第408話 『風で語ろうぜ!』
グオオオオオオオオン!!
「おん?」
攻撃を仕掛けようと魔法を詠唱しようとした所だった。グレイドラゴンは先に何かを感じ取ったのか、オレの方を睨み付けると大きな口を開いて光線を放った。口から放たれる眩い程の光線。しかも、太い!!
「って、おい!! ひゃああああ!!」
周りにいたドワーフ兵達は、光線が飛んでくる前に走って逃げた。防壁から飛び降りたものもいる。
防壁を守らないと、ドラゴンだけでなくその後方に控えているリザードマン共も雪崩れ込んでくる。オレは、逃げずに両手を正面に翳して風の精霊魔法を放った。
「うおらああ!! そうは、させるかってんだ!! ≪竜巻重撃破≫!!」
竜巻。翳した手から強烈な風が迸り、捻れて竜巻になり走る。それがグレイドラゴンの放った光線に真正面からぶつかった。衝撃。高温の光とうねる風が、辺りに弾け飛ぶ。
オレの放ち続ける≪竜巻重撃破≫と、グレイドラゴンの口から放つ光線はそのままぶつかり続け、押し返せないまでもなんとか喰いとめる事ができた。
だがグレイドラゴンは口から放つ光線を出し続けたままで攻撃を緩める気配もない。オレの方も意地にはなって魔法を放ち続けてはいるが、このままじゃこっちの方が先に魔力が尽きて押し潰されそうだ。
「うらああああああ!! いい加減に、諦めやがれ!! ト……≪竜巻重撃破≫!!」
グオオオオオオン!!
僅かに押され始める。そして、均衡が崩れた。グレイドラゴンの光線が、オレの放ち続ける魔法をゆっくりと押し潰していく。
くそーー、全力で放っているのに! こうなったら、魔力が底をつく前に更に上の魔法で――
その時だった。空から防壁の上に誰かが降りてきたかと思うと、オレの放ち続けている風属性魔法と同等の魔法をグレイドラゴンに向けて放った。
「風よ、我が力となりて魔を打ち払え!! 《風圧大砲》!!」
「なっ!! ファム!!」
まるでヒーローのように現れたのは、なんとファムだった。
ファムから放たれる竜巻のような岩をも穿つような勢いのある風が、オレの竜巻重撃破と重なり、もう一段上の魔法のようになる。
そして、グレイドラゴンの口から放たれている光線を一気に打ち返した。オレとファムの風属性魔法は、グレイドラゴンが放つ光線をかき消しただけでなく、勢い余ってグレイドラゴンの頭部に直撃した。
グオオオオオオン!!
身体を大きく捩るグレイドラゴン。どうやら、ダメージはあったようだ。このまま攻めれば、一気にけりを付けられる。
「助かった、ファム! 本当にいい所に来てくれた! よし、このまま一緒にこのドラゴンを畳んじまおうぜ!」
言った刹那、ファムは槍を振り回しオレを攻撃してきた。慌てて太刀を抜いて、受ける。
「お、おい!! どういうつもりだファム? 冗談のつもりなのか⁉ だとしたら、こんな状況でやるもんじゃないぞ!」
「悪いけど、冗談じゃないんだ。ルシエル、君を拘束してアテナやルキアと共に、ドルガンド帝国へ引き渡す」
「は? なんだと? どういう事だ?」
「陛下を無事に助け出し、この国をリザードマンやドゥエルガル達から守る為には必要な事だ。でも悪いとは、思っている。帝国との関係を修復し、帝国にリザードマンやドゥエルガルを打ち払ってもらう為とは言え許される事じゃない。だから、このドワーフ王国の防衛が完全に整ったら直ぐにファムとミューリは、帝国へ行って君達を救出に向かう。命をかけて助け出す。神に誓って約束する。だから、ひとまずファムたちに従ってほしい」
「へえ、そうなんだ。……っって、そんなの、呑めるか!! リザードマン共は、オレ達が全部倒してやるから任せろ。ドゥエルガルだって、ルキアがその親玉と友達らしくて、今なんとか説得に向かっている。アテナもきっとなんとかするし、帝国なんかにすがらなくても、きっとアテナがクラインベルト王国を動かして救援に来てくれる。だから信じるなら帝国でなくアテナを信じろよ!」
「…………」
「あんなヴァルターなんて奴、信頼できないだろ。どうせ誰かを信じるなら友達を信じろよ!!」
本気でそう言った。だがファムの攻撃は止まない。もう、決断してしまっているのか……隙を見せると、どんどん風属性魔法を打ち込んでくる。
ファムも魔法にかけてはプロフェッショナルだが、槍さばきはそれほどじゃない。しのいではいられるが、この分じゃオレの説得なんて聞きゃしないか。
「ルシエル、すまない! 事が済んだら、絶対に助けに行くし、その後ファムとミューリにどんな仕打ちをしてくれもいい。償える事があるとすれば、なんでもする」
「は、裸になって街を歩けって言うぞ! さ、逆立ちでだぞ。できるか!?」
「なんでもするって言ったよ! ファムは本気!! だから、従って! ≪風破≫!!」
隙をついて、風属性魔法を使ってきた。衝撃波のような風。後ろへ飛んで、威力を殺すとそれに合わせてファムが突っ込んで来た。
「ルシエル!! 友人にこんな事をするなんて、ファム達はどうしようもなく酷い姉妹だと思う。だけどファム達にとって、やっぱりガラハッド王こそが一番大切な存在なんだ!!」
ファムの槍を太刀で受け止めた。競り合う。
「……わかった、ならいいさ。かかってこいよファム。ファムは、ファムの信じる道を行けばいい。オレ達はお前らの親友だからな。信じる道があるのならば笑って送り出してやるさ。でもな、オレだって信じる道があるからな。オレはアテナを信じる。それにあれこれ考えるのは、苦手なんだよ。そうしたければ、全力でこい!」
「なるほど、拳で語り合った方が早いという事か」
「拳? こういう時は、風で語り合うって言った方がオレ達にはしっくりくるんじゃないか?」
そういうとファムの顔つきが変わった。決心したような表情。再び距離をとり、また打ち合おうとしたところで、グレイドラゴンの咆哮! 防壁に突撃してきた。
物凄い衝撃とともに足場が揺れる。ファムも体勢を崩している。今だ!
「はは、もらった! ≪突風魔法≫!!」
「うわあっ!!」
咄嗟に放った風属性魔法。衝撃波のような風がファムを打ち、彼女を遠くへ吹き飛ばした。そして、オレは更に続けて突風魔法を地に放ち、グレイドラゴンの頭上まで飛んで背に飛び乗った。
「へっへーん。さてどうする、グレイドラゴンさんよ。身体を捻ってオレを攻撃するか?」
ふとグレイドラゴンの肩を見ると、そこにはマントを羽織った偉そうなリザードマンが立っていた。水晶玉のようなものを手に持っている。ふーん、なるほどな。
あいつだ。あいつが、リザードマンの親玉でこのグレイドラゴンを操っているんだ。オレとリザードマンの目が合ったと同時に言ってやった。
「親玉見ーーつけた!」
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〚下記備考欄〛
〇竜巻重撃破 種別:精霊魔法
風の上位精霊魔法。強力な竜巻を発射する魔法。発射したまま横薙ぎにする事もできる。また高威力で近くにあるものを巻き込む力も強いので、目標が小さい場合吸い込んで撃ち抜く事もできる。
〇風圧大砲 種別:黒魔法
上位の風属性魔法。高圧力の風を一気に放出し、目標を打ち倒す。発動時間の短さと、高い攻撃力に特化した魔法。




