第409話 『VSグレイドラゴン』
岩のようなゴツゴツとした硬い肌を持つ、巨大なドラゴンの背。その上でオレはそいつと見合っていた。
「ワレハ、ザーシャテイコクノ、テイオウ……ザーシャダ!!」
リザードマンの親玉はそんな事を言った。だが、オレにはどうだっていい事だ。真っ直ぐに親玉目指して、グレイドラゴンの背を走り、そのリザードマンの親玉との距離を詰めていく。
「帝王だか皇帝だか知らないけどな、そんなのはなんでもいいよ!! お前がリザードマンの親玉だな!! それが今、一番重要だ。オレが今そっち行ってとっちめてやる!!」
「オロカナ、エルフダ!! シネ!! 《氷矢》!!」
リザードマンの親玉が、こちらに手を翳す。すると、その掌からはつららのような氷の矢が放たれこちらに向かって飛んできた。
オレは太刀『土風』を鞘に納めると弓矢を取り出し、それで飛んできた氷を払い落とすと、お返しとばかりに矢を放った。親玉を狙った矢は魔法で凍らされ落ちる。
「いくらお前がリザードマンの軍団やドラゴンを従えていようが、戦闘力勝負ならダグベッドやアビーよりも下だな!」
「ダレダ、ソレハ!!」
「ドゥエルガルのゴロツキだよ。おめーは、ゴロツキよりも弱いってんだ!! 喰らえ、ダブルスナイプ!!」
弓に矢を二本添えて、同時に放つ弓術。矢は勢いよく飛んでいき、今度は凍らされる事なくリザードマンの親玉の胸と一緒に、手に握っていた水晶玉を貫いた。
「グハアッ!! マホウノ、スイショウガ!!」
水晶玉は砕け散り、リザードマンの親玉はグレイドラゴンの肩から下へ転落した。
吊り橋で待機していたリザードマンの部隊が、その光景に悲鳴をあげる。落下したリザードマンの親玉のもとに駆け寄って、この場から運び助け出そうとしている。
「ちょっと厳しいかもしれんけど、遺恨を残すという意味でもこのまま逃がさない方がいいかな」
考えていると、オレの足の下にあるグレイドラゴンの背が大きく動き揺れ出した。まるで地震。
グオオオオオオン!!
きっと、あのリザードマンの親玉がこいつを操っていた水晶玉が壊れたので、洗脳が解けたのだろう。グレイドラゴンは、もっと大きく身体を揺らした。オレは、体勢を崩して地面に落下――叩きつけられる所で、くるっと回転して華麗に着地した。
「ふう……あぶねえ。しかし、こいつこのままにはしておけないな。まいった……どうするかな」
眉間に皺、首を傾げる。刹那、グレイドラゴンの大きな爪の一撃がオレを襲った。
咄嗟に横転してかわすとグレイドラゴンの一撃は、勢い余ってオレが先程までいた場所をえぐった。地響き。あんなの喰らえば、爪で引き裂かれるというよりは、潰されて内臓破裂になるだろう。
「うおおおお!! このクソドラゴンがあああ!! ぜってーなんとしてもこのあたしが、街へは入れねえからな!!」
突如大きな戦斧を振りかぶって、防壁の上から褐色の少女が飛び降りてきた。
飛び降りながらも、ドラゴンの腕に大きな一撃を入れる。ノエルだ。ノエル・ジュエルズ。たまらずに悲鳴をあげるグレイドラゴン。少女はその返す刀で、戦斧をオレ目掛けて振ってきた。
なんとか回避したところを、今度は別の方向からファムが斬撃風を放ってきた。風の刃がいくつも飛んでくる。
「くそっ! どいつもこいつも皆殺し大作戦かよ!! グレイドラゴンよりお前達の方が怖いわ!! ≪風の刃≫!!」
こちらも風の刃を放って、ファムの斬撃風を打ち消した。しかし、ほっとするのも束の間。やったと思ったら、今度はノエルの戦斧がオレを襲う。バク転で避けると突風魔法を放ち、彼女の身体にお見舞いした。
しかしノエルは、戦斧を大きく地面に叩きつけるとそのまま地面の岩ごと引き抜いて壁を作り、豪快にオレの突風魔法を防いだ。
