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第41話 『噂の特産品 その2』 (▼ルキアpart)






 ――――息切れがする。しんどい。


 へたり込む私に、ルシエルが声をかけて励ましてくれた。



「早くこいーー。頑張れーーーー」


「はあ、はあ、はあ。待ってください…………エ……エルフって、獣人よりも体力があるのかな……

 さっきまで、疲れたって言っていたような気がするけど……はあ……はあ……」



 改めて、普段ルシエルやアテナが、私に合わせて歩いてくれているのだなという事を痛感した。



「そ……そんなに上流に行く必要は、ないんじゃないでしょうか?」


「そうだな。じゃあ、この辺でぼちぼち釣りを始めるか」


「はあーーーー」



 やっと、休める。そう思った瞬間、その場に腰から崩れ落ちた。…………もう、限界です。



「おいおい。頑張れルキア。本来、人間やエルフより獣人の方が運動能力高いんだから。それに、若いんだし――――114歳に負けてちゃダメだぞ! はっはっはっは」


「はあ、はあ……ルシエルが異常なんですよ。確かに私は、獣人と言ってもまだ子供で体力も低いですが……それでもルシエルの移動速度は、凄まじいです。森の中だし足場も悪いのに…………」



 ルシエルは、笑った。そして、もうアテナから受け取った長い枝に糸を括りつけ釣りの仕掛けを作り始めている。



「あっはっはっ。まあ、オレはアテナに誘われて冒険者になる前は一人で旅をして、狩りをして食い繋いでいたからな。道なき道を進んだ事だってあるし、一応エルフだから森での行動は、得意分野だ」


「ルシエルは、凄いですね。私は、産まれた村から、遠くへ行った事はありません。恐ろしい人たちに、拘束されて馬車で連れて行かれたのが初めてです。村を遠く離れたのは、アテナと…………」



 ………………



 ――――――記憶の奥底に、いつも押しこんでいるのに、思い出す。


 お父さんもお母さんも殺された。私の見ている前で殺された。友達も私と同じように、首輪や鎖を付けられ連れていかれた。従わない者や反抗する者は容赦なく殺された。一緒に馬車で連れて行かれた友達…………レーニとモロは、その馬車の中で死んでしまった。食べ物も、水もろくに与えられず…………


 それが、私の初めて村から遠くへ出た記憶。世界がこんな世界なら、私は一生村で今まで通り暮らしていきたいと願った。でも、もうどうにもならない。お父さんもお母さんも…………そしてリアも…………友達ももういない。


 気が付くと、思い出して俯いていた。そして、目から涙がこぼれ落ちていた。



「うっ……ぐっ……」



 その時、後ろから柔らかく暖かい何かが私を包み込んだ。



「オレもアテナから、だいたいは聞いている。オレは、口が上手くないからアレなんだが、一つ言っとくぞ。会ってまだそれほどでもないが、アテナもオレもすでにルキアの事を、妹のように思っているぞ」



 優しく抱きしめてくれたルシエルのその暖かい身体と言葉に気持ちが穏やかになる…………



「うっ……ルシエル……ホントに?」


「ホントだ! それに、オレだって叫びたい時もあるし、そういう時は森で叫んだりすることもある。ホントだぞ? でも、言っておくがそれはアテナには内緒だぞ? カルビにも」



 ルシエルの言葉に口元が少し、緩む。心も…………



「だから、ルキアも泣きたい時は泣いていいんだよ。誰だってそんな時は、あるし…………誰だってそうする」



 気持ちが溢れた。



「うわああああああああん!!!!」



 ルシエルに抱きしめられて、泣き崩れた。


 そう言えば、村であんな事があってから、もう心が何も感じなくなっているような気がしていた。絶望に絶望を重ねて何もかもを諦めていた。馬車で何処かへ運ばれている時も…………一緒にいたレーニとモロが死んでしまった時は、悲しさも少しあったけど、それより羨ましかった。私も、レーニやモロみたいに、こんな絶望の世界にさよならを言って、お父さんやお母さん、リアや皆のいる世界へ行きたいと思っていた。


 でも……でも、今は……アテナやルシエル、ハルやバーンさん、それにカルビ……皆と出会ってからは、今は生きたいと思っている。そう…………皆の分も生きたい!!


 ルシエルは、優しく頭を撫でてくれた。



「さあ、今日は忙しいぞ! これから、アテナやカルビがびっくりする位の魚を、釣り上げなければならないからな。まあ、オレは釣りのプロだからその気になれば、バンバン釣り上げてみせるがな。はっはっはっは」


「……うん」



 涙を拭いた。なんだか、ここのところグルグルと変な気持ちになっていたものが、晴れた空のようになった。


 ――――もう大丈夫。


 アテナから受け取った枝…………というか、釣り竿を手に取り魚を釣り上げる為の仕掛けを作る作業に入った。



「私、釣りをするのは初めてなので……ルシエル、教えてください」


「ああ! じゃあまず、竿に糸を結ぶだろ? そして、持って来た釣り道具から針を取り出す。ウキとオモリは、無いのでその辺で見つけた小さな木の枝をウキにし、手頃なサイズの石をオモリに利用する。じゃあ、言った通り仕掛けを作ってみて」



