第411話 『ルキアのしてきたこと』 (▼ルキアpart)
私は、ドゥエルガルの皆を説得してこの争いを終らせる為に、カルビと一緒にゴーディやテディの後を追っていた。
そこら中でドワーフやリザードマン、そしてドゥエルガルが剣や斧で打ち合い戦闘を繰り広げている。
見つからないように気配を消して、戦場と化したドワーフ達の住んでいるこの街中を駆け、ゴーディ達が向かったはずだと思う方へ向かう。大通りの方へ抜けると、その辺りにいたリザードマン達に見つかってしまった。
「ミツカケタ! ジュウジン……ボウケンシャカ!!」
「リザードマン!!」
アテナから、地底湖でキャンプした時に喋るリザードマンがいたと話を聞いていたけど、実際に言葉を喋る事のできるリザードマンを目撃して驚いた。
数は、20匹程。これは逃げ切るのは無理だと腹を決め、太刀『猫の爪』を抜いて構える。こうなったら戦って倒して突破するしかない。私は、もう一度あのゴーディ達と金鉱で戦ったゾンビやスペクターとの戦闘を思い出して、戦闘態勢をとる。
「ミナゴロシダ! コロセーーー!!」
リザードマン達が一斉に襲い掛かって来た。私は、太刀を口に咥えて四つん這いになり、素早く駆けてその攻撃をかわす。アテナからもらった、この羽のように軽く頑丈な太刀『猫の爪』。この太刀だからこそ、口に咥えて駆けるような事もできる。
「ギャギャーー!!」
「やああああ!!」
――ぶつかる!
槍で突いてきた所をさっと避けて猫のように跳躍し、咥えていた太刀を手に持ち替えて振った。それで2匹を倒す。しかし、一斉に襲い掛かってくるリザードマンの攻撃は厳しく、全てを完全に避けきる事は至難。致命傷は避けてはいるものの、肩と太ももに槍や剣がかすめる。ピリっとした感覚と、その後に襲い掛かってくる痛み。だけど、今は泣き言なんて言ってられない。
カルビがリザードマンに噛みついた。隙を見逃さず、太刀を払う。3匹目を倒した。
「はあ……はあ……はあ……」
「ギャギャーー!!」
間を置かずに、一斉に襲い掛かってくるリザードマンの攻撃は私を一切休ませない。息が乱れる。このままじゃ……
1匹のリザードマンが放った槍が、私の腕を少しえぐった。血。私はあまりの痛みに、悲鳴をあげた。それを聞いたリザードマン達は、一斉に私目掛けて飛び掛かって来た。カルビが助けてくれようとリザードマンの足に噛みついたが、この数相手では……もう、駄目――――
「ルキアーーー!!」
刹那、リザードマン達の数を上回る人数のドゥエルガルが、何処からか駆けてきて私とカルビに襲い掛かっていたリザードマン達目掛けて突撃した。そして、あっと言う間に全てを倒した。
見ると、その私を助けてくれたドゥエルガル達はゴーディとテディだった。もちろん、ブラワーやブラワーのお兄さんであり、ドゥエルガルのリーダーでもあるボーグルさんもいる。
「ルキア!! 大丈夫か!! こんなに怪我をして!!」
ゴーディとテディ、それにブラワーが心配そうに私のもとへ走ってくると傷を見てそう言った。ブラワーは、怒っている。
「くそがーー!! リザードマンめ!! ルキアにこんな事をしやがって、絶対許さねえ、根絶やしにしてやる!!」
最初はあんなに私の事を嫌っていて、喧嘩までしたブラワーがこんな事を言ってくれるだなんて……気持ちが暖かくなった。
私は3人にお礼を言うと、すぐにボーグルさんに事態の説明と戦いを止めて欲しいという事を言った。
「お願い、ボーグルさん! もうやめて! もういいでしょ。この国の王様は、ボーグルさん達ドゥエルガルの皆との戦いを望んでない。ボーグルさんなら、この戦いを止められるでしょ」
「まあそやけどなー! うーーん! ネコマンマが思ってるより結構この件は、根深いねんで」
「解っています。だけど、この街中を見てください! もう、沢山の人が傷ついて苦しんでいます。昔、ドワーフとドゥエルガルの間であった事を忘れる事はできないかもしれませんが、今のドワーフ王は本当に平和を望んでいます。ドゥエルガルとの共存を望んでいます」
「うーーん、そやかてなー。もう、攻め込んでしもうてるねんしなー」
「お願いです。それなら、私がきっとなんとかします。私に仲間がいるって話したと思いますが、私の仲間は絶対なんとかしてくれますし、私もなんとかしてみせます。だから、もう争いなんてやめて力を貸してください。それに、あんなに金を見つけたじゃないですか。あれだけあれば、きっとこれからのドゥエルガルの未来も明るくなるはずです」
私が必死に懇願すると、ボーグルさんは更に困った顔をした。兵を率いて攻め込むという事は、簡単な事じゃない。いきなり現れた私に争いを止めろと言われたからといって、簡単には返答できないのだろうと思った。
だけど、絶対に戦争なんて止めなくちゃいけない。ルシエルだって今、グレイドラゴンと命をかけて戦っているだろうし、アテナもきっと……
私だって、アテナのパーティーの一員なんだから、これ位で諦めない!
