカルビも同じ。同じと言うか、巨大化までしちゃってそれ以上になってしまっている。



「やっちゃえ、カルビ!! ギブンさんを倒して!!」


 ガウ!


「ぬぐああああああ!! いかん、このままでは腰がああ!! しかも、もうここからでは抜け出せんわい!! くそ、ここまでか!! む、無念!!」


 ズシーーーーーン!!



 カルビは両前足で、体重も加えてギブンさんを押し潰した。


 カルビに足をどけさせると、ギブンさんは地面にめり込んでいて気を失っているようだった。


 これで、先へ進める。


 私は巨大化しているカルビに抱き着いて、その可愛いお鼻に口付けをした。



「ありがとう、カルビ」


 ガウ!


 

 得意気な様子のカルビ。


 そして、直ぐにゴーディ、テディ、ブラワーのもとにかけより皆の傷の具合を見た。結構やられてしまっているけど、これなら治療して休めば直ぐによくなる。唯一意識のしっかりしているゴーディが言った。



「勝ったか?」


「うん、勝ったよ。カルビがなんだか、大きくなっちゃってそれで勝てたよ」



 満身創痍の自分を元気づけようとして、冗談を言ってくれているのだろう。ゴーディはそう思ったようで、フッと笑った。でも、次の瞬間カルビに視線を移すと悲鳴をあげて驚いた。



「ぬああああ!! な、なんだこりゃ!! ケルべロスか、フェンリルか、ガルムかああ!!」


「あはははは、違うよ。カルビだよ。あの、ギブンさんが飲んだ薬、あれを飲んだ瞬間に私が彼に付けた傷が消えたの。だから、半分残っていたあの薬を奪って、カルビに飲ませたの。そうしたら、あんなに大きくなっちゃって」



 それを聞くと、ゴーディは傷の痛みで顔を歪めながらも大笑いした。



「アハハハ! そりゃ傑作だ! よし、あとは大丈夫だ。テディもブラワーもこの位じゃくたばらない。ルキアは、やらなくちゃならない事がまだあるだろ。いけ!」


「ありがとう、ゴーディ! じゃあ、私行くね」


「おう! 行ってこい!」



 やはり、痛みに顔を歪めるゴーディ。でも、彼の顔は、私が初めてあった時のすさんだものでは無かった。私の事を信頼してくれている顔。そして、つきものが落ちたように晴れ晴れしい顔。


 私はギブンさんに放り上げられた太刀『猫の爪(ねこのつめ)』を回収すると、再び巨大化したカルビに跨りルシエルのいる吊り橋の方へと向かった。


 ギブンさんの話では、グレイドラゴンはもうファムが倒したと言っていた。そんな誰しもが恐れるドラゴンをファム一人で倒したという事なのだろうか? 本当に?


 だとしたら、とんでもない事だけど、あれだけの風属性魔法を使いこなせるファムであれば、それも考えられる事だと思った。


 ドワーフの王国。街中を巨大なウルフに猫の獣人が跨って駆け抜ける。その光景を誰しもが目にして、びっくりしていた。それがまた滑稽で、こんな緊急事態なのにとてもおかしく思えた。


 すれ違うドワーフ達には武器を向けられたが、味方だと言って手を振ると安心して手を振り替えしてくれた。


 行く手を阻んでくるリザードマンは、カルビが薙ぎ倒し咥えては放り上げてあしらうように倒してのけた。私はもう声をあげて笑っていた。


 カルミア村にいた頃は、まさか私がこんな大きなウルフに跨り太刀を握って、一つの王国を救うためにその街を駆けるなんて思ってもいなかった。


 まさに夢物語――


 吊り橋に到着すると、ルシエルが何者かと壮絶な死闘を繰り広げていた。相手は、3人。ギブンさんの言っていた事は本当だった。グレイドラゴンは、既にその場に倒れていてルシエルは、ミューリ、ファム、ノエルさんの3人を相手にしている。


 何はともあれ、兎に角ルシエルの助けに入らないと!!



「カルビ!! ルシエルがピンチだよ!! 一緒に助けに入ろう!!」


 ガルウウッ!!



 カルビもルシエルが大好き。吊り橋へ繋がる大きな門は、リザードマン達によってかもしくは、グレイドラゴンによって破壊されていた。


 そこを潜り抜けた所でルシエルが戦っている。私はできる限りの声を張りあげた。



「ルシエルーー!! 助けに来ました!!」


「おう、ルキア!! 助けにきてくれたか……ってうわああああ!! な、なんじゃそりゃああ!!」



 驚き仰天するルシエル。ルシエルと戦っていたミューリやファム、それにノエルさんも戦いを中断してまで同じように驚いてみせた。ミューリが声をあげる。



「ななななな、なにその巨大ウルフ!! ま、まさかカルビ?」


「うん。そうだよ。ギブンさんの持っていた薬をあげたら、こんなに大きくなっちゃった」



 それを聞いてぽかんと口をあける4人。ファムが言った。



「……メロディ・アルジェントの薬か……っという事はギブンは、もう……」



 私はにこりと笑って答えた。



「ギブンさんは、私の3人のドゥエルガルの友達と、カルビが倒しました。このまま、私達友達同士で戦っても仕方がないですよ。この辺で止めませんか」



 私のその言葉にミューリとファムは、フッと笑みを浮かべると我に返ったかのように攻撃魔法を詠唱し始めた。


 やはり、どちらかが倒れるまでこの戦いは終わらないのだと思った。

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