ニヤリと笑みを浮かべるノエル。だが次の瞬間、グレイドラゴンの尻尾がノエルの身体を横薙ぎにして吹き飛ばした。
「ぐわああっ!!」
「ノ、ノエル!!」
ノエルも心中は、ファムやミューリと同じ思いなのだろう。襲ってきた来たノエルが、グレイドラゴンの尻尾攻撃で吹き飛ばされたのに、オレは彼女の身を案じて声をあげてしまった。
しかし、駆け寄れない。隙を見せるとノエルのように、たちまちやられちまうからだ。よろよろと立ち上がるノエルを目にして、少しホッとしている自分がいる。
オレとファムとグレイドラゴンで、再び睨み合う形になった。
「くっそー! これはどうもまいったぜー。どうすっかなーー」
「ファムは、まいってない。別に余裕」
「はん、どうだか」
「余裕。でも、ルシエルがどうしてもっていうのなら、まずはあのグレイドラゴンを倒してから、さっきの戦いの続きをしてもいい」
ちらりとグレイドラゴンを見ると、今にもまたあの野太い光線を口から発射してきしそうな様子だった。
そして、身体全身はまるで岩石のよう――地竜と言われているのも納得できる。あれに傷をつけて倒す程のダメージを与えるというのも、なかなか骨が折れそうだ。
「よーし! 解った! それじゃ、まずはあのグレイドラゴンをなんとかしようぜ!」
「うん、それでいい? ノエル?」
ファムがそう言うと、グレイドラゴンの尻尾攻撃で遥か向こうまで吹き飛ばされたノエルが、怒りの形相で頷いた。重量感のある戦斧を肩に乗せて、のっしのっしとこちらに歩いてくる。
「ああいいぜ!! まずは、あのデカブツからだ!! そうと、決まればあたしから行くぜえええ!!」
ノエルは、さっき受けた攻撃がよっぽど痛かったのか、顔は怒りに満ちていた。怒りながらも、グレイドラゴンに向けて駆けて行く。
グレイドラゴンは、自分に向かってくるノエルに気づくと、彼女をその大きな腕で叩き潰そうと振って来た。だがそれはさせない。オレとファムは、また同時に魔法を詠唱しグレイドラゴンに浴びせた。
「吹き飛べドラゴン!! 《竜巻発射》!」
「ファムの本気を見せてあげる!! 《風圧大砲》!!」
強風がグレイドラゴンの身体を捕らえ、吊り橋手前まで吹き飛ばした。
「せええやああああ!!」
ファムは、更に風属性魔法を使用してグレイドラゴンに向かっていくノエルの身体を宙に巻き上げた。
グレイドラゴンの丁度喉元まで飛んだノエルは、両手で戦斧をぐっと強く握ると、思い切り振りかぶりグレイドラゴンの喉へ振った。その一撃は、まるで木こりが木を斬り倒すような見事な一撃。竜の鮮血。
グレイドラゴンがのけぞる様によろめくと、ファムが風属性魔法を詠唱し、なんと巨大なグレイドラゴンの身体を風で宙へ巻き上げた。ノエルが叫ぶ。
「お、おい! ファム! 無茶すんじゃねえ!!」
「やるなら今しかないんだ!! うおおおおお!! 《風撃大噴火》!!」
風属性の範囲魔法。グレイドラゴンの足元に緑色の発光した魔法陣が展開。強烈な突風が吹きあがりグレイドラゴンを物凄い速度で上空へ巻き上げて、この大洞窟の天井へ叩きつけた。竜の雄叫びのような悲鳴。
グレイドラゴンが落下してきて地面に激突すると、まるで地震のように辺りが揺れる。同時にファムの鼻から大量の血が噴き出した。
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〚下記備考欄〛
〇氷矢 種別:黒魔法
下位の、氷属性魔法。氷の矢を生成し、目標へ飛ばして射抜く。でも、氷の矢というよりは見た目的には、つららに近い。
〇風撃大噴火 種別:黒魔法
上位の、風属性魔法。広範囲の場所に狙いをつけて風の魔法陣を展開し、その範囲内にいるものを強烈な突風で上空へ吹き飛ばす。