すると、ゴーディとテディが私の後ろに移動し、私と話しているボーグルさんと向き合う形になった。
「俺とテディは、ルキアの見方だ。ボーグルは確かに俺達ドゥエルガルの尊敬するリーダーだけど、この場はルキアが正しいと思う」
「ゴーディ……」
続けてテディが言った。
「俺もゴーディと一緒だ。ドワーフ共には、随分迫害され続けてきた。だけど、ダグベッドやアビーのように捻じれたくない。ルキアみたいな子もいるんだ。ドワーフの王国にだって、ルキアみたいに俺達を嫌わない者もいると思う。俺は憎しみ会うよりも、平和な方がいい。それに俺とゴーディはルキアの友達だ。ルキアが困っていれば、ルキアに味方するんだって決めたんだ」
「テディ……」
心がどうにも熱くなった。ゴーディとテディとの出会いを思い出すと、余計に嬉しくなる。
二人の言葉に心を打たれたのか、ブラワーもボーグルさんに言った。
「俺もこの二人と一緒だ、兄貴」
「ブラワー、お前は黙っとれや!」
「いや、言わせてもらう。殴るなら殴れよ。だけど、俺はルキアの仲間だ。俺は最初、ルキアが興味本位で俺達に近づいてきた、もの好きの冒険者だと思った。だから、2度とそんな風に思わないように思い知らせてやろうと思った。だけど、ルキアの方はずっと俺達の生活の事など心配してくれていて……俺は自分が恥ずかしいよ、兄貴」
「ブラワー、お前……」
「金を手にする事ができたのだって、ルキアのお蔭だろ。ゾンビをなんとかできたとしてもあの実体のないスペクターは、俺達には倒せなかった。あれを倒せたのは、ルキアのお蔭だろが!! ルキアは、俺達ドゥエルガルに幸福をもたらしてくれた!! 今度は俺達が借りを返すばんだろ? それとも何か? ドゥエルガルってのは、戦闘能力だけの蛮族なのか? 誇り高い戦闘民族ドゥエルガルじゃねえのかよ!!」
ボーグルさんは、ブラワーを殴った。
「いたっ!! くそっ!! でも、俺は暴力には屈しねえ、ボコボコにされたって俺はルキアに従う!!」
「ブラワー……ありがとう。本当に皆、ありがとう。私……」
言おうとした。この国に来て知り合って友達になった3人。出会い方はどれも最悪だったけど、こんなにまで信頼し合える友達ができるなんて。何か言おうとしたけど、ボーグルさんが遮って言った。
「解った解った!! よう、解った!! 俺らドゥエルガルはルキアに従う事にするわ!! 戦争もやめる」
「ほ、本当ですか!」
「あ、兄貴――!!」
ボカッ
「いてーーーー!!」
ボーグルは、自分に抱き着いてきたブラワーを殴りつけた。
「きしょいっちゅーねん!! そういや、金やらなんやらネコマンマには、世話になりっぱなしやしな。俺らは誇り高い偉大なる一族、ドゥエルガルや。借りは、きっちり返さんとな。それに戦争したいのは、俺達若もんやのーてダグベッドやアビーっちゅーおっさんどもやからな」
「ありがとうございます、ボーグルさん」
灰色ドワーフと言われるドゥエルガルも、ドワーフ同様に髭を蓄えていて皆おじさんには見えた。ゴーディ達にはまだ髭はないが、ボーグルさんにはある。
だけど、そう思った事は心にしまっておいた。