 ルシエルは、釣りの仕掛けの作り方を丁寧に教えてくれた。



「で……できました。これで、お魚…………釣れますか?」



 ルシエルは、にっこり笑った。



「釣れるかどうかは、すぐわかるぞ! じゃあ、早速ここだというポイントを見つけて釣って見ろ!」


「はい!」


「川は、苔などある所は滑りやすいから気を付けるんだぞ。…………さてと、オレも釣り始めるか」



 人生初の魚釣り。………………ドキドキする。


 早速、小川を見渡してポイントを探すと、いくつか水の色が違って見える所があった。きっと、色の違う所は川の深さが違うのだろう。そう言った所に、魚が潜んでいそうな気がする。


 そこへ移動し、キャスティングしようとした。っが、そう思った刹那、ある事に気づいた。



「餌は?  針だけでお魚は、釣れないんじゃ……」


「ルキア!  肝心の餌を忘れていた。はははは。はい、手を出してーー」



 手を出す。すると、ルシエルは、私のその手に巾着位の小さな麻袋をのせた。



「これが餌?」


「そうだ」


「へえ……餌って木の実とか、ですか?」



 ルシエルは、満面の笑みをした。



「自分で確認してみてー。あと、餌を付ける時は魚に針が見えないように付けなきゃいけないんだぞ。フィッシングマスターがそうしてた。じゃあ、頑張って! オレは、向こうで釣ってるから、なんかあったら呼んで」


「え? でも……」



 ルシエルは、釣り竿を片手に行ってしまった。


 受け取った麻袋を見つめる。すると、麻袋の表面がウニョウニョ動いている事に気づいた。



「ひいいいやああああ!!!!」



 身体に電気が走った感じになった。危うく、餌の入った麻袋を放り投げかけたが、ギリギリ踏みとどまる。


 袋の中で、何かが動く…………手の平に感じるその感触にまた身体が震える。



「うううう……もうこうなると、餌は木の実とか、パンの欠片でしたって事はないよね。怖いけど、確認しなきゃお魚釣りができないよ」



 凄く怖い。怖いけど、勇気を振り絞って、なんとか袋の中を確認した。すると、中には沢山のミミズが入っていた。


 ブルブルっという身体の震えとともに、叫ぶ私。それとほぼ同時に、少し離れた箇所からルシエルの大笑いする声が聞こえてきた。


 なので、顔を真っ赤にしてルシエルに聴こえるような大声で、叫んだ。



「っもう!! ルシエルったらあっ!!」




 こうして、私の生まれて初めての川釣りが始まった。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ルキア 種別:獣人

Fランク冒険者。猫の獣人。まだ僅か9歳だが、いつも一生懸命でとても賢く気遣いのできる優しい少女。エスカルテの街のギルマス、バーンからもらった大きなナイフを武器にする。アテナ、ルシエル、カルビと共にニガッタ村近くのトロフの森でキャンプをする。早速食糧調達の為、ルシエルと川釣りに出かける。生まれて初めての川釣りに、ドキドキしている。アテナと出会う前に、エルフの里からアテナの出会ったギゼーフォの森まで自分で狩りをして、それを食べるという事をしていたので足腰が強靭。しかも、素早く獣人のルキアもその後を追うのに息があがる。


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。パーティーに新たな仲間も加わり意気揚々とルキアと共に川釣りに向かう。以前、釣りマスターのコボルトに出会い、釣りのコツを教わったので今度は自分がルキアに色々と教えてやろうと思っている。そして、ローザを震え上がらせた時のように、またルキアにも釣り餌を手渡し、その反応を楽しみにしている。


〇レーニとモロ 種別:獣人

ルキア、ミラール、ロン、クウ、ルンと共に盗賊達に攫われ奴隷として売られようとしていたルキアの友達。同じ村の子供でよく遊んだりもしていたが、攫われ連れ去られる道中にその最悪な環境と盗賊達の暴力で命を落とした。エスカルテの街のギルマス、バーンが手厚く埋葬した。


〇釣り餌 種別:アイテム

魚を釣る為の餌。ミミズと前回同様にブドウ虫という蛾の幼虫が袋に入っている。生き餌なので、常に餌の入った袋がウニョウニョと動いており、虫が苦手な者がそれを見ればそれだけで、ゾワワってする。ゾワワって!


〇オモリ

釣りの仕掛け。魚を釣る為の糸についている針が流れで水面に浮いたりしないよう安定させるために付ける。素材は鉛を使用していて、それを扱っている道具屋などがハンドメイドで作って販売していたりする。因みにルキアやルシエルが使用しているオモリは、エスカルテの街の商人、ミャオが作ったもの。ミャオがニャンニャン独り言を呟きながらも作成した品。


〇キャスティング

川などで魚を狙って、釣り竿を使って仕掛けを投げる事。


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